第2話 風林火山
信長の一体となった一軍は、今川義元の幕舎を目指して一直線に進んでいった。
今川義元は信長が来ている事にすら、気づいてなかった。騒ぎの声は雨音ではっきりとは聞き取れず、酒の飲みすぎで、勝つと分かっている戦のため、高揚しているのかと思った。家臣が騒ぎすぎるなと、注意しようと幕舎から出た途端に、義元の目の前で倒れた。
義元の酒が注がれた手が止まった。「何事だ?!」彼の怒声に対して、一人の男が入ってきた。義元公とお見受けする。義元の家臣が立ち上がって叫んだ。
「何者だ?!」
「信長公が家臣、服部子平太、見参!!」
「信長だと?!! 打ち取れ!」
服部子平太の槍さばきで、義元の重臣は一撃の元に倒れた。そして敵に刺さった槍を引き抜く為に足で、その者を押して槍を構えた。服部子平太の槍は今川義元の足に突き刺さった。しかし子平太も、足を太刀で斬られて倒れた。
「言え! 本当は誰の手の者だ?!」義元は三千しかいない信長が来ている訳がないと、決めつけていた。
「信長公が家臣、毛利新介!! 助太刀致す」男の刀は今川義元の腹部に刺さった。
何かの悪い夢でも見ている気分だった。十倍はいる我が今川家が……毛利新介が膝をつき、「
幕舎から出て、義元の首を槍で突きあげ、高々と上げた。
織田勢は、今川義元の守りの任についていた逃げる兵たちを、次々と倒していった。
城では濃姫を始め、腰元たちは皆、薙刀を持っていた。
「信長様の勝利でございます!」
濃姫は信じられなかった。「殿がお勝ちになったのか?」
「はい! 義元を打ち取り、信長公の勝利でございます!」
濃姫は腰の力が抜けた。自分が信長の能力を高く評価し、最初は斎藤道三の娘として、殺すつもりで嫁いできたが、それでも信じられない程圧倒的な兵力差があった。
皆、信じられないという面持ちで首を持参して帰ってきていた。
「御濃、今帰ったぞ」その顏は自信に満ちていた。
「おかえりなさいませ」御濃は涙を出して喜んでいた。
今川義元の死は、全国に轟いた。
そして信長も同様に、天下に覇を唱える者となった。
皆が首改めの為、腰元たちが首を洗っていた。
そんな中、首も持たない二人組が次々と入ってきた。
それぞれが信長に、何かを報告しているのだけは分かったが、声までは聞き取れなかった。皆、初めて見る者たちだった。
全部で五組の者たちだった。その中には女性もいた。
「信玄公に大変助かったと、信長が申していたとお伝えくだされ」
かれらは礼を取り、そして出て行った。
「信長様、何者でございますか?」木下藤吉郎が尋ねてきた。
かれらの出で立ちから、戦に参加した者では無い事は分かったが、皆、腕の立つ者だと言う事は分かった。
「信玄公からの助勢者たちだ」
「戦では見かけませんでしたが……」
「あの者たちは特別な者たちだ。我らにも必要な人材だ。藤吉郎、今川勢の攻勢を考えてみよ。多くの砦は落とされたが、この城周辺の砦や城は、落とされておるまい」
「あの者たちは全員で十名ほどでございます。かれらだけで守ったと、お考えなのですか?」
「恐ろしい者どもよ。奴らの敵は人間ではない。妖魔と闘う者たちだ」
信長は不敵な笑みを浮かべて言った。
忍者の知らせで、今川義元の敗報をいち早く聞いたのは、武田信玄であった。
同盟を結んではいたが、今川勢が多少苦戦するくらいに思っていた。
そして今川義元の死によって、彼は誰よりも早く動いた。
「誰かおるか?」
「御屋形様、如何されました?」
「織田信長に今川義元が敗れて死んだ」
「織田が?!」
「そうだ。今川義元がいたからこその三国同盟であったが、死んだのであればすぐに動くぞ。武将を集めて兵を動員せよ」
「どこを攻めるおつもりでしょうか?」
「駿河だ。事は急を要する。急いで集めよ」
「すぐに出陣できるよう準備致します」
「信繁を大将として、先陣は秋山信友と原虎胤にして、山県昌景、馬場信春に北条への圧力をかけさせ、小山田信茂に後陣を務めさせよ。そして真田幸隆に使者を送れ」
「動く時が来たとだけ、伝えさせよ。それだけで全てが分かる男だ」
「わかりました」
山本勘助は立ち上がった。そして歩きながら考えた。
(義元公が死んでから、すぐに駿河を攻めるのは何故だ? 北条を敵に回してまでを考慮した人選だ。なるほど。御屋形様は金山と港を押さえるおつもりか。後を継ぐ今川氏真は、一国さえも守れない男だ。真田幸隆は
今川義元の死から間を置かず、三河の松平元康が、松平家康として独立を宣言した。
この時、家臣たちの家族は、今川家の人質として置いていた。今川氏真は人質を上手く使わず、処刑を命じた。
これにより完全に、今川家は三河武士を敵に回した。すでに才ある者たちは、今川家には残っていなかった。
そして織田信長はすぐに松平家康に同盟を申し込んだ。その時、配下でないのであれば同盟を結ぶと使者に伝えた。
まだ幼い頃、松平竹千代として織田家の人質になっていた。幼馴染のような関係であった。しかし、彼は織田家、今川家と方々へ人質と出されていたため、配下でないならと伝えた。信長はこれを即座に了承し、同盟は結ばれた。
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