第4話 今日の出来事を振り返って
ルイスは部屋に戻り、アランと雑談をして過ごしていた。
「ルイスは明日、何をするつもりなんだ?」
「取りあえず、足りない物を調達しようと思っているよ。アランはどうするんだ?」
「俺はバイト探しだな。学費はタダでも他にいろいろ金もかかるし、彼女ができたら交際費もかかるだろ?」
「そっ、そうだね」
ルイスは明日は足りない日用品などを調達するために、街に出ようと考えていた。アランはバイト探しに行くようだ。ちなみにルイスも極秘にこの学園に入学しているため、現在の所持金を使い切ってしまうと、仕送りなどないために、新たに金策を行わなくてはならない。今のところは問題ないが、早めに行動を起こした方が後々のために良いと考えていた。アランは将来彼女ができたときのために、お金を貯めておこうと考えているようであった。
「さあ、明日に備えてそろそろ寝ようか」
「そうだね。おやすみ、アラン」
「おやすみ。ルイス」
今日はルイスも長旅で疲れたので、早めに休みたい気分であった。それを気遣ってか、それとも単に自分が早く寝たかったのかはわからないが、少し早めに寝ることにし、部屋の明かりを消して2人はそれぞれのベッドに入った。
(うっ、硬い)
城の私室に置いてあるベッドは高級品で広くてフカフカしていたが、この寮に設置されているベッドは硬く、1人が寝られる程度のスペースしかなかった。布団なども設備として置かれている物で、お世辞にも綺麗とは言えず、前に使用していた者の臭いなのか少し汗臭い感じがした。
(今日はいろいろなことがあったな)
ルイスは今日のことを思い出していた。幼いときに拾った本に影響されて、勢いで男子校に入学した。国内には男子校はここ1校のみなので他に選択肢はなく、入学する算段に全力を投じたために情報収集が疎かになり、寮の部屋が個室ではなく、2人部屋であったり、浴室やトイレも部屋に備え付けがなく、共用であったりなど、思わぬトラブルもあった。
(上手く男子生徒を演じられただろうか)
この日のために、ルイスは拾った本で男の子の言動などを予め学んでいた。知識がその本からと言う偏った物ではあったが、自画自賛状態ではあるが、上手く立ち回れたのではないかと思っていた。1番の難関だった入浴も問題がないことがわかり、ルイスは何とかやっていけそうだと考えていた。
(さあ、今日はそろそろ寝なくちゃ)
ルイスは慣れない寝床ではあったが、これからお世話になるので、慣れるしかないと思い、目を閉じて寝ることにした。
(うっ、寝られない)
ルイスは何度か寝ようとして、寝かけたが、すぐに目が覚めてしまった。
「ぐおぉおおおおお、ぐがあぁぁぁぁぁあ」
原因は隣のベッドで寝ているアランだ。彼は完全に熟睡していて大きなイビキを掻いている。それが気になり、ルイスは寝られなくなっていた。
(そう言えば男の子と同じ部屋で暮らすんだな・・・)
ルイスはベッドから這い出て、アランの寝顔を見ていた。大きく開けられた口からはイビキが発せられていて、夜明かりに照らされた彼の顔を観察していた。
(もう寝よう)
ルイスは自分のベッドに戻り、まぶたを閉じた。すると疲れが溜まっていたこともあり、アランのイビキも気にならなくなり、いつの間にか眠りについていた。
「ん~、よく寝た」
ルイスは朝になり、気持ちよく目覚めた。ベッドの中で背伸びをしてから起き上がった。
「アランは・・・まだ寝てるな」
外は明るくなっていたが、アランはまだ就寝中であった。
「とりあえず顔を洗ってくるか」
ルイスは寝間着のまま、部屋の外に出て洗面所を目指した。
「おはよう」
「おはようございます」
洗面所は各階のトイレの近くにあった。途中同じ寮生とすれ違い、ルイスは挨拶を交わした。洗面所に到着すると、そこには手動式のポンプが設置されてあった。このポンプは上に付いているレバーを動かすことで、井戸から水を汲み上げて水が出る仕組みになっている。
「よいしょ、よいしょ」
