第29話 14時35分
2049年12月21日 火曜日 14時35分 東京都狛江市 某所
「……赤い点滅が早まった、残り時間は!?」
『早まった!?そうなると残り90秒……イヤホン型爆弾としては機種は特定できたけど、かなり特殊な改良がなされていて、解除方法が見つからない!』
里井は、野矢のイヤホン型爆弾の解除のため、北原と飯田とのビデオ通話を続けていた。一通り、野矢からいきさつは聞いて諸々試している状況だ。
「あと90秒……?時間がない、策は!?」
里井は苛立ちながらビデオ通話の画面に向かって話しかける。
『今、飯田さんが調べてるけど、間に合わないかもしれない!里井、そこから離れろ!その爆弾の威力からすると、半径2mくらいは木っ端微塵だぞ!』
「……里井さん、もう大丈夫です、私から離れてください……」
「いや、大丈夫なんかじゃない……野矢さん、あなたのことは絶対に助ける!何か策は……」
里井はここで、玄関前に置いていたアタッシュケースのことを思い出す。駆け寄って中を開ける。
(……イヤホンは、つまり通信手段でもあるわけだろ?電波を拾って、それで時限装置も機能しているんじゃないか?)
里井はアタッシュケースを漁っていると、あるモノを見つけ取り出す。
「これだ……!」
里井はそう呟くと、「きゃあっ!」と悲鳴が聞こえて振り返る。
「里井さん、イヤホンから音が……どんどん大きくなる……」
そう言いながら、野矢は頭を押さえて苦痛の表情を浮かべる。
『里井、音が鳴り出したら30秒切ってるぞ!』
里井は手に持った機械を作動させ、野矢に駆け寄る。機械を片手に野矢の左耳に近づけ、自身の顔をもそこに近づける。
「……音が……止まりました……!」
里井は安堵の息を漏らしながら「これを持ってもらえますか」と野矢の左手を持ち上げて機械を渡す。
『……里…?何…た…だ?』
「電波妨害だよ、イヤホンが電波受信しているってことは、時限装置もそれに連動しているんじゃないかと思って、電波妨害装置を使ったんだ。おかげで、通話も妨害されるから今この声すら聞こえてないだろうけど……野矢さん、それ、絶対に離さないでください。一時的に妨害しているに過ぎません。離したら、タイマーが再度動きますから。急いで爆発物処理班を呼ぶので、それまで辛抱ください」
野矢はそれに小さく頷く。続けて、「ここだと電話も通じなくなるんで、ちょっと外します。絶対動かさないで」と言い残し、部屋を出た。外に出ると、警察車両が停まっているのが確認できた。横沢らが暴行を受けた現場の検証だろう。
「北原、聞こえるか」
『おお、やっと聞こえた、どーなったんだよ、生きてるか心配したぞ!』
「何とかね、電波妨害で一時的にタイマーをストップさせてる」
『電波妨害か……なるほど、原理を考えればそれがベストかもしれないな……解除することだけに考えがいってしまっていたよ……すまない、里井』
「飯田さん、大丈夫です。一つお願いが……優秀な爆発物処理班を、至急手配してもらえますか?私が持ってる電波妨害装置、小型なので、バッテリーが長く持ちません」
『優秀な班を行かせる。お前の努力、無駄にはしないよ』
「お願いします、ではまた後ほど」
里井は電話を切って、深呼吸した。野矢は犯人とともに行動をしていたと思われる大事な証人であり、事件の関係者だ。だがその前に、里井にとっては、目の前の一つの命であった。何よりもただ、救いたい一心だったのだ。里井は安堵ともに、少し表情を緩めた。
だが、事態の深刻さは何も変わっていない。里井は再度深呼吸して、グループ通話を開始する。すぐに行田、上村が通話に出た。横沢が暴行を受けた一件、野矢美佐子を見つけたこと、窮地をぎりぎりのところで救えたこと、猿田が野放しであること等、一通りの出来事を二人に説明した。
『そうでしたか……里井さんも無事で何よりです……そしたら私は、とりあえず横沢さんのいる病院まで様子を見に行ってきます』
「お願いします。私は爆発物処理班を待ちながら、野矢美佐子から話を聞きます」
『ちょっと、大丈夫なの?近づいて。間違って爆発したりしない?』
「大丈夫です。装置を離さない限りは、タイマーは進みませんから。詩恩さんは申し訳ないですけど、もう少しそこにいていただけますか」
『わかったわ、まだ北里さんから話も聞けてないしね』
「北里さん……詩恩さんが見つけた五十嵐教授のゼミ生ですね。とりあえず待機でお願いできますか」
『ええ、まだ研究室内にいるから、書類とか色々見ておくわ』
「お願いします」
『里井さん、とりえあえず動きは了解しましたが、引き続き動きあれば、グループチャットと、このグループ通話機能で、適宜情報共有をお願いします』
「了解です、では失礼します」
里井は電話を切る。野矢との会話が必要だ。この時点で、野矢に取り付けた爆弾を作動させるということは、犯人グループにとって、彼女の利用価値が無くなったということだ。
その意味を考えながら、野矢のいる部屋に戻るのだった。
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