チーム勇者との飲み会(前編)

 私たちはギルドからほど近い、大衆居酒屋に来ていた。まだ日は高いのに、店内はすでに賑わっている。オープンと同時に入った私達は、ゆったりとした座敷に陣取ることができた。


「まあ色々あったけど、結果オーライってことでいいでござるな」

「ちょっと! まだたんこぶ痛いんだからね! 全然オーライじゃな(むぐぐぐ」

「――アリス、今は黙ってろ」


 美少女エルフなイッシーの言葉に噛みつくアリスを、すかさずガチムチ白虎のナイジェルが取り押さえてる。――ほんとにアリスこの娘ったら、落ち着きがないわね。


 最初の一杯がそれぞれの手に渡ったところで、最年長のユッキーが黒髪をさらりと揺らす。


「とりあえずお疲れさまっしたー。かんぱーい」

「「「かんぱーい」」」


 見た目と声はあんなに色っぽいのに、乾杯の音頭は明らかにおっさんだ。でも私達は一切気にする事なく、そろってジョッキやグラスを掲げる。するとすぐ隣のテーブルから、ほぼ同じタイミングで声があがった。


「ともっち率いる『チーム』の気前良さに、カンパーイ!」

「「「かんぱーい……」」」


 アリスの元気な掛け声に対し、微妙にやる気のない様子で続くのはチーム勇者の面々だ。


「なんか感じ悪いなぁ。いやなら別に来なくてよかったでござるよ」

「そうそう。もともとオイラたちだけで打ち上げするつもりだったんだしにゃ」


 イッシーとハタやんが不満げにつぶやきながら、それぞれジョッキを傾けた。ちなみにイッシーは中生、ハタやんは黒ホッピーだ。


「ええっ、なに言ってんの!? 『詫びの一杯』は絶対逃さないんだから!」


 さっきイッシーが自身の『つよつよ』スキルである『空間移動』を発動させてしまった。宙から湧いて出てきたのは、なぜか新品の一斗缶。しかも私達ではなく、チーム勇者達の頭上にHIT。

 「……ってドリフかよ!」とすかさず突っ込んだのはハタやんだった。


 イッシー本人は、魔法を発動させたつもりは無いらしい。――うん、無意識に強力なスキル発動するの、やばいよなこれ。

 とりあえずアリスたちには私からごめんなさいして、最初の一杯奢るって言ったら大喜びで許してくれた。っていうか、わりと安上がりだね君たち。


「うふー、やっぱり冷えたコレに限るわー」


 アリスが嬉しそうに持っているメガジョッキ。それに入っているのは真っ赤でどろりとした液体だ。黒いコウモリの羽に尖ったしっぽを持つアリスに、とてもお似合いなそれはレッドアイだって。ビールとトマトジュースのカクテルだね。


「プハーッ、うめえ!」

「メガジョッキとか久しぶりっすねえ」


 ガチムチ白虎のナイジェルとダークエルフのノエルは、高級銘柄だというクラフトビールのメガジョッキを嬉しそうに持っている。

 その隣、トカゲ男ロイドの前には氷がみっちり入ったジョッキと、焼酎の一升瓶が鎮座している。ナイジェルは鼻先の毛に泡をたっぷり付けたまま、少し不満げにつぶやいた。


「ロイドよお。最初の一杯は奢りって確かに言われたけど、一升瓶ボトルで頼むとか反則じゃねえの?」

「そんな法外に高い銘柄じゃないでしょう? だいいち、ビールなんて薄いくせに苦いだけで、飲めたもんじゃないですからね」

 

 ロイドはそう言いながら、ほぼ原液ってレベルの濃い水割りを作ってチビリと飲み、青い舌でぺろりと唇を舐めた。その顔は実に満足そうだ。


「めんどくさいからアラカルト食べ放題&飲み放題コースにしてあるよ。最初は僕が適当に頼んどいたから、追加で何か欲しい人は、自分で勝手にやって」

「ありがとねユッキー」


 私は白ホッピーの入ったジョッキをご機嫌で傾けるユッキーにお礼を言った。さすが飲み慣れてるだけあって、最初の注文はいつも手際が良い。でも残念なことに、これって最初だけなのよね。どうせすぐに酔っ払ってダメになっちゃうから。


