深夜、雷に注意が必要です。良い判断だ
人は誰でも腹の中に怪獣を飼っている。
その怪獣は日常、非日常を問わずふとした時に顔を出し周りを蹂躙しつくす。
そんな怪獣にもなれない奴は獣以下の存在に身を落しゴブリンやオークへと変容する。
だからこそ
これがカリス教の教える教義の一節だ。
この定義はティリアの時代にスキルを怪獣の技能と定義したが故に発生した
創造神ティリアが破滅の大怪獣を出したとする創世神話もそれに拍車をかける。
結果、俺のような異世界転生組、トライは全員ユニークスキル持ちなことから深度一怪獣相当とみなされる。
そしてトライのユニークスキルは招来に使われた龍札に書かれた文字そのものだ。
俺が招来されたときに使用された龍札に書かれた文字は『
まぁ、よくあるかどうかはわからないが事故死の一種だ。
「今回の勇者検定にターン制を採用する」
『適用しました』
俺の周囲にパチッという音を立てて電気が走った。
俺の親の種族であるドサンコはそれ自体が半幻想種で全員が『
また俺たち
そんなドサンコの
服が形成できてるのからわかるように炭素ベースのちょっとした代物なら空気を素材に形成もできる。
今、俺が身にまとっているチューティアを転換したドレスと防具もユニークスキルを神銃パスカルから強制操作した結果で、防具に化身したチューティアによって『
このように複数のスキルが動作している状態のものを
そうはいっても深度の最大が実質六で、五を超えた時点で世界の敵になりえる強さだし、深度六となると異世界に手を突っ込めるクラスの異能になるので等身大の人間でそこまで行くやつはまずいない。
そして今の俺の強さはいくつかというとだな。
「先に言っておくがこの状態の俺は深度三だからな」
俺の深度にウィンディが息をのんだ。
深度三の平均的な大きさはビルだと五階以上。
重さは推して知るってとこでそれが百メートル三秒ほどで駆け抜けてくる。
その深度ということはそれを倒せるか、同じ脅威を持つって意味に該当する。
A級冒険者パーティでぎりぎり深度二相当、ウィンディはB級だからよくわかってるのは当然だ。
「拒否権は?」
じっと見つめてきたサニー。
「ねーよ。大体、嫌がるウィンディを勇者に指定したのはお前だろ。
「ぐぬぬっ」
それを口でいう奴を見たのは久しぶりだよ。
「わかってると思うが試験に落ちたらウィンディは始末するからな」
「え? 私、始末されるの?」
慌てるウィンディにサニーが渋々といった感じで頷いた。
「ウィンディは勇者に関する特例でアキラちゃんが放置してくれてます。なのでそれが解けると……」
「……そう、なんだ」
視線を地面に向けたウィンディ。
俺はウィンディの手をつかみ続けるサニーに視線を向けた。
「あとな、サニー。お前、自分が消えても代わりがいるって思ってるだろ」
「えっ? そんなことないですよー」
横を向いて明らかに嘘をついているサニーをウィンディがじっと見つめた。
「そうなの?」
一瞬、目が泳いだサニーだが腹をくくったのか視線をウィンディに合わせると静かに言葉を選んで話し始めた。
「
「な、なに……なにそれっ! 私、聞いてないよっ!」
激高したウィンディがサニーの両手をつかんで揺すった。
「なんでっ! どうしてそんなこと言うの!?」
目尻に涙が浮かんだウィンディにサニーが正面から向き合う。
「もくもくの怪獣さんに浸食されているからです、私も」
「えっ……」
揺する手が止まり絶句した勇者に魔王が語り掛ける。
その間にも俺の周辺に走る電が宙を舞い火花を散らす。
「何度か試しましたが除去は失敗しました。多分、ウィンディが
「じゃあなんでっ! なんで私を勇者なんかにしたのっ! 自分だけ死ぬつもりとかひどいよっ!」
ウィンディの激高にサニーが静かに首を振る。
「魔王は死にません、壊れるか消えるだけです。それに魔王は冒険者と勇者の糧になるためにいるんです。そのための魔王ですから」
サニーの言葉にウィンディがついに項垂れた。
「そんな勇者……なりたくなかったよ」
「それでも私はウィンディを勇者にできてハッピーでした」
「……私は不幸だよ」
まぁ、吐き出すだけ吐かせたしそろそろ頃合いか。
