君のような女は僕がいなくても１人で生きていけるだろうと告げて逃げた夫が１年後、愛人を連れて泣きついて戻ってきました

第33話 閉じ込めておきますか？

「全くそれにしてもあの店のマスターは失礼しちゃうよ。大した料理も出せないくせに僕にお金を要求してくるなんてさ」

先程からジルベールは私の神経を逆なでするような事ばかり話しかけてくる。私はそんな戯言を無視して書類に目を通していると、再びジルベールが尋ねてきた。

「そう言えば、リディアは『カヤ』の村に行ったんだよね？何か美味しい物でも食べてきたの？」

ぶちっ

私の中で何かが切れる音がした。

「いい加減にしてよっ！私が何の為にあの村へ行ったと思ってるのよっ？！」

「さぁ？分からないよ。だから食事する為に行ったかと思ったんだ。名物料理でもあるの？」

「違うわよっ！『カヤ』で飼育されている家畜の餌を食べる量が減ったと領民から相談されたのよ。だから『シェロ』の村の獣医さんを連れて行ったのよ！後食事の件だけどね、誰かさんのせいでお昼ごはんは抜きよ、抜きっ！」

「ええ？誰かって誰のせいなんだい？」

ジルベールは私に喧嘩を打っているのだろうか？それとも無自覚で嫌がらせをしている？だとしたらある意味、恐ろしい才能を持っているのかもしれない。あぁ…喚いたらお腹が急激に空いてきた。

「ジルベール。いい？今から屋敷に着くまで一言でも口を開いたら…」

「ひ、開いたら…？」

「馬車から降りてもらうからね」

「えええっ？！そ、それだけは勘弁してれよっ！分かったよ。静かにしているから…」

そしてジルベールはようやくそのうるさい口を閉じてくれたので、私は再び書類に目を通し始めた―。

＊＊＊＊

　屋敷に到着したのは午後3時を過ぎていた。

馬車の外では連絡を受けたのか、セイラが出迎えに来てくれていた。セイラは先に馬車から降りてきたジルベールは頑無視し、私に頭を下げてきた。

「お帰りなさいませ、リディア様」

「おい、メイド。何故僕の事は無視す…」

そこでジルベールは口を閉ざした。何故なら私がジルベールを睨みつけていたからだ。

「そ、それじゃ僕は…へ、部屋に戻ろうかな…」

「お待ち下さい、お客様」

セイラが冷たい声で言う。

「え…ええっ？！お客様って…僕の事っ？！」

「ええ、貴方はお客様です。何しろここで働いている使用人は誰一人として貴方の事を知らないのですから、客室をご案内させて頂きます」

「な、何だってっ？！僕はこの…」

「ジルベールッ！」

私は鋭い声でジルベールを見た。

「は、はい…」

「忘れたの？貴方は1年前に自分が何をしたか…？」

「う…そ、それは…」

口ごもるジルベールに言った。

「兎に角、貴方にはフレデリックが戻るまでは大人しくしていてもらうからね？」

「わ、分かったよ…」

「セイラ、悪いけど…ジルベールを客室に連れて行ってくれる？」

するとセイラが耳打ちしてきた。

「…どうします？閉じ込めておきますか？」

「それもいいわね。だったらしっかり防音されていて、外鍵が掛けられる部屋に入れて頂戴」

私もセイラに耳打ちする。

そうだ、初めからフレデリックが戻るまで…ジルベールを閉じ込めておけば良かったのだ。

「それではお客様、お部屋にご案内致します。こちらへどうぞ」

セイラがジルベールに声を掛ける。

「うん、分かったよ…また後でね、リディア」

ジルベールは私に手をふるが、無視してやった。大体泥棒と仲良くする気は私には全く無いのだから。

セイラに連れられて歩くジルベールを見ながらため息をついた。

「フレデリック…今夜には帰って来てくれるわよね…？」

そして私は執務室へ向かった―。