8話 重症
ファミレスの皿洗いを今日も頑張った。間で少し解凍とか盛り付けも手伝った。セントラルキッチン方式だからそこまで調理スキルがなくても、解凍か温めるかして盛り付ければなんとかなる。
あれを調理と呼ぶのだろうか?
無事に仕事が終わり、帰ろうと店の裏口から出ると自転車に跨ってる希更さんがいる。
「希更さん?どうしているの?」
「たまたま近くに来たから、『えっと』約束通りにボコりに来たの!!」
「えー、なんか悪い事したかなぁ?俺ってイジられてただけだし」
「あんたバカなの?空気読みなさいよ!」
「空気も読めるし常識もあるよ。ちゃんと今朝の英語だけ間違いだらけなのもちゃんとフォローしたし」
「何でそうなるの!!ムカつくわね!やっぱりボコらせなさい」
言い終わる前にアイアンクローが炸裂する。
「いだい!!指が頭にめり込んでる!あだだだ、持ち上げないで首抜ける!痛いってばもげる!!」
希更さんの握力どうなってるの?強すぎない?
「ふん、これくらいで私は優しいから赦してあげる。あっそうそう、これどっちか飲む?」
ホット緑茶とオレンジ味の炭酸飲料のペットボトルがバックから出てくる。
「いいの?貰ったら返さないよ」
「いいわよ返さなくて、飲みかけなんて困るだけでしょ?」
「じゃあ、オレンジジュースで」
「ふーん、そっちなんだ。じゃあ私はお茶飲もっと」
「お小遣いが無いからジュースってなかなか飲めなくてさ。レ○ドブルはお父さんのがあるから飲めるけど」
取られないようにプシュと開けて口をつける。
「あんたねぇ、我慢しすぎでしょ?ご飯は食べてる?」
「最近はいろいろ食べてるよ。親父が再婚するまでは、てんしちゃんの栄養になるようにバランス良く食べてたけど、入院してるときは、もやし麺のもやし乗せうどんとか、もやし具のもやし焼き飯とか、だったし」
「あんたそれ全部もやしじゃない」
「もやしの煮物ともやしサラダともやし炒めとか美味しいよ?」
「私が悲しくなってきたわ」
希更さんがどんどん暗くなっていく。おかしいぞ。美味しい物の話なのにどうしてだ?
「なんかごめん」
「なんで謝るのよ?バカなの?バカだったわ!もう私の心の平穏のために奢らせなさいよ」
なんでバカだと奢られるの?後で請求される新手のイジメ?
「えっお返しギフトとかないよ?」
「あーもう!ムカつくわね!何よラーメンとかステーキとか言いなさいよ」
「プレミアムう○○棒って気になってたんだよ。プレミアムってどんな味なんだろね?」
「あんた、マジで・・・言ってるわ、ちょっと待ちなさいよ」
俺の顔を見て、納得してスマホで電話する希更さん。
「店長、今大丈夫ですか?えっとプレミアムう○○棒ってあります?あっ注文?んー三種類なら4ダースづつで12ダースなら2880円ですよね?それで給料天引きで、じゃおねがいします」
電話を終えて教えてくれる。
「バイト先のコンビニで手配したから明後日にはあんた食べれるわよ144本」
「ありがとうございます!!神様!仏様!!希更様」
「どんだけ嬉しいのよ?後ろ乗る?すっかり遅くなったしさ」
「お菓子って超贅沢品なのにプレミアムとかめっちゃ嬉しいよ。しがみついたらセクハラとか言わない?それと重くない?」
「普通に乗りなさいよ。おかしな事したらボコってプレミアムう○○棒を口に突っ込むから」
希更さんが物凄く優しい。うーん、急に怒ったり暗くなったり優しくなったり情緒不安定なのかな?女の子の日かもしれない。
「おじゃましま~す。違法だから捕まらないでよ?」
「ふん、警察くらいブチッ切ってやるから安心しなさい」
「大人しく謝ろうよ」
「はいはい、何よその変な常識そんなもの捨ててしまいなさいよ」
そうは言いつつも女の子だし、ゆっくりになるかなと思いながら後ろに座り、希更さんの腰に手を回す。
「!?!うっんん!ええい、しっかり捕まりなさいよ!車道を飛ばすわよ!速度は原付きと違って制限速度まで出せるからね!!」
「希更さん!?ここ制限速度50キロ!!」
「行くわよ!!」
「ぎゃーーーーー!!」
車みたいに早かったけど、死ぬかと思った。俺って希更さんに嫌われてる?だって耳まで真っ赤になるほど飛ばして帰ってすぐに降ろされた事だし、嫌われてるよなぁ。
二度と希更さんの自転車には乗らないかな。
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