「なぁ、サニー」
「なんですか?」
首をかしげるサニーに俺はこう続ける。
「お前、バックアップないからな」
俺の言葉にしばし硬直したサニーが凍り付いた笑顔のまま止まった。
「またまたぁ、私とレインちゃんは当時の最高傑作ですよ。ドラティリアの大博物館にないわけがないです」
そういう半端な知識は覚えてるのな。
自分で最高傑作というポンコツ魔王も珍しいな。
まぁ、製造に莫大な人手と費用をかけたのは確かだが。
「お前、記憶なくしすぎて肝心なとこ忘れてるぞ」
「えっと……わかりません。なんですか?」
素直に聞いてくるとこはこいつの美徳だな。
「お前が言ってるのは赤の龍王様達のコレクションを並べたあそこだよな」
「はい」
通称、大ドラ博物館な。
「あそこにレプリカはないぞ。
「またまたぁ……嘘ですよね?」
手を振って笑いかけてきたサニー。
「マジだよ。大体、あそこを作った理由がよく暴走した神代の
「…………」
沈黙した俺の娘。
「あそこに収納するなら今のお前さんだよ」
「感染した今の私をですか」
「そういうとこなんだよ。その場合、お前は凍結封印されるから猫カフェの店長するのは無理だな」
黙り込んだサニーの手をウィンディがぎゅっと握った。
「約束、守るんだよね、サニー」
一瞬、困ったような表情を浮かべた後でサニーが吹っ切れた笑みを浮かべた。
「はいっ!」
こっちも準備はいいころ合いか。
「戦闘前の駄弁りはもういいな。これから勇者検定を始める、つっても今回は都市防衛じゃないからな。お前らが三ターン、死なないでお互いを護り切れれば合格にしてやるよ」
「「…………」」
俺の言葉に二人が視線を合わせた。
「サニーが摩耗で消失した場合には失格な。もちろんその時はウィンディは始末するからそのつもりでいろ」
収納からすっとシルクハットを出したウィンディ。
マジでオーロラの能力はしまらねぇな。
そんなことを考えてる俺の手元、パスカルの銃身にも電光が走った。
「まずはお前らのターンだ、かかってこい」
ターン制は手加減や指導したりするときに採用する制度だ。
今のアイツら相手に加減なしだと瞬殺だからな。
それだと意味がない。
「こ、こいって言っても……えっとえっとえっと……」
あわあわするウィンディにサニーがささやいた。
「まずはこっこちゃんです」
「わ、わかった」
いいのか、それで。
「こっこちゃん、来てっ!」
取り出してきたハットから次々とというか怒涛の如く出てくる黒い鶏たち。
水道からあふれ出る水のように次々と雌鶏が出てくるのはある意味壮観だな。
その一方でサニーはウィンディの片手を握って離さない。
二人の全身を白い光が取り囲むのが見えた。
「お願いこっこちゃんっ!」
一斉に俺に向かって襲い掛かってくるこっこちゃん集団。
『アキラ、どうしますか』
「ノーガードだ」
こっちも貯めてるからな。
それにあいつらの攻撃がどこまで通じるか見せといたほうがいいだろ。
「「「「「「こけーーーーーーーっ!」」」」」」
一斉に襲い掛かてくる黒い鶏集団。
確か映画であったよな、鳥に襲われる奴。
俺が開いている方の手をかざすとそこにこっこちゃんが接触、一羽が爆発するとそれに引っ張られる形で次々と爆発していった。
「や、やったのかな?」
「…………」
そこでフラグ立てるあたりがきっちりオーロラの勇者だよ、お前さんは。
先ほどと同じく風が舞い立てた土煙を流し去ると俺とあいつらの間の視界がすっきりと晴れた。
「無傷っ!?」
「むしろさっきの爆発だと普通の奴なら木っ端みじんだがな」
再び青くなったウィンディ。
今身に着けてる防具の部分にはタングステンより硬いといわれる怪獣の深度三での標準スキル堅牢鉄壁が発動してるからな。
ミスリルかオリハルコンでもぶち込まれない限りはそうそう攻撃は抜けねーよ。
ドレス生地や素肌のとこの守りはそれの半分以下だがこれくらいの痛みならまだ耐えられる。
「今の俺は通常物理攻撃はほぼ無効な」
「そんなっ!」
憤るウィンディと黙り込むサニーに向けて俺は銃口を向けた。
俺の手にある神銃パスカルは複数のスパークを立てて紫電の光を放っていた。