「さっすがさんらは、景気よくていいっすねえー。一番高いコースじゃないっすかー」


 チーム勇者あちらで最初の注文を片付けていた、ダークエルフのチャラい兄ちゃんはえっと……そうだ、ノエル。持っているメニューは私達のとちょっとだけ違う。一番お安いコースを頼んでいたらから、きっとお酒の種類とかが違うんだろう。

 それにしてもあのノエル君って、見た目と違って面倒見がいいところは相変わらずだわ。


「ほらアリス、うちはコースが違いますからね。便乗してそっちの酒頼んだら店の人に突き出しますよ」

「そ、そんなことしないもん!」


 あわてて否定するアリスだけど、この子さっきからうちのテーブルに置いてあるメニューを真剣に眺めてたのよ。きっとこっちで注文する気満々だったろうから、ノエルの警告はグッジョブだわ。


 私は手元にあるメガジョッキを掴み、濃いめのハイボールをごくりとやっつけて呟いた。

「それにしてもさ、ギルドからあんなすごい大金を貰えるとは思わなかったよねえ」


 焼毬やまりを完全浄化&トリュフ化した功績と謝礼だとかで、私達のチーム名義宛ですごい大金……なんと500万エラが支払われたの! これたぶん、四人で三ヶ月くらいは働かないで暮らせるんじゃないかなぁ。もちろん、いずれは働かないと持たない額だけど、ずいぶんと余裕ができたのは確かだわ。

 まあだからこそ、チーム勇者の連中に『詫びの一杯』を奢ったんだけどね。


 すると白虎ナイジェルが大きなため息をつく。


「そりゃあよ、あんなすっげえ焼毬新商品を生み出しちまったら、ギルドの連中も目の色変わるよなぁ……正直羨ましいわ。うちは万年貧乏だからな」

「さっき新しい依頼リストを見ましたけど、焼毬の採取依頼が倍増してましたね。さっすが冒険者ギルド。金になるとわかったとたん、仕事がお早いことで」


 そう言いながらトカゲ男ロイドは、半分ほどに減ったグラスへ焼酎の原液を継ぎ足している。いやもうそれ、グラスの中はほぼ原液じゃん。


 話の途中だけど、テーブルには次々と料理が運ばれてきている。ゆっきーが最初に頼んでたのは、ローストビーフにあっこれ馬刺し! 大好き! あとは串焼きの盛り合わせと、刺盛り。そしてごぼうの唐揚げ! うん、さすがユッキーわかってるねー、私の大好物を。

 あとは小ぶりなピザがある。でもこれ、山盛り乗ってるのは何これパクチー? あ、サッと自分の前に持っていくところを見ると、それハタやんのリクエストなのね。

 私はとりあえず、にんにくダレに付けた馬刺しを一切れ口に放り込んだ。んーおいちい。

 

 チーム勇者のテーブルにもそれぞれ料理が運ばれて、本格的に宴の開始。各々が食べて飲んでを数回繰り返した頃、チャラ男ノエルが口を開いた。


「そういやドンドラさん達、装備とかどうするんすか?」

「装備……って、なんの?」

「いや、ギルドからの依頼をこなすなら、それなりの装備を用意しておかないと危ないっすよ。武器はもちろん、防具とか」

「うわー、全然考えてなかったなー」


 するとアリスが私の腕に抱きついて、上目遣いでニッコニコしてる。


「ねえともっちー、明日そういうお店、案内してあげよっか! はお揃いだから、色々教えてあ・げ・る!」

「ほう、そうきたか。それならハタやんさん……だっけ? 俺なら獣人専門装備のショップを案内できるぜ」

「あー、じゃあイッシーはオレが案内してあげるっすよ。エルフ装備はわりと特殊っすからねー」

「え、じゃあ私は……」


 爆乳ユッキーとトカゲ男ロイドが、見つめ合って固まってる。そんな誰得な絵面もつかの間、先に口を開いたのはユッキーだ。


「竜人装備かー。どんなのがあるんだろ、楽しみだなぁ。ロイドさん、案内、ぜひ宜しくお願いしますね」

「は、はぁ……」


 ニッコリ微笑むユッキーの美貌は、傍から見ても眩しいわね。これはちょっと断れないだろう。ロイドは少し困った様子だけど、ちょうどいいから同種族同士ってことで、おまかせしちゃおう。

 それから私達は武器や防具、アイテム談義に花を咲かせるのでした。

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