第8話 入学式(その2)
「ルイス、ここが空いてるぞ」
講堂に到着すると、既に1年は用意されていた椅子に座った状態で待機していた。1番後ろに1席だけ空いていて、隣に座っていたアランがルイスに対して手招きをして呼び寄せた。
「遅かったじゃないか。もしかしてザマス先生にチューでもされたのか?」
「アレは冗談だろう? 本当にそのようなことをしたのなら懲罰ものだよ。それとザマス先生って誰だよ」
「それもそうか。ハハハハハ。あっ、それと、ザマス先生というのはあの口調から俺が勝手に付けた」
アランが座ってる隣の席に座ったルイスに対し、冗談を交えて話しかけた。ちなみにアランが名付けたザマス先生というのは、なぜか同じクラスの者達の受けが良く、いつの間にかシルビア先生の愛称として定着するのであった。
「それにしても、女性の先生だから期待していたのに、あのザマス先生はないよなぁ。見た目は若そうなのに、アレじゃまるでキツいおばちゃんだよなぁ」
「うーん、そうかな」
アランは担任のシルビアについて感想を述べた。ルイスは演技かがった口調からしてふだんは違うのだろうと思った。だからと言ってルイスは、男子校に来た理由でもある男性同士の絡み以外に興味はないので、余りそれについては気にしていなかった。そのような話をしていると、両サイドにゾロゾロと教員と思われる人達が並び始めた。その中には当然ながらザマス先生・・・ではなく、シルビア先生の姿もあった。
「では、間もなく入学式を執り行う。新入生起立!」
1人の教員の号令で椅子に座っていた1年が全員がバラバラに起立した。
「礼!」
ルイスは日頃から作法の訓練を受けていたために難なく行ったが、隣のアランを始め、頭を下げる角度や早さなど、それぞれが異なり不揃いであった。ほとんどの者がそのような教育を受けたことがないので当然であるが、中にはルイスと同様に正しい作法で礼を行った者もいた。
「着席!」
そして号令とともに全員不揃いに着席した。
「学園長からの挨拶」
号令の教師が言うと、コツコツと靴音を鳴らし、礼服に身を包んだ老人男性が壇上に立った。
「わしがヤオイシュタット男子学園の学園長じゃ。まずは新入生の諸君、入学おめでとう。これから3年間、たくさんのことを学び、そして学友との親交・・・」
壇上では学園長が話を始めた。
「・・・であるからして・・・」
「・・・ということが・・・」
(なっ、長い)
学園長の話はとにかく長かった。既に2時間ぐらい話し続けているのではないかとルイスには感じられた。隣にいるアランは聞き飽きて船をこいで居眠りをしている。周りを見ると他の新入生達も半数以上が同様に眠気を感じ、熟睡している者、眠気に耐えながら必死に話を聞こうとしている者、ルイス同様に真面目に聞いている者と様々であった。
「・・・以上である」
(おっ、終わったぁ)
話し始めて2時間半が経過したところで学園長の話は終わった。公務で長い話を聞かされるのに慣れているルイスであっても、休憩を挟まない状態でこの長さはかなりの苦行であった。その後はそれぞれの担当教師から簡単な話があっただけで入学式が終わった。
「では全員教室に戻るザマス」
シルビアがそう言うと全員は席を立ち、ゾロゾロ教室に戻り始めた。
「ではこれから全員には自己紹介をしていただくザマス。では1番前に座っているあなたからするザマス」
「えっ? はっ、はい」
教室に戻り、ホームルームが始まった。最初は定番の自己紹介から行うことになった。シルビアの1番近くにいたルイスがトップバッターを務めることになった。
「皆さん初めまして。僕はルイスと言います。王都からこの学園に入るためにやってきました。この街のことはわかりませんので、皆さんにいろいろと教えていただけると良いかなって思います。どうぞよろしくお願いします」
ルイスはふだんよりも声のトーンを落とし、フレンドリーな口調になるよう心がけて自己紹介をした。皆この声に対し疑問を持った様子はなく、終わったと同時に全員が拍手をした。そして、順番に自己紹介を行った。
「俺の名前はアランだ。いろいろあってこの学園に通うことになった。ちなみに勉強は苦手だ。みんなよろしくな」
そしてアランも自己紹介を行った。そしてその後も続き、全員の自己紹介が終わった。さすがのルイスも全員の名前と顔はこの1回だけの自己紹介では覚えることができなかった。今後、時間をかけて覚えていくしかなさそうだ。
「全員の自己紹介が終わったザマスね。では明日以降の時間割を配るザマス。当学園はそれぞれの教科を専門に受け持つ教師がいるザマス。ちなみに私の担当は商科ザマス。商科は1年では主に字の読み書きや計算を行うザマス。ほかの教科としては、武術や運動を行う兵科、畑仕事や食品加工などを行う農科、建築や土木について学ぶ工科の4つの基本教科と、それに含まれない雑科ザマス。雑科の内容は様々あるためその都度で担当する教師が替わるザマス。詳しい内容については各授業の際に説明があると思うザマス」
シルビアがこの学園で学ぶ教科の説明をした。
「では本日はこれで終わるザマス。えっと、1番に前にいるルイス君、号令をするザマス」
「あっ、はい。では全員起立! 礼!」
シルビアに指名されたルイスが号令を行った。だが、号令のかけ方は問題なかったが、そのような環境に不慣れた者が多かったために、相変わらず礼のタイミングややり方がバラバラだった。
(やはりこの子は他の学生達とは違うわね。相当良い育ちの子息のようね)
シルビアはルイスの動きを見て只者ではないことを悟った。
「さあ、ルイス帰ろうぜ。寮に戻ってから用意して街に飯食いに行こうぜ!」
「ああ、学園長の長話を聞いていたらお腹空いたよ」
「るっ、ルイスはあの話を全部聞いていたのか? すげーな。俺なんか開始10分で寝てしまったぞ」
シルビアが教室から出て行ったところで、アランがルイスに話しかけてきた。真面目に学園長の話を聞いていたというルイスの言葉にアランは驚いていた。
「それにしても、昼食が用意されないのはキツいな」
「で、ルイスは何が食べたい?」
寮に戻り仕度をしたルイスとアランは昼食を取るために街に出ていた。どうやらアランは無計画で街に出てきたようで、ルイスに何が食べたいか尋ねてきた。
「いきなり聞かれても困るよ。僕なんかこの街で暮らし始めて日が浅いから、どんな飲食店があるか全くわからないよ」
「それもそうか。んーそうだな。よしっ、少し高いけど俺のお気に入りの店に案内するよ。まあ俺も財布事情が良くないから割り勘だけどな」
「アランに奢って貰おうなんて全然考えてないから、それで構わないよ。どんなお店か楽しみだなぁ」
ルイスはアランのおすすめの店がどのような物なのか、期待に胸を膨らませていた。アランに案内されながらルイスは目的の店へ移動を始めた。
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