吸血鬼の餌

バブみ道日丿宮組

お題:奇妙な血液 制限時間:15分

吸血鬼の餌

 吸血鬼になってからというもの、視力が良くなりすぎて怖い。昼でも夜でも、山の上に誰かがいるのが見えてくる。その人に手をふると、当然のように返ってくる。

 これが吸血鬼の共通の力。

「じき慣れますよ」

 部屋に入ってきたのは私を吸血鬼にした王女様。

「倍率イジれる視力なんて慣れそうにないよ」

 時期が進めば、聴力、嗅覚までが研ぎすまれるという。吸血鬼すごすぎ。元一般ピープルの私には想像もつかない世界だ。

「では、あなたの血を今日もいただきますね」

 二人でベッドに座ると、

「うん……」

 パクリと彼女は腕を噛んだ。

 ちくりと一瞬だけ痛みがしたが、しびれるような感覚に変わり、やがてなくなった。

 あとは血が口からこぼれて、腕を伝ってくるくらい。

「私の血ってそんなにいいの?」

「……特別ですね。こんなに高揚感を抱けるものは食べたことがありません」

 腕から口を離し、彼女はいう。言い終わるとまた腕に食いつく。

 これが日課だ。

 吸血鬼の王女である彼女の餌担当。それがあるためにこの部屋、お城で過ごすことを許されてる。貴族や、一部の執事たちには汚いものを見るような目で見られる。吸血鬼に吸血鬼にされた者は変異者として異物のようなポジションになる。

 いわゆる純粋種か、混合種であるかという議論。

「ベッドとベッドシーツが赤い理由か」

 声が漏れる。

「……赤ならば目立たないでしょ? なんなら、愛液ですらも隠せるのよ」

 それは勘弁してほしかった。

 そのぐらいの処理ぐらい……なんとかしたいが、レイプ魔に犯されそうになったところで助けられた私である。またそんなふうにならないとも限らない。

 吸血鬼であっても、ここは異能だけが住む異世界。私なんかより強いのがうようよしてる。

「はい、終わり」

 口が離れ、指でなぞられると、歯型はなくなった。

「私普通のご飯食べてるけど、血飲んだほうがいいの?」

 他の人は血をメインにしてるらしいが、私はそうでもない。3日、7日飲まないこともある。

「どうでしょ。ご飯を食べるのが恥と思う人もいますが、生きてくという観点に置いてはどうでもいいことかと思います。それに血をたくさん飲んで味が変わったら、わたくし困ります」

 そうだよね。餌として置いてもらってるんだから、その味が変わったら私のいる意味がないよね。

「大丈夫ですよ。味が変わったとしても、あなたを手放す必要はありません。やがて、わたくしの補佐をしてもらいますし」

「……できるかなぁ」

 自信がなかった。

 元の世界でも普通止まりの私が、異世界でどうにかできるのか。

「あなたの血から、可能性が感じられます」

「そうは言われても……」

 わからないものはわからない。

 だって、血だもの。

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吸血鬼の餌 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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