ねえちょっと凄いのこれ!

 本当は私のことを『看板』って言いそうになったハタやんに突っ込み入れたかったんだけどそんな暇もなく、私は慌てて制止した。 


「ちょい待ちハタやん。この人達は私を助けてくれ――」

「――ナイジェルー、なんかトラブルっすかぁー?」


 うああもうー、また誰か来たよ!?

 私の言葉を遮るように現れたのは、褐色の肌に赤い瞳を持つ……おっと、なかなかの男前。

 短い銀色の髪の毛はツンツン立ち上がっていて、横に長い耳にはピアスがたくさんぶら下がっている。……ダークエルフ系かしら? 


 アリス達とお揃いっぽい作業着を着て、ポケットに両手を突っ込んだまま無駄にゆらゆら揺れながら歩いてくる。場違いなほどのチャラい雰囲気なそいつは、私の顔をチラと見て残念そうに呟いた。


「――お嬢、また他所の男にしてたんすか? 全く俺という男がありながら……」

「ノエルのバカ! いつあんたが私の男になったのよ!? 最初っから相手になんかしてなっ(むぐむぐ」

「――アリス。話がややこしくなるから、ちょっと黙ってろ」


 でっかい白虎に抱えられて、白いもふもふの手で再び口を塞がれたアリスが一生懸命ジタバタしてる様子は、ちょっとだけ可愛いかも。


「ともっちー、一体何があったでござるかー?」


 トテトテと効果音が聞こえそうな歩みで寄ってきたイッシーが、私の服をちょいちょいと引っ張りながら尋ねてきた……やだ何これ可愛いかよ。コレの中身が56歳のおっさんとか、今思い出したくなかったわ。


 ――まあいっか。ちょうど良いから、皆に聞こえるよう大きな声で顛末を説明してあげた。


「私がね、頭悪そうなおっさん……いや、に絡まれてたところを、こちらの白虎ナイジェルさんが助けてくれたの」

「そうでござったか。それはそれは、かたじけない」

「いや、大したことじゃない」


 侍口調でペコリと可愛く頭を下げるイッシーに、ナイジェルも軽く頭を下げた。ああよかった。なんとか誤解は解けたみたい。


 一触即発の状況を回避して安心してたら、これで話は終わったと思ったのか、アリスが再び私の腕に抱きついてきた。厚手の作業着越しにも伝わるこの感触。でっかいおっぱいをぐいぐい押し付けながら、今度は顔も近づけてくる。


「ねえあなた、トモッチっていうのね! 憶えた、憶えたわよぉーっ!」 

「おーい、こんなところに居たんですか。手続き終わったから次行きますよ……って、アリスは何やってんですか?」

「おうロイドか。お疲れ」


 ……なんだかどんどん人が増えるわね。次に白虎ナイジェル達の背後から現れたのは、二足歩行する竜……いやトカゲ? 他の三人はお揃いの作業着を着ているのに、ロイドと呼ばれたそいつだけはストンとしたシルエットの、シンプルなグレーのローブを纏っている。見えている顔から首元はすべて青くてキレイな鱗に覆われていて……うん、ちょっとイカついだねこれ。黒くつぶらなその瞳は、落ち着いた様子で私達を観察している。


 私達をしているかのような視線は、なんだか妙に居心地悪い。トカゲ男ロイドは一通り私達を観察し終えると、私の腕にしがみついたままのアリスに声をかけた。


「ほらアリス。用事が済んだので移動しますよ。次は冒険者ギルドの方にも顔を出す約束なんですから」

「ああん、そうだったぁー! ねえトモッチー! あたし達ね、この四人でパーティー組んでるの。ちなみに私がリーダーなのよ! 仲間はいつでも募集中だから、よかったら冒険者ギルドに来て!」

「え、あ、ああ……?」

「やったー! 今日はこれから夕方まで冒険者ギルドあっちにいる予定だから。受付で『勇者パーティに会わせて』って言えば、すぐ会えるようにしておくわ! じゃあね!」


 アリスは何度も振り返りながら、ごきげんな様子で手を振りつつ離れていく。チャラいダークエルフノエルは、何度か振り返ってこちらを見ていたけど、すぐにアリスを追っていった。そのすぐ後を、白虎のナイジェルは振り返ること無く出ていく。


 でもその後ろ、青トカゲロイドだけは、私達をじっくり最後まで観察してから去っていった。



 彼らを見送った後、ハタやんがちょっと小声で呟く。


「……っていうかさ、あの子『勇者パーティ』って言ってなかった? オイラの聞き間違い?」

「確実にそう言ってたね。すごいなぁ。異世界の勇者様かー。僕、なんだか楽しみになってきたよー」


 ゆっきーが妙に乗り気なのが笑う。本当この人、新しいもん(珍しいもん?)好きよねー。

 ああそしたらもしかして。ファンタジー界隈で昔から話題になってる、『ビキニアーマーが本当に役に立つのか論争』の結論を生で見られるのかも。

 そう思ったら私もちょっとだけ興味が湧いてきた……かも。


「勇者がツインテなサキュバス女子とは……なかなか美味しい設定でござるなあグフフフ」

「あ、あれってやっぱりサキュバスだよね!? ってことはともっち、んじゃねーゲヘヘヘ」


 なんだか妙にゲスい笑いを浮かべるイッシーとハタやんは……まあ放っておこう。そんな事より私、さっきからずっと気になってることがあるのよ。私はハタやんの肩をツンツンした。


「ねえねえちょっと凄いんだけど」

「どしたん?」

「腕にボインボイン押し付けられただけで、ちょっとおっきしてんのよこれ!」


 そう言って私が軽くお股を叩いてみせた途端、あっという間にゆっきーが私を羽交い締めにし、モフモフなハタやんの手が私の口を塞いだ。そしてイッシーが一言。


「女の子がそんな下品なことを口走ってはいかーん!!」


 ええー!? たわば先輩かよ!! って突っ込みたいけど、口塞がれてるから出来ないの。

 ――いや、わかってるよ、わかってるけどさぁ。私今男子なんだから、このくらい言ったっていいじゃないねえ?

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