第8話 大きな狼
「むぅ、やはり塩と胡椒があると違うな!」
スライは焼けた肉にガツガツと齧り付きながら感嘆の声を上げた。長旅において食材の確保は大事だ。勿論旅に適した食料も携行するがそれらは大体干し肉などの保存食が多くお世辞にも美味しいとは言えない。
故に旅先での狩りも重要となる。
「しかしまさか魔境で狩りをするとは――」
サリーはどこか信じられないと言った空気を滲ませ語る。
彼女の言うように本来であれば魔境で狩りを期待するのは無駄とされる。魔境は凶悪な魔物や魔獣の巣窟だ。当然普通の獣は存在しない。
そんな場所で狩りを行うなど自殺行為以外の何物でもない――わけだが長年この魔境で修業を続けたガレナにとっては魔境で狩りを行い食料を確保することは当たり前の行為であった。
「勿論危険なスポットに行けばとんでもない相手が潜んでいると思う。だが、この辺りなら俺も長年過ごしてきたから比較的安全に狩りが出来ることはわかっていたんだ。二人も相当な腕とお見受けする。ならば俺なんかよりずっと上手く狩れることだろう」
「も、勿論だ。そうだ明日はこの私が一つ本物の狩りという物を見せてやろう」
「いや、やめておいたほうがいい気がするのだが――」
ガレナに言われスライは随分とやる気を見せているが、サリーは不安そうだ。
「このお肉凄く美味しいです。魔獣の肉は処理が難しいと聞きましたがガレナさんは凄い技術をお持ちなのですね!」
「い、いやただの合気だ――」
幸せそうに肉を食しガレナを褒め称えるフラン。
肝心のガレナはどこか照れくさそうにしていた。
『グルルゥ』
全員が食事を摂っているその時だった――黒い毛並みの大型の狼が五匹現れ一行を囲い始める。
「な、まさかこいつらダイアーウルフか!」
「ダイヤーウルフ――一匹でもBランク冒険者が束になって掛かって勝てないとされる魔獣ですな。それが五匹も!」
「お嬢様私の後ろに! 決して離れないでください!」
スライが緊迫した声を上げ、ハイルはダイアーウルフがどれほどの強さか基準を示した。
女騎士のサリーは即座にフランを背にして立ち剣を抜いて注意を促す。
そしてガレナは――
「Bランク冒険者が束に? いやそれなら勘違いだろう。これはちょっと大きいだけの狼だ。きっと食事の匂いに釣られてやってきてしまったのだな」
「……は? い、いや私が見間違うわけない! それは確かにダイアーウルフだ!」
ガレナがあっけらかんとした調子で告げるも、スライはありえないといった顔を見せた。剣を抜くもあまり余裕が無さそうであり緊迫した様子が感じられる。
「これによく似た狼もいるということか――」
「グルルルゥ!」
ガレナが考察するようにして呟くと、ちょっと
「ガレナさん危ない!」
「問題ない」
慌てて叫ぶフランにあっさりとガレナが返す。そして飛びかかってきた狼の牙をその腕で受け止めた。
「そんな! 腕が持っていかれるぞ!」
「合気――」
サリーが叫ぶ。しかしガレナが呟いたその瞬間腕からすっぽ抜けるようにして狼の巨体が宙を舞う。
「キャイン!」
落下したちょっと
「全くいけないぞお前達。今は俺たちが食事中だ。わかるな?」
「「「「「――ッ!?」」」」」
仲間が倒され怯んでいた狼たちはガレナの圧を受け、一様に目を見開き耳を伏せガタガタと震えだした。
そして――
「「「「「キャインキャインキャインキャイン!」」」」」
何と尻尾を巻いて逃げ出してしまったのだ。この光景にその場の全員が呆気にとられていた。
「……お、追い払ったのか?」
「あぁ。あれの肉はあまり美味しくはない。勿論どうしてもやるつもりなら致し方ないが、食べもしない相手の命を奪うのはな」
ガレナが自分の考えを述べた。もっともスライが聞きたかったのは殺すか殺さないかでは無かったであろうが。
「素晴らしいですガレナさん! 相手がたとえ魔獣でも無駄な殺生はしないその精神立派です」
「いや……魔獣ではないと思うが――」
どうやらフランにはガレナの考えが心に刺さったようだ。
ただガレナにとってみればやはり今の相手はちょっと大きなだけの狼でしかなかったわけだが。
「まさかここまでとは――」
ガレナの強さにハイルも随分と驚いているようであった。本人に全く自覚はないがその合気の強さは確かに桁外れなのである。
「た、確かに本当に魔獣ならこの程度ですむわけない。ガレナの言う通りちょっと大きいだけの狼だったわけか」
「いや流石に無理がないか!?」
そしてもうひとりガレナの話に納得仕掛けてるスライであったが、すぐさまツッコミを入れるサリーなのであった――
あとがき
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