理想のカラダを手に入れろ、ビルド・アップ・ライト!
佐倉じゅうがつ
昼休みのひと時……
「アキラ、時間あるか?」
「また試作品か?」
「ご明察」
「今度はなんだ、日本刀のように切れ味鋭い蛇口か?」
「まさか」
「ふむ、見せてみろ」
「どうぞ。コホン、『理想のカラダを手に入れろ! ビルド・アップ・ライト!』」
「……ただのデスクランプのようにしか見えないが」
「見た目はそのとおりだが、こいつは画期的発明だぞ」
「効果は?」
「キャッチコピーそのまま。このライトの光を浴びるだけで筋肉が鍛えられ、骨格も強くなる」
「浴びるだけで?」
「百聞は一見に如かず。こいつを見てくれ」
「このタブレット端末……新しいな?」
「先週でたばかりの最新版さ」
「相変わらずだな。どれ、見てみよう」
「被験者A。身長は平均並だが、見ての通り瘦せ型だ。体重は50キロ前半。彼にビルド・アップ・ライトを当てた映像だ」
「ふむ……なんだこれは。みるみるうちに筋肉がもりあがって、ムキムキになっていく」
「すごいだろう」
「コラだろ?」
「本物だ」
「……にわかには信じがたい」
「気持ちはわかる」
「この映像は何倍速なんだ?」
「なんばいそくって?」
「ムキムキになるまで、実際には何時間かかってる?」
「ああ、そういうことか」
「どうなんだ」
「映像はノー編集、つまり等倍だ」
「等倍!? ヒョロガリの青年がたった数秒でボディビルダーだぞ!」
「そうだ。被験者Aはおよそ10秒でムキムキになっている」
「どんなライトを作ったらこうなるんだ」
「機材の調達は高くついたが、原理はシンプル。特殊な波長の光をあてることによって、細胞が活性化して増長するんだ」
「それだけか」
「うむ。そしてこれが知り合いの老人ホームの協力で行った、さらなる実験データだ」
「何してんだよ……」
「入居している高齢者たちに、ビルド・アップ・ライトを10秒間浴びてもらった。すると、80パーセント以上がベンチプレス100キロをクリアした」
「100キロ!?」
「アンケートによれば60パーセントの方がビルド・アップ・ライトの効果に満足している」
「……やけに満足度が低くないか?」
「一部の高齢者はボケてて解答用紙を返さなかったそうだ。見ろ、無回答が40パーセントだ」
「つまり脳の状態は良くならない?」
「当たり前だろう。そんな都合のいいモノなんてあるはずがない」
「……そうか?」
「で、これを商品化しようと思うんだが」
「浴び続けたらどうなる?」
「え?」
「10秒でビルドアップできるのはわかった。じゃあもし、1時間とか、1日中使いつづけた場合はどうなるんだ?」
「安全のために10秒で自動的に電源が切れるようになってる」
「けっこう。で、長時間浴びたらどうなるんだ?」
「ええと……」
「安全性は確認したんだろうな?」
「もちろんだ……といっても、実は人間では試してないんだ……万が一があったら大事になってしまうし?」
「人間ではやってない?」
「やってない」
「動物は?」
「動物なら、まあ……」
「ラット?」
「違う」
「じゃあトカゲ?」
「うん、たぶん……違う」
「爬虫類?」
「……はい」
「浴び続けたらどんどん大きくなっていくんじゃないか?」
「どきっ!」
「ビルより大きい怪獣サイズになるとか」
「どきっ!!」
「お前……ちまたで話題になってるあの『怪獣』、このライトのせいじゃないだろうな!?」
「どきぃぃぃぃっ!!!!」
「お前、どれだけの人間が被害にあったと思ってる、大災害だぞ!」
「悪かった! 手に負えなくなって、つい……」
「ちゃんと責任を取れ、このやろう!」
「ぐはっ!」
「後始末が終わるまでライトは没収だ」
「ふっふふふふ……」
「なんだ?」
「後始末はしよう。だがライトは返してもらう」
「ダメだ」
「ダメじゃない。こんなこともあろうかと、俺もビルドアップ済なんだからな! ぬぅぅん!」
「ほほう、すごい体じゃないか」
「そうだろうそうだろう」
「だがそんな『にわか筋肉』で俺に勝てると思うな! ふんっ!!」
「グッハァァァァァ!!!!!!」
「……うん、うまい」
「アキラ、時間あるか?」
「また試作品か?」
「いや、後始末の件で……うん?」
「なに見てる」
「アキラにしては珍しいな。焼肉マシマシ弁当じゃないか」
「いや、これはいつもの焼肉弁当だ」
「ん? じゃあ増量キャンペーン?」
「そんなものはないぞ」
「肉の量が明らかに多いんだが……」
「こいつの効果だ。『ビルド・アップ・ライト』!」
「……なんで?」
「体が大きくなるライトだから、もしやと思って焼肉にあててみたらこの通りだ」
「そ、そうか……」
「肉、最高!」
理想のカラダを手に入れろ、ビルド・アップ・ライト! 佐倉じゅうがつ @JugatsuSakura
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