第17話 資金援助の交渉

「何の為にやってきた…?ここまではるばる私達が訪ねてきたその理由に気付かれないのですか?」


「まさか…ジルベールと別れたいとか…?」


義父が私に尋ねてきた。別れる?それが出来るならとっくにしている。


「お忘れでしょうか?クレメンス家と私の実家…ライザー家で取り交わした約束を」


「あ、ああ…そういえばそうだったな?どんな状況でも最低1年半は婚姻関係を持続させること…1年半以内に破綻した場合は離婚を切り出したほうの実家の財産を全て没収することが出来るとあったな…」


義父が唸るように言った。そう、私がジルベールと離婚したくても出来ないのは私達の祖父が交わした誓約書のせいなのだ。この忌々しい縛りが離婚の足かせになっている。それにしてもなぜ1年半なのか…その辺りは謎だ。


「だ、だったら何をしに…ハッ!ま、まさか…私達に資金援助を頼みに来たのね?」


義母がようやく私が来訪した理由に気付いた。


「ええ、その通りです。ジルベール様は金庫の中から全財産を持ち去ってしまったのですから。運用価値の高い金貨まで根こそぎ全て」


「何故私達が資金援助をしなくてはならないのよ!貴女の方で何とか工面したらどうなの?」


義母は滅茶苦茶な事を言う。


「逆に私の方が聞きたいいです。何故私が資金を工面しなければならないのですか?ただでさえ、ジルベール様と結婚してからの半年…クレメンス家の使用人達のお給料は私がこの家に嫁いできた時の持参金で支払っているのですけど?その使用人達すらジルベール様が私をないがしろにし、イザベラを優遇するせいで使用人達は私に敬意を払いません。そんな彼らの為にお給料を支払っている事実もジルベール様は知らないのですよ?とにかく、このままではクレメンス家は終わりです。領民達を守ることも出来ません。どうか資金援助をお願い致します」


私は頭を下げた。


「し、しかし我々には資金援助する余裕は…」


義父の言葉に私は言った。


「ありますよね?クレメンス家の所有する山林が。確かあの山に生える木はとても良質なもので、様々な加工品として販売され…かなりの収入がお二人の元に入ってきているのを私が知らないとでも思っていましたか?その山林の所有権を譲って下さい。と言うか、本来ジルベール様に家督を譲った段階で譲渡されるべきだったのではありませんか?」


「な、何だってっ!本気で言ってるのか?!」


「あれを取られたら私達の生活はどうなるのよっ!」


義父と義母は大声で抗議した。


「あの山林を手放しても…まだお二人には収入源がありますよね?」


フレデリックが口を開いた。


「お、お前…一体な、何を…?」


義父が声を震わせた。


「大旦那様と大奥様は『ヴヌート』で人を雇ってレストランを経営されていますよね?しかも3店舗も。この別荘に来る時に確認してきましたよ。…中々の繁盛ぶりでしたね。席はどの店も満席状態でした」


「!し、知っていたのかっ?!」


義父が顔色を変えて私を見た。


「ええ、勿論です」


私が何も調べないで資金援助を頼みに来たのだろうか?…随分なめられたものだ。


「山林を手放してもお義父様とお義母様は十分潤った生活が出来るはずです。クレメンス家を守る為に…譲って頂けますよね?もし譲って頂けないのであれば、屋敷も爵位も売らざるを得ないかもしれません。…どうされますか?」


私はニッコリ笑みを浮かべて2人を見た。


「わ、分かった…。山林の所有権を…譲渡しよう…」


流石の義父も私の言葉についに折れ、青ざめた顔で頷いた―。

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