第22話 グラハムの戦慄
「――もう少し力を出してくれても大丈夫だ」
合気でグラハムの断空破を受け流した後ガレナがそう答えた。グラハムの表情が変わる。
今の断空破、実はグラハムはつい本気で撃ってしまっていた。それは反射的な物だった。真剣でこそなかったが正直例え王国の正騎士であったとしてもただでは済まない程の威力があった。
だが、ガレナはそれを息を吐くように合気で受け流してしまった。その上でこのセリフである。異様な圧すら感じ取りグラハムは背中に冷たい物を感じていた。
一方でガレナは、言葉通りの意味でそう伝えていた。きっとグラハムは自分に合わせてかなり力を抑えてくれたのだろうと。
しかし折角このような機会をつくってくれたのに、手加減させてばかりでは申し訳ないと思い、もっと力を出して構わないと、そう告げたのである。
二人の考えには完全な齟齬があった。故にガレナが今も自然体であるのに対し、グラハムの表情は険しい。
その様子にガレナは――
(もしかして生意気なことを言ってしまい怒らせてしまっただろうか?)
と逆に気がかりに思っていた。
それぞれの思惑が交差し、見学していた三人も固唾を飲んで見守っている。
するとグラハムが一旦まぶたを閉じ重たい口を開き始めた。
「この勝負、私のま――」
「旦那様、奥様よりお食事の準備が整ったとの事です」
グラハムが何か言いかけたところでメイドが食事の知らせにやってきた。
「――そ、そうか食事か。ならば待たせたら悪いな。ならば残念だがここまでということでどうかな?」
どこか安堵した表情でグラハムが告げると、ガレナは首肯した。
こうして二人の手合わせは終わった。
「ガレナ凄いです。お父様の技はワイバーンも両断するのですよ」
フランが駆け寄りガレナを褒め称えた。
(ワイバーンを倒す程度の力まで抑えてくれたということか)
一方でフランの話を別な意味で捉えるガレナ。ワイバーンはガレナにとっては大したことのない相手だ。
勿論一般的には簡単な相手ではないが、ガレナの中では自分が相手できるならFランク冒険者でも余裕なのだろうという考えなのである。
「まさか、ここまでとはな」
「全くです。あのガレナという男、実力の底が見えない――」
ガレナの自己評価とは裏腹に、彼の知らないところでサリーとスライの評価はぐんぐん上がっていった。
「さぁ行きましょうガレナ。お母様は料理はメイドと一緒になって作られているのです。とても美味しいのですよ」
そう言ってガレナの手を引くフラン。明るい笑顔で振り返り。
「私はお菓子作りにはちょっと自信があるんです。今度ガレナにも食べて貰いたいです」
「あ、あぁ。前の焼き菓子も美味しかったぞ」
そうフランに返す。魔境の途中で食べたお菓子は確かに美味しかった。ガレナに褒められフランも嬉しそうである――
食堂に通され大きなテーブルの席に腰を掛けた。ガレナの正面にはフランが座り、奥には公爵のグラハムが座る。グラハムの斜め前の席では妻のマチルがニコニコしながら着席していた。
食事の席にはサリーとスライの姿もある。今回は二人にも世話になったという理由でグラハムが食事に同席させたのである。
「さぁさぁ。ガレナ様も沢山食べてくださいね」
マチルがガレナに料理を勧める。テーブルの上にはできたての料理が数多く並んでいた。肉料理だけではなく魚料理もある。
ロイズの町の近くには綺麗な湖があるようでそこでとれた魚のようだ。
料理はフランが皿に取り分けてくれた。正直ガレナはこういった場所での作法がわからなかったが――
「ガレナ。これはお礼でもあるのだから堅苦しいマナーなんて気にしなくていい。好きに食べてくれたまえ」
どうやらガレナの様子からグラハムは食べ方について困ってることを察したようだ。
ガレナとしても折角の料理に手を付けないほうが失礼だと思い、自分なりに行儀よく食事を楽しんだ。
見慣れない料理にはフランが説明してくれたこともあり非常に助かったガレナであり、夕食を楽しむ事が出来た――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます