全能感に御用心
シヨゥ
第1話
友達は昔からシミュレーションゲーム、特に育成を目的にしたゲームが好きだった。なぜそんなに好きなのか。そう尋ねると、
「プレーンなキャラクターが、自分の選択ひとつでその生き方を変えていく。その全能感がたまらない」
と言う。
「でもどうせプログラム。変わるといっても製作者が意図して作ったエンディングにしかたどり着かないわけだ。それは全能感とは呼ばないだろ」
分からないでもない。だが僕にはそう思えてしまう。
「確かにそうなんだが」
「製作者の意図を読んで、選択を行い、自分の望むエンディングへとたどり着く。シミュレーションは製作者の思考を読み取るところに面白さがある様に思う」
そう言うと友達はコントローラーを置いた。
「どうした?」
「納得してしまった自分が悔しくて」
「なるほど」
「ゲームじゃ本当の全能感を味わえないんだな」
「そりゃあそうよ」
「となると……全能感を味わうには……子供?」
「やめとけやめとけ。親に指示されたどおりに生きることを強いられた人生を考えてみろ」
「辛いな」
「辛いだろう。だから全能感を味わうために子供を作るなんて絶対思っちゃいけない。というかそもそも相手がいないだろう」
「……」
考えるように黙り込んだ。
「どうした?」
「実は、いるんだな」
驚愕である。ちょっと言いにくそうなのがなんだか腹が立つ。
「でも、別れた方が良いのかもな」
「嫌いなのか?」
「そうじゃなくてさ。目的があってさ」
「結婚じゃなくて?」
「それは5年後、10年後の話として考えているんだけども」
「なんだ。真剣に考えているんじゃないか」
「付き合う以上は真剣だ。危ない橋を渡っているしな」
「危ない橋?」
「まあ写真を見れば分かるか」
そう言って向けられたスマートフォンには制服の少女ともいえる女の子が写っていた。
「高校生?」
「中学3年生」
「ということは歳の差10歳か。年の差は関係ないといえば関係ないが……中学生は、お前、犯罪だよ」
「だよな」
「どうして中学生と? 年下好きだっけ?」
「この子の人生を変えてみたいと思ったことがきっかけなんだ」
「それが目的?」
「そう」
「……全能感を味わいたい?」
「……どちらかと言えばそう」
絞り出した質問に絞り出したように答えが返ってきた。
「だから別れた方がいいかなって」
そう続ける友達の顔は真剣だ。
「目的が不純だったように思えてきた」
「体目当てじゃない分マシだがな」
「それこそ犯罪じゃないか」
軽口にちょっとむきになる。それだけ本気ってことだろう。
「これはあくまでぼくの意見だが」
だからこちらも真剣に考えてやろうと思いそう前置きをして少し考える。そして、
「好きあっているなら今の関係のままでもいいと思う」
とまずは伝えた。
「ただ彼女の人生はまだ始まっていないような年齢だ。全能感を味わいたいからってひとつの道を選ばせるようなことはやらない方がいいだろう」
「ひとつの道?」
「そう。悩んだときにいくつもの道を示してやるんだ。選ぶのはお前じゃなくて彼女。彼女本位で物事を進めるんだ」
「なるほど」
「こうすれば多少の全能感を味わえつつ、彼女は彼女で生き方を強いられることがないから辛くはないと思う」
ぼくの意見に友達は頷いている。きっと言葉を咀嚼しているのだ。
「これからも付き合い続けようと思う」
しばらくして顔を上げた友達はそう宣言した。
「彼女の人生の可能性を狭めないよう、年長者として頑張るよ」
「そうか。まあ頑張れ」
「他人事だな」
「他人事だもの」
「そりゃそうだ」
そう言って友達は笑う。いつもの笑顔だ。この顔ができるのなら大丈夫だろう。そう思いたい。
全能感に御用心 シヨゥ @Shiyoxu
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