君のような女は僕がいなくても１人で生きていけるだろうと告げて逃げた夫が１年後、愛人を連れて泣きついて戻ってきました

第35話 駄々をこねる男

　午後６時―

「ふぅ〜…今日も沢山働いたわ…」

全ての書類に目を通し、決済の種類にサインしたところで部屋の扉がノックされた。

コンコン

「リディア様、私です、セイラです」

「どうぞ、入って来て」

するとカチャリと扉が開かれセイラが現れた。彼女は神妙な面持ちで立っている。

「あら？どうかしたの？」

「え、ええ…実はあの…人物が…」

「あの人物？あぁ、ジルベールの事ね？どうかしたの？」

「はい、実はその人物が酷く室内で暴れていて他の使用人たちも困っておりまして…」

セイラは余程ジルベールの事が嫌いなのだろう。もはや名前すら呼ぼうとしない。

「そう…一体どんな要求を訴えて騒いでいるのかしら？」

ジルベールの話を聞くだけで頭痛がしてくる。

「はい。夕食を監禁部屋に運ぼうとした所、リディア様と一緒に食事をさせろと部屋の中で駄々をこねて暴れているのです」

「はぁ？何よそれっ！」

私はあまりの幼稚なジルベールの行動に頭を押さえた。一緒に食事？今まで結婚してから一度たりとも私と食事をとったことのないジルベールが？一体何を考えているのだろう…。

「セイラ…ジルベールはいったいどういうつもりだと思う？私と食事なんて…」

「ええ、そうですよね…」

ただでさえ、頭痛の種でしか無いジルベール。その顔すら見たくないというのに、何が悲しくて一緒に食事を取らなければならないのだろう？胃もたれで消化不良を起こしそうだ。そこである一つの仮説が生まれた。

「あ…ひょっとすると…」

「リディア様？どうかされましたか？」

セイラが尋ねてくる。

「ええ、ひょっとするとジルベールは自分だけ粗末な料理を出されると思っているのじゃないかしら。今日だってこの屋敷の食事に対して文句を言っていたのよ？『以前に比べると全体的に料理の質が落ちている気がする、ひょっとしてあまり良い食材を使っていないんじゃないかな？』何て言ったのよ？」

「まぁ…！物乞いの様な姿で領地に戻ってきておいて、何て生意気な台詞を吐くのでしょうっ！」

セイラは今にも拳を振るって扉を叩き割りそうな勢いだ。

「落ち着いてちょうだい、セイラ。いいわ、分かったわ。今のは私の勘でしか無いけれど…本当にそう思われては嫌だから、この際うんと我慢して今夜は一緒に食事をする事にするわ。そうすれば自分だけが違う料理が出てきたわけではないと言う事を本人も納得してくれるでしょう？」

「それは確かにそうですが…でもよろしいのですか？あの人物と一緒に食事なんて…リディア様が消化不良を起こすのではないかと心配です」

セイラは私と同じ心配をしている。

「大丈夫よ、食後に胃薬を飲むことにするから…なので食事と一緒に胃薬を用意しておいて貰える？」

「はい、かしこまりました」

セイラは頭を下げると部屋を出ていく。

「全く…本当に問題ばかりしか起こさない男ね…早くフレデリック、戻ってきてくれないかしら…」

しかし、この程度の騒ぎはどうって事は無かった。

ジルベールは更にその後、とんでもない事をしでかすのであった―。