第43話 11時20分、11時23分
2049年12月22日水曜日 11時20分 東京都千代田区 有楽町電気ビルディング
一室で、数名が作業に勤しんでいる。ローラン・ケリーは、リーカーの側近として、汚れ仕事だけでなく会社の実務も担っているのだ。非常にマルチな能力を持つ男だ。
「ノエル……RTSのフランチャイズ契約、野矢美佐子との契約は解除する。通知のメールを送っておいてくれ。併せて日本での契約先を探す必要があるな、顧客が待っている。俺はRFA(リーカーファミリーアソシエーション)の件でまた出資の話が来ているから、午後はそれに対応する」
猿田友弘を自身の手で殺めた以上、当然事業継続はできないだろう。元より、猿田が荷物を持ち去った時点で、契約違反、解除条項に抵触していたのだ。言うまでもなく、野矢美佐子に継続の意思はないわけだが、ケリーは直接接触していない。野矢美佐子のことは、文面以外のことは知らないのだ。
ただ、猿田を追うにあたり、五十嵐が野矢美佐子を連れて動いていたことは把握している。
「何とも面倒な……まあいい」
ケリーはそう呟き、PCに向かうのであった。
2049年12月22日水曜日 11時23分 東京都千代田区 有楽町電気ビルディング
「案外普通に入っていける……日本のオフィスビルって少しセキュリティが緩い気がするな……」
里井がそう呟きながらビルの地下に入り防災センターを横切って、飯田と二人、髭と着なれないスーツの変装で歩いていく。シンプルだが本人とは遠い存在に成りきることができている。
『すぐ日本はって、これだから帰国子女は……』
里井の呟きに、無線越しの北原が反応する。里井の他、飯田とウィリアムズもこれを聞いていることは周知の事実だ。
「だから、帰国子女ではないって言ってるだろ。いっとき、居ただけだ」
そう言いながら、エレベーターホールに到着する。里井は飯田とアイコンタクトを取ると、飯田はエレベーターの呼び出しボタンを押す。里井はその様子を確認して踵を返し、近くにある部屋を覗き、誰も居ないことを確認して入った。
「北原、逃走経路を俺と飯田さんの携帯に送っておいてくれ。煙感知器が設置されてるエレベーター内は、飯田さんが煙玉を置く。遠隔でエレベーターは停められるか?」
『もちろん停められる。地下に着いたら停止させるよ……飯田さん、あと10秒で到着です。防災センターにある火災警報器受信盤の図面と細工の仕方を、逃走経路のデータと一緒に送っておいた』
「了解。俺はこいつで……」
里井はそう言いながらアルコールランプを取り出し、火を点ける。それを持ったまま机に登り、熱感知器に近づける。
「飯田さん、そちらは?」
『今、煙玉を置いた。防災センターで合流としよう、警報が鳴ったら先に細工しておく』
「了解……っと」
里井が呟くタイミングで火災警報が鳴り響く。ベル音によるジリリリリ、という轟音に里井は思わず体勢を崩す。
そのまま机から降りて火を消し鞄にしまいながら部屋を出て、防災センターへ向かう。進行方向とは逆に防災センターから数名の警備員が出てきてすれ違うが何か気づかれることもない。防災センターの入口付近までくると、入口正面から飯田が出てきた。
「正面突破とは……大胆ですね」
「バタバタしてそれどころじゃないからな。容易に入れたよ。これで当分警報は鳴り止まないし、煙も上がっているから、大ごとになるなこれは」
「そうですね……報道陣と警察が駆けつける前に脱出しましょうか」
そう言いながら二人は携帯に送られてきた情報をもとに先へと進んでいく。この二人が引き起こした誤発報により、ビル内は大混乱に陥ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます