第14話 養成所入所試験:桐子
養成所の入所試験当日、白銀桐子はめちゃくちゃ焦っていた。
『アイギスとは別の会場になっちゃうし!知り合いなんか一人もいないし!というか魔界?の一般的な常識とかなにもわからないし!どうしたらいいのよ!』
係員の指示に従うだけ従いここにいるだけの必死で平常を装う桐子を見つめる受験生の姿があった。
「あの子、すごい美味しそう……ダメ、ダメよクロエ、ここは我慢しないと。推薦組でここに来てるってことはまた会えるかもしれないし、なんなら試験が終わったあとにでも声をかければいいのよ」
どこからどうみても不審者である、受験生のはずだが。
「よーし、全員揃ったみたいだな?推薦組の諸君、魔王軍養成所の入所試験にようこそ。お前らは誰かしらから推薦を受けて学科試験をパスして一足早くここにいるが、これからやるのは実技試験、戦闘能力や運動能力の確認だな。対戦形式は1対1、相手は今季養成所を卒業する連中だ。当然推薦組でも勝てる連中はあまり出て来ない、だが勝てなくても合格はできるから気負わず自身の実力を発揮してほしい。ここまで、なにか質問あるやつはいるか?」
係員……おそらく案内役の魔王軍の人から説明を受けます、試験用の試合形式も対戦相手もわかりました。ただ禁則事項の説明がありません、知らない間になにかやらかして減点を喰らいたくないので聞いてみましょう。
「やってはいけない攻撃、部位なんかはありますか?」
「ふむ……とくにないな。会場に入る前に渡すアクセサリーが万が一の場合、参加者を守ってくれる。仮に大怪我を負うような事態になっても救護班が常駐している、安心して行ってこい!」
それを聞いて安心しました、もう二度と相手に不要な怪我をさせるのは嫌なので。
「それじゃあ最初の受験生を決めるぞ……クロエ・シュヴァリエ!頑張って……あー、いや、ほどほどにな?」
個人の能力を測る試験において程々にを念押しされる人物は一体どういうものだろうかと思い待機場所から出ていくそれと思しき人物に目を向けると、何故か彼女と目が合った。そして微笑まれた。なんで?
「どうせすぐ終わるから次も決めるぞ……キリコ・シロガネ!会場に向かって……」
自分の名前を呼ばれた直後、試験会場の方から轟音が鳴り響く。なに!?一体何が起きたの!?
「クロエのやつ、やりやがったな?受験生諸君、会場の点検が入るからちょっとだけ待ってくれ」
時は少しだけ遡る。
「お姉様!第二会場の初戦はクロエちゃんですよ!」
「クロエの勝利に全ベット」
「ですよね、配当1.1倍ですって」
「当然よ、ローザの愛娘がこんなのに苦戦するわけないじゃない」
引き続き観客席で受験生を対象にした賭け事に興じるサニーとナタリー、ベットが締め切られ試合開始とほぼ同時に赤黒い雷が第二会場に突き刺さり轟音を上げる。
「クロエ……もう少し手加減してあげてもいいんじゃない?」
「誰かさんのせいで怒ってるのかもしれませんね」
「私この後あの娘と顔合わせなきゃいけないの?嫌だなぁ……」
この試験方式が採用されてからおそらく最速の記録でクロエは勝利を収めた。
一時待機を命じられた控室で待ちぼうけを食らっていると係員に呼び出された。
「キリコ様、会場の点検が終了しましたので入場願います」
「わかりました!今行きます!」
初陣というほどでもないが魔界に来て初の実戦、今できることを全部やろうと桐子は気合を入れる、その手にはしっかりと投槍器が握られていた。
試合を行う試験会場に入る。対戦相手との距離は20メートルぐらいだろうか、突撃するにはちょっと遠いが投槍器の間合いにするにはかなり狭い、会場自体はかなり広さに余裕があるので開始と同時に引いてしまうのもありかなと桐子は思う。
「両者準備はいいか?」審判が問いかける「始めっ!」
実技試験が始まる。
ところ変わって観客席、サニーとナタリーは売店で買ってきた軽食をつまみながら引き続き受験生を対象にしたギャンブルに興じていた。
「お姉様!続けて第二会場でキリコちゃんの試合ですよ!」
「持ち金全部、桐子の勝利一点買いで」
「買いました!ところでお姉様、キリコちゃんに対人の体術なんていつの間に教えたんですか?」
「え?私は別に教えてないけど……」
「それじゃあこっちに来る前にすでに習得していたってことですか?」
「たぶんね。まあ、試合を見たらわかることもあるんじゃないの?」
試合開始直後、桐子はその左手に槍を生成し右手に持った投槍器につがえて投げる。
この二週間、毎日魔力が空になるまでひたすらに練習を繰り返した動きは流れるように早く先手を取るのに十分すぎる速度だった。
固有魔法:武具創造・槍
桐子が使える固有魔法に名前を付けるならおそらくこうなる。金属製の武具を作り出すことができ、槍に分類される武器の生成時に消費する魔力量を軽減する。
魔法が使える環境下においても高速で飛来する質量攻撃は対処をするのが難しい、炎や電気で襲いかかる金属槍を打ち払えるだろうか?氷や土塊ならなんとかなるかもしれないが、かと言って投擲を確認したあとにこれらの防御手段を成立させることはまた難しい。回避か防御を相手に押し付けるあたりが投擲による攻撃の優位性である。
一本目の槍を投擲したあと、桐子は会場を目一杯使って距離を取る。50メートルに満たないくらいの距離だろうか、まだまだ投槍器の間合いとしては近いがこの距離ならそれなりに力を入れて投げられる。
二本目の槍を生成して投擲、投げたら軸をずらすように横に走りながら三本目。
相手は、距離を詰めてこない。対応に手間取っているのか様子を見ているのかは分からないけれど近づいてこないならこちらのペースで戦闘を進められる。
槍を生成して投擲、走って槍を生成して投擲、さらにもう一つ。
流れるように一連の過程を繰り返しながら対戦相手の様子を確認する、有効打はなし、目線はこっちを追っている、距離を詰めたいけれどこっちの出方を見ている……かな?
有効打が取れないなら攻め方を変える、桐子はそう判断して次に生成した槍を上空へ向けて投擲する。続けて二本目を生成、今度は相手に向けて直線的な軌道で、さらに軸をずらして桐子自身が突撃を仕掛ける。
本命は二本目の投擲槍と桐子自身の突撃で隠した上空から落ちてくる槍、そこから格闘戦に持ち込もうと桐子は考えていたのだが、その目論見は外れることとなる。
「あれ?当たっちゃった……?うわっ危なっ!」
突撃時に突き出した槍がまさかのクリーンヒット、そして直後に落ちてくる自身の投げ上げた槍、もう少しで手の込んだ自殺になるところだった。
「キリコ・シロガネの勝利です!」
会場に勝利を知らせるアナウンスが広がった。
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