第6話 小悪魔という名の悪魔2

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「丹生くんって、下の名前は何て言うの?」

 夕飯の準備を急ぐ主婦が行き交い、部活帰りの学生たちが俺たちを見てひそひそと噂しあっていたり、子供がもう帰らなきゃと走り出す――そんな夕暮れ時の風景の中を俺とイブリースは並んで歩いていた。

 傍目にはデートに見えるであろう行動も、迷子のイブリースを家まで送り届ける為と知れば、果たしてどうだろう。

「何で?」

「私だけ、ずっと名前ファーストネームで呼ばれているでしょ。それって不公平じゃない?」

 考えてみれば、俺はずっとイブリースの事を名前で呼んでいた。

 というか、集っていた女子が呼んでいたのを真似した形だ。

 名字に関しては自己紹介の時に言っていた気がするが、既に記憶が曖昧になっている。

 ありきたりの名字だったような気がするが、田中だったか、鈴木だったか、山本だったか、どれだったか思い出せない。

「だったら、俺がイブリースを名字で呼ぼう」

 改めて確認しないと分からないが。

「散々名前で呼んでおいて今更だよ。良いから名前教えなよ」

 催促されて、俺は渋々ながら自分の名前を伝える。

「明日斗だ」

「アスト? 外国人みたいな名前だね」

「漢字では、明日、明後日の『明日』に一斗缶の『斗』だ」

 空中にすらすらっと字を書いてみせると、イブリースは驚いたように声を震わせる。

「めちゃくちゃ日本人じゃん!」

「当たり前だ!」

 他愛の無い会話を繰り広げながら、俺はスマホのナビ機能に視線を落とす。

 そもそも、このイブリースポンコツが地図すらまともに読めないのがいけないのだ。

 イブリースが言うには、「ルーマニアの中学校で習わなかったし!」と言うのだが、地図の読み方など小学校レベルの教育のはず。

 俺の中で彼女のポンコツ度合いが益々加速したのは間違いない。

(しかし、参ったな)

 地図アプリを使いながら、俺はイブリースが告げた住所に向かっているわけなのだが、この位置は徐々に例の事件があった公園に近付いてきている。

 公園に行くのは明日でも良いと思っていたのに、この調子だと意図せずに近い場所に行ってしまいそうだ。

「あ、この辺、何か見た事あるかも」

 見た事があるじゃなくて、多分通学路だ。

 今朝、お前さんが通って来た道だぞ。

(公園は丘の上か)

 イブリースの自宅方面から直線距離で言えば近い。

 だが、公園に行くには丘を上る必要があり、直線で行く事は難しそうだ。

 遠回りにはなるが、丘を回り込むようにして坂を上っていくのが良いだろう。

(本来なら行く気は無かったんだが)

 此処まで来ている以上、逆に行かない方が手間になる。

 俺はイブリースを家まで送り届けた後で、その足を公園にまで伸ばそうかと考えていたのだった。

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