第66話 まつりの後始末

 祭事というのはいつだって後片付けが一番大変なのだと強く思う。

 アイギスは自身の進退がかかった場でそんな事を感じていた。

 自分で言うのも難だが、なかなかに肝の据わった小娘なのだろう。

 そう、アイギス・アージェントはまさに東部領の次期領主を決める戦いに乱入したことの責任を取らされようとしていた。

「そうね、私を罰したいのなら罰すればいいわ。例えアレが魔神に関わるものだったとしても、試合に乱入したのは事実だもの。私は祭事を乱した責任を取り、貴方達は私を罰した責任を取る。それだけの話でしょ?」

 そう語るアイギスの姿はどこか不遜とも捉えられるほどに堂々としていた。

 彼女だって自身の行いが東部領に混乱を招くであろう事は予測できていた。

 それでも彼女は自身の盾があるべき場所を外敵と民の間であると信じている。

 たとえその結果、盾を構える身体の背後から傷つけられる事になったとしても。

「やはりアージェントの血筋の者など領地に招き入れるべきではなかったのだ」

 裁判にも似た雰囲気の中、東部領の重鎮らしき人物がそんなことを口にする。

 本来であればリュウガの父親、つまり現時点ではまだ東部領の領主である彼が治めるべき場ではあるが、伝統に則った試合に乱入したアイギス他を東部領に招待したのがリュウガであるために、この場には携われないでいた。

 ……裁判と呼ぶには少々一方的な展開だろう。

「……よって由緒正しい伝統と格式に則った試合に乱入し東部領を混乱に陥れた罪人、アイギスの罪は非常に重く、ここに処分を言い渡す……」

 思い描いていた人生よりもずっと短かった。

 だけど、大丈夫。

 護るべきものを護って消えていくのだから。

 後悔してないとは言えないけれど、私は私の盾に誇りを持っている。


 そして、轟音が鳴り響いた。


 少しばかり時間を遡って。

 西部領でキリコの無事を見届けたサニーは魔道列車に揺られることおよそ8時間、ようやく東部領に帰って来た。

「……お尻が痛い」

 痔ではない、断じて。

 出発の時点で一番早く東部領に帰って来れる座席がこれしか無かったのだ、一本遅らせて寝そべることができる座席を選ぶべきだったと後悔している。

 痛みを和らげる助けになればと思い、尻を軽く叩きながら列車を降りたサニーを出迎えたのは、どこかで見覚えのある見知らぬ女性、狐耳と尻尾が生えている。

「お待ちしておりました、サニー様」

 うやうやしく頭を下げる女だが、サニーには思い当たる節がない。

 ないったらないのだ、記憶力の問題ではなく。

「誰?」

「話は道中で、姪御さんの危機です。案内します」

 そう言うなりサニーの手を引いてスルスルと走り出していく女、それなりに利用客がいるはずの駅のホームや改札を誰ともぶつかる事なく駆け抜けていく、まるで事前に通るべきルートを知っているかのように。

 引っ張られるままにその様子を見ていたサニーは事態が只事ではないことを察した。

 ならばやるべき事など決まっている。

 街中まで出るとサニーは手を引いていた女を担ぎ上げて建物の屋上へと飛び上がった。

「私が走った方が早い、案内……」

「あちらに見える建物です、障壁が張ってあるので……」

 女も負けていなかった。

 急に担ぎ上げられたにも関わらず、それすら見越していたかのように案内を始める。

「ぶち壊して突入する!」

「ぶち壊してお入りください」


 そして、建物の屋根が崩壊した。

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