そしてまたその次の日。同じ場所での待ち合わせ。駅前で待ち合わせるのが便利ではあるものの、毎日変化がなければゲームを進めていくにも少しマンネリを感じてしまう。

 遠くから映見の様子を探るのも、隠れている場所に限りがあって簡単に見つかってしまう。

 いい対策もないまま、普通にそのまま制服姿でやってくると、映見にはすぐ気づかれた。

「あら、ストレートなお出まし」

「毎日同じ場所が続けば君に有利なのは仕方がないじゃないか」

 特に対策がなければ、気づかれてもさっさと写真を撮って帰った方がいい。ついため息まででてしまった。

「ベストをつくせ!」

 映見はコーチのように喝を入れる。

「ゲームを仕掛けてきた君からそんな言葉を掛けられてもさ」

 僕は情けなくなってくる。自分自身全く張り合いがないし、自分に不利のまま続けている意味がないように思えてきた。僕は早く済ませようと投げやりにカメラを向ければ、映見は首を横にふる。

「透は楽しくなさそう」

「楽しいとかいう問題でもないだろう」

「だけど覇気が感じられない。もう少し本気入れて頑張ってほしいな。そしたら私も燃えるのに」

「燃えたところで、どうせ僕には気づくんだろ」

 四回目で映見も物足りなさを感じている様子だ。

「やっぱり待ち合わせ場所が駅の周辺だけじゃ芸がないよね」

 芸がないという点で、映見は一体何を求めているのかわからなくなってくる。

「だけど明日は土曜日だから、どこか他の場所にしてくれないか」

 僕にとっても別の場所の方がまだチャンスがあるかもしれない。

「それって、私とどこかへ行きたいってこと?」

 映見は一瞬目をきらめかせて、にやりとした。

「えっ?」

「それじゃ、明日は買い物に付き合ってもらおうかな」

「なんでそうなるんだ?」

「私が買い物に夢中になっている間を狙うって手もあるかもよ」

 意味ありげに笑う映見。

 考えてみればそれはいけるかもしれない。僕はあっさりとそれに承諾した。

「それじゃ、場所は後で連絡するとして、今日の一枚を早く撮って」

 いつもの笑顔が目の前にある。

 写ルンですを構え、パチッと乾いたシャッター音を立てる。四枚目もまた笑顔が収められた。残りあと二十三枚。まだまだチャンスは十分にある。明日こそはと願いながら僕たちはまたその場で別れた。

 ひとりになって今日のことを冷静に考えた時、僕はハッとした。もしかしたらこの単調なやり方は、最初からふたりで出かけるように映見に仕向けられたのではないだろうか。

 やられた。

 なんだか文句を言いたくなってくる。僕は立ち止まり、スマホを取り出した。そこに収められた笑う映見の顔を見つめ、イーッと悪態をついてしまう。

 見てろよ。明日こそ隠し撮り成功させてやるからな。

 そう強気になる反面、何を着ていこうかと無意識に考えていた。

 

 その日のメール連絡は家に帰ってもなかなか届かなかった。明日どこへ行くのか映見も考えているのかもしれない。

 買い物に付き合うと言ってしまったけど、これって世間で言うデートにならないだろうか。彼女と接する時間が長くなってくると僕は少し不安になる。

 なんでそんなに不安になるのか。それは僕には法則が発動してしまうという呪いがあるからなのだが、それだけが理由ではないような気がしてくる。今はあまり何も考えず、早く条件にあった写真を撮ることに専念する。

 そしてメールの着信音が届いた時、僕はすぐさま確認していた。


 ――明日から十連休のゴールデンウィークだね。この休みを透とどう過ごすか考えてました。一緒に何をすべきだと思う? 詳しいことはまた明日考えようね。十一時にO駅の中央出口で待ってます。


 それを読んだ時、僕はスマホを落としそうになった。

 ゴールデンウィークの連休を全て映見と過ごす? 素っ頓狂な声が出そうなところを堪え息を止めた後、大きなため息を吐いていた。

 写真を撮る条件とはいえ、こんなにも長く一緒に居る機会があることに憂慮が強くなる。果たしてこれでいいのだろうかと思いつつ、鞄からインスタントカメラを取り出して暫くそれを見つめる。

 早く条件に合う写真を撮る事ができないだろうか。どんなに知恵を絞ってもため息しかでなかった。


 その翌日、あまり成功する気がしないまま早めに待ち合わせの場所に着いた。連休初めとあってこれから旅行に出かけようとしているたくさんの人がひっきりなしに歩いて、大きな駅の構内はごちゃごちゃしていた。

 中央口の改札口を出た空間は広すぎて、どこから映見が現れるのか検討も着かない。

 身を隠す場所がないか辺りを眺める。キオスクが島のように構内にあり、柱が所々にどしっと立っている。その向こう側は他の乗り場に向かう通路を挟み、観光案内所、切符売り場、コンビニストアや喫茶店などが入っている。

 構内左右の両端の出入り口もどこかにつながり、人の波があちこちから押し寄せていた。

 映見の姿を見つけるのが難しいと思ったとき、映見も僕の姿を見つけるのが難しいのではないだろうか。

 僕が映見の存在を早く見つけられれば、気づかれずに写真を撮る確率が高くなる。

 ここで確実に撮れると言い切れないのがちょっと気弱になってしまった。そのせいで、僕が映見に気がついたときには、彼女は遠くから手を振っていた。

 肩をうな垂れて人の流れを避けながら僕が近づくと、彼女の様子がおかしい。手を振るけども僕と目線が合ってない。

 ようやく側に近づいたところで映見は「はっ」と体を震わせた

「あっ、透!」

「何をびっくりしてるんだよ。そっちが先に気がついたくせに」

「ううん、気がつかなかったんだ」

「えっ、じゃあなんで手を振ってたんだよ」

「さすがにこんなに大勢の人がいると、すぐには見つけられないと思って、それで先に手を振って撹乱作戦してたの」

 僕は呆れてしまう。僕が見つけたとき映見はまだ僕の存在に気がついてなかったということだ。そんなチャンスがあったのに、はなっから負けたと思ってカメラすら取り出してなかった。こんな近くで写真が撮れたのに僕は違和感に気がつかずにみすみすチャンスを棒に振ってしまった。

「なんだよ、もう。嘘をつくのは反則みたいにいったくせに」

 僕が悔しがると、映見は楽しそうに笑った。

「別に手を振るのは嘘をついてるわけじゃないわ。防御よ、防御。だから言ったでしょ、ベストをつくせって。疑わずに簡単に諦めた透の負け」

「映見が一枚上手だったんだよ」

「あっ!」

 映見の突然の叫びに僕はドキッとし、周りを過ぎ去っていく人々の視線を集めた。


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