いけない協力

「ははは、小鳥ヶ丘先輩も冗談が上手いですね。特にこれ以上要件がないなら俺はこれで……」

「颯斗君、待ってよ!」


 足早にその場をさろうとした俺に有栖先輩が後ろから抱きついてきた。

 2度と触れることすら許されないと思っていた憧れの人から突然抱きつかれでもしたら、人間の思考は簡単にフリーズする。


「こ、小鳥ヶ丘さん?」

「……普通そういう反応するよね」

「え?」

「大智君にこれは初めてやった時、反応がちょっと怪しかったの」


 男女間で怪しいと疑われる。

 小鳥ヶ丘先輩、大智が浮気してるとでも思っているのか?

 それはあり得るのだろうか。もしそうだとしたら許せないことだが。


「それは大智が浮気をしていると? 小鳥ヶ丘先輩を差し置いて?」

「あくまで可能性。それを確証に変える為にも颯斗君に協力して欲しいのよ」

「それが小鳥ヶ丘先輩と浮気をすることとどう繋がるんですか?」

「私と貴方が大智君の前で仲良さげにしておけば、尻尾を出さないかなって」


 つまり数日か数週間か期限はわからないが、失恋した俺が好きだった小鳥ヶ丘先輩と仲良くできるということか。

 俺としては大智が浮気をしているかもしれないということを見過ごせないし、願ったり叶ったりではある。


「それでどう? 私と浮気してみない?」

「わかりました。親友の浮気は見過ごせませんし、お受けします。ただし過剰に仲良くなったり、過剰にスキンシップをすることは避けましょう」

「まあそうだね。私の名前だけは下の名前で呼んでほしいかな」

「……っ、有栖先輩。これでいいですか?」

「うん!うん! 仲良くなったって言ってるのにいつまでも苗字じゃ疑われちゃうし。後は毎日大智君にバレないように作戦会議をしちゃおう!」


 正直、毎日有栖先輩と2人っきりになれるだけで十分な役得は貰っている気がする。

 そういえばこの学園で有栖先輩のことを下の名前で呼べる男は何人いるのだろう。


 ◆◆◆


 放課後は大智君と3人で帰るから絶対に2人できてねと言われた通り、俺は有栖先輩の教室を訪れていた。


「2人とも待ってたよ! さ、帰ろっか」

「有栖先輩はなんで颯斗の腕にくっつくんだぁぁぁぁ……」

「有栖先輩、流石に恥ずかしいのと大智が可哀想なので早く大智の腕に移ってもらえますか?」

「あ……ごめん。今日体育でコンタクト落としちゃってよく見えてなかったみたい」


 そんな言い訳をしながらするりと俺の腕を抜け、大智の腕へと移る。

 あの後、大智には最近忙しかったみたいで別にお前を嫌いになったわけじゃないみたいだと伝えた。

 だから俺達の関係はこういう細かいところで伝えていくしかない。

 ちくりと胸が痛む程度の罪悪感はある。

 だけどそれ以上に、俺の初恋の人を奪っておいて浮気をしているかもしれない大智のことを俺は許せなかった。



 —————

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