第16話 息子を擁護する義父母

「こんにちは。お義父様、お義母様。ご無沙汰しておりました」


私は立ち上がって挨拶をした。フレデリックとヤコブも同様に立ち上がり、頭を下げた。


「ああ、結婚時の顔合わせ以来だったな。まぁ、どうぞ座ってくれ」


「有難うございます。それでは失礼致します」


義父に礼を述べ、ソファに座ると、私の両サイドで立っていたフレデリックとヤコブも同様に着席する。


「それで…どうだい?元気に過ごしていたかね?」


義父のギルバートが笑みを浮かべて私を見た。


「ええ、お陰様でとても元気にしております」


あなた方が産み、育てたどうしようもない子息が愛人と共に財産を奪って逃亡してしまったお陰で今の私には活力がみなぎっていますから。


「それで?私の可愛いジルベールは元気なのかしら?」


義母は自分の息子を溺愛している。それはもう常軌を逸していると言っても過言では無い。けれど、そんなに溺愛しているのなら、こんな別荘で暮らさずにジルベールを見張っていてくれれば良かったのに。そうすれば私はいらぬ苦労を…。


「ええ、ジルベール様もとても元気です。今もきっとどこかで元気に過ごしているのではないですか?」


私は内心の不満を隠しつつ、満面の笑みを浮かべながらわざと思わせぶりな言い方をした。


「あら?何かしら。その言い方は…何だか気になるわね?」


「ああ…確かにそうだな。きっとどこかで…とはどういう意味なのだ?」


「ええ。ジルベール様は2日前まではお屋敷にいたので、お元気な姿を拝見していたのですが、翌日屋敷の金庫から財産を奪って愛人と共に行方不明になってしまったのです。その為、それ以降のジルベール様のお姿は見ていないので元気がどうかは私には分りかねます」


するとその言葉に青ざめる義父母。


「え?な、何だって?愛人とは一体誰の事なのだ?」


「あの子に愛人なんていないはずよ?!」


「そうでしょうか?それではイザベラと言う女性は御存じでしょうか?」


私は口にしたくも無い名前を渋々言った。


「イザベラか?ああ、勿論当然知っているぞ。何しろあの子はジルベールの…あ!」


義父はそこまで言いかけて、慌てた様に片手で口を押えた。義父の取った態度はこの後の義母の行動に比べ、随分ましだったかもしれない。


「まぁ!貴女はイザベラの事を愛人と呼んだの?!そんな言い方はいくらなんでもあの子に失礼よ?彼女はジルベールにとって大切な恋人なのよっ!」


「…大切な恋人ですか…ですが、ジルベールは私と結婚しているのですよ?一般的に既婚者が恋人を持つという事は通常はあり得ません。これは立派な浮気であり…愛人と呼ぶのが正しいのではないですか?」


「し、しかし愛人というのは余りに行き過ぎた言い方だろう?」


義父はオロオロした様子で言う。すると今まで黙って事の成り行きを見守っていたフレデリックが口を開いた。


「お言葉ですが、大旦那様も大奥様も肝心な事をお忘れでは無いですか?ジルベール様はイザベラ様と共にクレメンス家の財産を全て持って何処かへ行ってしまったのですよ?まだ屋敷には我々を含め、36名の使用人がいるのです。そして数多くの領民達もいる。ジルベール様はそれらを全て捨て、イザベラ様と行方をくらましたのですよ?この事はどうお考えになっているのですか?」


「ま、まさかジルベールがそんな大胆な事を…」


義父は未だに私の言葉を疑っているようだ。


「疑いになるのでしたら今すぐ『マルト』までいらしてください。空っぽになってしまった金庫をお見せしますから」


すると義父は慌てた。


「わ、分った!信じる!信じるからっ!大体結婚して以来、今まで一度もイザベラが屋敷に出入りしているのにリディアは訴えてきたことは無かったからな…それなのに今回初めて我々を頼って来たと言う事は…本当の事なのだろう?それで?一体何のためにここまでやってきたのかね?」


彼はようやく私がここまでやってきた理由を尋ねて来た―。

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