その花はスノードロップ!

一ノ瀬 彩音

第1話 壱

雪の降る日、あなたは私に何をした?

あの日の出来事はもう思い出せない

私はあなたの事を好きだったのか嫌いだったのか、それさえも分からない

ただ一つだけ言えることは、私があなたを想うこの気持ちが、恋なのか愛なのかという事だけだ

雪の降る日、あなたと過ごした日々の事を思い出す度に、私の胸には切ない痛みが走るのだけれど、

それでもなお、あの時のことを思い出してしまう

何故ならそれは、その時の事があまりにも幸福で輝いていたから……きっと、これは恋でもなければ愛でもないのだろう

少なくとも、今はまだ……。けれどいつか必ず、私はその答えを見つけることが出来ると信じているわ

そしてもしそれが見つけられた時、あなたに伝えたいことがあるのです…………それは、ある冬の日の事でした

街にはクリスマスソングが流れていて、そこかしこに飾られた

イルミネーションやお店のディスプレイも赤や緑に染まっています

そんな街中を通り過ぎながら、私はいつものように家へと向かっていました

すると突然、背後から声をかけられました

振り返るとそこには、とても綺麗な女性が立っています

女性は私に向かって微笑むと、手に持っていた白い箱を差し出しました

何だろうと不思議に思っていると、女性はそれを開けて見せてくれます

中には手作りと思われるチョコレートケーキが入っていたんです……あぁ、そうか

今日は2月14日だから、きっとこの人は誰かにあげるためにこれを作ってきたんだろうなと思いました

けれど私は甘いものが苦手なので、

それを受け取っていいものかどうか迷ってしまいます

それに気がついたらしい彼女は、少し困ったような顔をして言いました

彼女によると、どうやらそのチョコケーキは自分で作ったもののようです

そこでようやく私は理解しました

この人はとても不器用で、人に何かをあげるということに慣れていないのだということに気がつきました

ですから代わりに自分が貰うことにして、彼女の手を取り一緒に歩き始めました

そうして私達は仲良く手を繋いで歩いて行きました

それから数日後のこと……また彼女が現れました

今度は大きな花束を持っていて、それを私に差し出してくれました

その花の色は白、とても美しい色合いをしている

彼女に促されるまま受け取ると、そのまま彼女は去っていきました

家に帰ってから調べてみると、その花はスノードロップという花のようでした

調べたところでは、冬の終わりに咲く花だそうですね

花言葉は確か……希望とか慰めとかいう意味があったはずです

次の日から数日の間、私は毎日のように彼女と会い続けていました

会う場所は決まって家の近所の公園でしたが、彼女はよく笑ってくれるようになってくれました

その笑顔を見るたびに心の奥底が温かくなっていくのを感じています

そしていつしか、彼女が笑ってくれることが嬉しいと思うようになりました

そんな日々が何日か続き、やがて季節は春へと移り変わっていったある日のことです

彼女は不意に立ち止まると、自分の足元を見つめたまま動こうとしなくなりました

一体どうしたのでしょう?

不思議に思って見ていると、彼女の瞳からは涙が零れ落ちていきます

その理由はすぐに分かりました……どうして泣いているのかなんて訊くまでもないでしょうね

彼女は大切な人が死んでしまったことを悲しんでいたのです

それは私にも覚えのある感情でした

今でも時折、思い出してしまうことがあります

大好きだった祖母が亡くなった時の事です

あの時も私は泣いたけれど、それは悲しみよりも寂しさのほうが強かったように思います

大切な人と別れるということはそれだけ辛いことですよね……でも今は違いますよ

だって今ならちゃんと言えるんです

あなたのおかげで、今の私が居るんですよって……ありがとうございます

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その花はスノードロップ! 一ノ瀬 彩音 @takutaku2019

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