レバーは意外と重く、ルイスは持てる力をフル動員して水を汲み上げた。
「出た出た」
ルイスは吹き出した水を手ですくい上げて、口をすすぎ、それから顔を洗い持ってきていたタオルで拭いた。
「ふ~っ。スッキリ」
それからルイスは途中トイレに立ち寄り、部屋に戻った。
「アラン、そろそろ起きないと朝食に間に合わないよ」
「ん~。あと5分、あと5分でいいから」
「はいはい、起きた、起きた」
親切心でアランを起こそうとしたルイスであったが、なかなか起きてくれず、バッと布団を剥ぎ取った。
(こっ、これは俗に言う朝に降る雨ですな。へぇ~こうなるんだ)
本だけの知識で知ってはいたが、ルイスは初めて見る現象に心拍数が上がっていた。
「さっ、寒っ。急に布団を剥ぐなよな」
「起こしてもなかなか起きないからだよ」
布団が剥ぎ取られて急に寒くなったアランは飛び起きた。ルイスはもう少し見ていたかったが仕方なく、何事もなかったように言った。
「おっ、いけね。少し寝過ごしたみたいだな。すまんすまん。すぐに用意する」
ルイスは既に着替え終わっていたが、アランはまだ寝間着のままであったので、その場で服を脱ぎだした。
(わお)
思わずアランの体に魅入ってしまったルイスであったが、慌てて視線を逸らし、何事も無かったように振る舞った。
「おや、2人ともおはようさん」
「おはようございます。アンナさん」
「おはよーっす。寮母さん」
食堂のカウンターで配膳をしていたアンナが声を掛けてきた。
「今朝はあんたたちで最後だよ。早くしないと片付けちまうよ」
そう言ってアンナはカウンターに2人分の朝食を置いた。彼女の言うとおり、食堂には人影がまばらで、既に朝食を終えてそれぞれの行動に移っているようであった。ちなみに夕食は集合時間が決められているが、朝食に関しては揃うのを待つのではなく、決められた時間内に済ませる格好になっている。
「「いただきます」」
食パンとハム、それとサラダに牛乳と簡素な物ではあったが、ルイスとアランは出された朝食を胃袋の中に収めた。
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末様。あっ、そうそう、せっかくだからあんた達が先に制服の寸法合わせしてしまおうか」
食べ終わった食器を返却したところでアンナがそう言ってきた。
「俺は構わないけど」
「僕も大丈夫です」
特に断る理由もないので、2人は快諾した。
「何か思っていたのと違う」
「どう違うんだ?」
すでに食堂の片隅に寸法の違う制服が置かれていて、それを順位着ることで、2人は寸法あわせをしていた。だが、ルイスは本で読んだブレザーや詰め襟の学生服を想像していたのだが、置かれていた服は全く異なる物であった。
「これって作業着?」
「いや、制服だろ?」
ルイスの知識ではこの服は作業服と呼ばれるものであったが、アランはこれが制服だと言った。
「もしかして、アレか? 貴族や金持ちの行く学校の華やかな服を想像していたのか? 行く当てのない平民が通う学費無料の学校だぞ? そんな物用意できる訳ないだろ?」
アランの言うことは正論であった。だが、ルイスは想像とは大きくかけ離れた制服にガッカリするのであった。
「俺は、このサイズかな」
「僕はこれだな」
「OK。2人のサイズは記録させて貰ったよ。最初は卒業生のお古を使うことになるだろうが、用意が出来次第新しい物に取り替えるから、それまでは我慢して使ってくれな」
アンナが2人のサイズを紙に記録した。入学式は明日である。当然今から服を新調するのは無理な話である。暫くの間は誰が着たのかわからない中古の制服で我慢するしかないようだ。
「それじゃ制服は夕食のときに配る予定にしてるよ」
「了解」
「わかりました」
制服の寸法合わせも終わり、ルイスとアランは食堂を後にした。
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