リベンジデート
俺はまた困っていた。
何故なら今回も早く着きすぎたからだ。
待ち合わせ場所は前回と同じ。
男という生き物はどうしてこう、期待しすぎてしまうのだろうか……。
そんな意味のないことを考えつつ、有栖先輩を待つことにした。
◆◆◆
「ごめん。また待たせたかな?」
「いえ、今きたところなので。ところで有栖先輩その格好……」
「似合ってないかな?」
不安げに上目遣いで聞いてくる有栖先輩の格好は控えめにいっても、とても似合っている。
少し肩の辺りが透けている服に動くと少し足がチラチラと見えるスカート。
色も柔らかく女の子らしい。
「その、とてもお似合いだと思います……!」
「ならよかった。今日の為に買った甲斐があったかな?」
後半の部分は有栖先輩の声が小さくて聞き取れなかったが、褒めて喜んでもらえているのならよかった。
「それで今日は俺、何も聞かされてないんですけど、どこに行くんですか?」
「それはね。秘密!」
◆◆◆
「有栖先輩、まさかここじゃないですよね?」
「何言ってるの。ここだよ」
有栖先輩につれられてきた場所はカップルしかいないカフェだった。
どう見てもカップルではない俺達が入るには少しどころではないぐらいに難易度が高い。
「本当に入るんですか? 正直、気まずいんですけど」
「当たり前じゃん!」
そう言って俺をずるずると引っ張って店内へと入っていく有栖先輩。
『いらっしゃいませ!』
どうやら店員の中に知人はいなさそうで俺はほっと胸を撫で下ろす。
もし知り合いがいようものなら、彼氏持ちの学園のアイドルとデートなんていうスキャンダルが明日以降広まり、俺は瞬く間に男女両方の敵として残りの期間を過ごすことになっていただろう。
「お二人とも当店のご利用は初めてでしょうか?」
「はい」
「えぇ」
「ではまずルールを説明させていただきますね。当店はカップル専用のお店です。ですので全てのメニューを2人で交換しながら食べていただきます。俗に言うあーんってやつですね」
普通にガタイのいいおじさんからあーんなんて言葉が出てくることにビックリした。
有栖先輩もビックリして普通に引いちゃってるし。
「あの、あーんとは具体的にどうすれば」
「簡単でございます。お連れ様の口にスプーンを持っていき、口の中のへと運ぶ。次はお返しにというようにやっていけば大丈夫で御座います」
有栖先輩、引いてたわけじゃなくてやったことがなかったのか……。
いや俺もやったことはないけど。
「じゃあこの貴方と私のラブラブ新婚生活パフェを一つお願いします。颯斗君もそれでいい?」
「は、はい。大丈夫ですよ!」
どうやら俺が思案に耽っている間に食べるメニューが決まっていたらしい。
おじさんもさることながらメニューのネーミングセンスの癖まですごい。
◆◆◆
「お待たせしました。こちらが貴方と私のラブラブ新婚生活パフェです」
テーブルへと届けられたパフェは1人では食べきれず2人だと丁度いい感じの量だ。
さくらんぼやチョコ菓子が乗っていてアイスも複数の色があり、とてもインスタ映えも良さそうな感じがする。
その証拠に有栖先輩は写真を撮りまくっている。
「さて颯斗君、食べよう!」
「食べようといっても1人で食べたらだめなんですよね? 正直かなり気恥ずかしいんですが」
「まあまあそう言わずに。ほら、あーん」
口を無理やりスプーンによって開けられアイスを放り込まれる。
女の子にあーんされるなんていうイベントは初めてだ。
「なんだこれ……。すごい美味しい」
「本当? ほら颯斗君、私の口にも入れてよ!」
「は、はい。あーん」
パクリと有栖先輩が俺のスプーンを口に入れる。
その途端、表情がパッと明るくなった。
「颯斗君、これすごく美味しいね!」
「ですよね。何というか味が濃厚でとても美味しいです」
有栖先輩のこういう子供っぽいところも俺は……。
これ以上はやめておこう。今日一度だけの夢なんだから。
◆◆◆
「それじゃあ、また学園でね」
あの後、無事パフェを完食した俺達は買い物もそこそこに別れた。
今日の有栖先輩は全く大智の話をしなかった。
だけど、何故か今日の有栖先輩はとても儚げに見えたのは気のせいなのだろうか?
もしかして大智の浮気の調査で進展でもあったのだろうか?
そんな心配がいくつも浮かんできて、俺はもやもやとして寝れないまま、朝を迎えるのだった。
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