「なら次は俺のターンな。死ぬなよ」
そして俺は引き金を引いた。
パスカルの銃口から銃の大きさをはるかに超える巨大な雷が水平に二人の方に向かって走り抜けていく。
それは俺の方に向かってこなかった他のこっこちゃんを巻き込んで爆発と消滅を起こし激しい光によって周囲は真っ白に染め上げられていった。
やがて光が収まり周囲の景色が目に入ってくる。
「げぼっ」
そこには右半身の大きな範囲にかけて消滅したウィンディとそれに抱き着いた小さなサニーの姿があった。
血を吐いたウィンディをサニーがぎゅっと抱きしめていた。
さっきまでは十代中盤以降くらいの大きさだったサニーだが、光が消えた今では十代の前半かそれ以下の年に見えるな。
随分摩耗したな、サニー。
「
そうこう言っているうちにウィンディの半身が復元する。
復元つっても服は治らないから治った部分は裸なんだがな。
やがて蘇生したウィンディとサニーが二人そろって俺を睨みつけた。
「「…………」」
俺は肩をすくめてからこう言った。
「そんな熱い視線を向けられても茶も出せねーぞ。それと今の攻撃はまだ片手間だからな」
雷出せる程度だったら腐るほどいるんだよ、怪獣には。
銃弾に乗せて水平となると珍しいかもだけどな。
はっと息をのんだ二人に俺はスパークを放ち続ける神銃を見せながら続ける。
「一発だけで終わりだとは誰も言ってないよな。連射試してみるか?」
俺の言葉に二人の挙動が完全に止まる。
『アキラ、トールハンマーは?』
俺にだけ聞こえる音量で聞いてきたパスカル。
トールハンマー、それは俺が所属するエクスプローラーズのリーダーがつけた極めて中二的な俺の必殺技の名称だ。
「今は使わねーよ、言わせんな」
今更手加減はしねーが消滅させる気もねーよ。
どっちみちあれは
そんな俺たちのやり取りを聞いていたのか聞いてなかったのか、ウィンディとサニーがじっと見つめあっていた。
「ウィンディ」
「な、なにっ?」
「このままじゃ私達、約束を守れません」
「う、うん」
サニーのいつにない真剣な様子に押され気味のウィンディが頷いた。
「それにこの試験、合格しないとウィンディが殺されます」
「……うん」
ロリ化したサニーはウィンディの顔を両手で押さえて視線を合わせた。
「こうなったら全部やります。手段選びません、良いですか、ウィンディ」
「うん。わかった」
「本当に何でもしますか?」
「する」
頷きあった二人。
そしてそのままサニーはウィンディの唇に自分のそれを押し当てた。
目を白黒するウィンディをサニーがそのまま押し倒す。
『ロリが攻めなんですね』
「言ってやるなよ。深度解析を頼む」
『了解しました。MPアナライザー、開始します』
そしてさっきとは違う強烈なスパークが発生し二人の姿をかき消した。
再び視界が戻るとそこにはウィンディとサニーを足して割らなかったような愛らしい少女が立っていた。
腰まで伸びる赤い艶やかな髪に背中に広がる黒くて大きな翼、頭部に見えるピンク色に染まった獣の耳。
その全身は淡く光り周囲にその存在を強調していた。
「なぁ、あの翼なんだけどさ」
『
「やっぱそうだよな」
細身ながら大きめの胸と腰つきを持ったその少女の手には先端に丸い輪のついた一本の杖を持っていた。
技能型の合成深化をしたか、サニーらしいっちゃらしいな。
やがて意識が整ったのか俺の方をすっと見たその少女が口を開く。
「この試験、絶対生き抜きます」
そんな娘たちの宣言などお構いなしに解析が終わったパスカルが結果を報告した。
『解析終了、深度三』
お、今の俺の深度に並んできたな。
『アキラ、怪獣名を設定してください』
雌鶏怪獣、ではあんまりか。
そうだな。
鶏で晴れ、なら朝日絡みでいいか。
そんな俺の脳裏に臨時パーティで組んだことのある一柱の星神が思い浮かんだ。
随分前に消えたあいつの名前は……
「アウローラ」
『了解しました。
たしかオーロラの語源だったしな。
あいつには悪いが二代目はこいつで決まりだ。
「さぁ、セカンドターンだ」
暗く静かな闇夜、暁の獣がそこにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます