拙作グルメ~お魚好きのおじさんが、ごはん作って食べるだけ~
明桜ちけ
第1話 ニジマスの塩焼き
俺は
そんな俺も、日常の機微で文学を綴れるのではないかと思い、日々の
仕事上がりの十八時過ぎ。年が明けてから、寒さは日々厳しくなっていく。凍てつく風に晒されながら、俺は駅前のスーパーを目指す。
新しく出来た駅前のスーパーは商品が豊富で、特にこの辺りでは品揃えが悪かった魚が強いのが嬉しい。
どこも売れ筋の魚の切り身と刺身ぐらいしか取り扱っておらず、物足りなく思っていたのだ。
スーパーに着くと、とりあえず野菜コーナーで安い野菜を適当にカゴに入れ、鮮魚コーナーへ向かう。
鮮魚コーナーでは一尾丸ごとの魚が半額になり、売り場の端に集められている。
特売のブリ刺しも1パック500円程度でお買い得だが、外の寒さが刺身という選択肢を拒絶していた。
メバルが半額で249円…でも煮付けって気分じゃない。ヤリイカが二杯で278円…帰ってから二杯捌く気力はない。チダイが半額249円…結構大きくて食べ切れる気がしないな。ニジマスが一尾半額89円……89円!?
「やっす…!!」
思わず声が出てしまった。
川魚を扱ってる店が身近に無かったのもあって、破格の値に感じる。半額だからというのもあるのだが、それにしても安い。
今日はニジマスの塩焼きにしよう。物足りなかったら、味噌汁に卵か豆腐を入れればいい。
そう決めると、俺は余計なものを見ずにレジへ向かった。
□□■
帰宅して買ってきた食材を冷蔵庫へ片付け、部屋着に着替える。
早速ニジマスの調理に取り掛かろう。
ニジマスの塩焼きはシンプルで簡単だ。下処理をして塩を振って焼くだけである。
下準備として、魚焼きグリルの鉄板の上にアルミホイルを敷き、網に魚がくっつかないように油を塗っておく。
鉄板には水を入れるように書いてあるが、鉄板の汚れ防止にアルミホイルを敷くことで、皮がパリッと焼ける…気がするんだよな。
調理台には、小さじ1/2程度の塩を小皿に出しておく。これはニジマスの味付けと化粧塩に使う。
それからキッチンバサミと割り箸と小さいゴミ袋をシンクの横に出しておく。こちらはニジマスのヒレや内蔵を取り除いたあと、すぐに捨てられるようにだ。
準備が出来たらニジマスをパックから取り出す。キッチンバサミで背びれ・胸びれ・腹びれ・尾びれを切り落とす。そして肛門――腹側の中央より尻尾側にポツっと空いた穴――にハサミの切っ先を入れ、出てきた黒い糸、腸のつなぎ目を切る。
次に流水に晒しながら包丁の背でニジマスの表面をこすり、汚れやぬめりを取っていく。ウナギほどではないが、ニジマスもかなりぬめりがありツルツル滑るのだ。ここで丁寧に洗って置かないと、臭みが出てしまうし、つぼ抜きという内臓を抜く作業の時に手から滑って苦労する。
表面を洗う際は、ステンレスのバットを裏返して台にしてやると、高さが出てやりやすい。加えて俺は、シンクに直接食材を置くことに抵抗があるのでこうしている。バットは100円均一で売っている大き目の物で大丈夫だ。
ニジマスを洗い終えたらつぼ抜き作業だ。今日一番緊張する見せ場だな。
用意していた割りばしを一本、ニジマスの口から入れ、エラを縫うように肛門の近くまで入れる。もう一本も同じように反対のエラに通して腹の中に入れる。入れ終わったら二本の割りばしを握って内臓をしっかり掴み、回転させながら内臓を抜き出……
ツルンッ
抜き…
ツルンッ
「………」
洗い方が甘かったかな…少し、滑る。抜けないとまではいかないが、滑る。
あまり力を入れて握るのは本意ではないが…少し失礼して、内臓を…抜き…取る!!
割りばしに上手く巻き付いて、内臓が綺麗に取れてくれた。よし、中もちゃんとキレイだ。見た目も型崩れしていない。成功だ。抜き取った内臓は割り箸ごとゴミ袋に入れ、端に寄せる。
ここまで出来れば後は塩を振って焼くだけである。
魚焼きグリルの上にニジマスを乗せ、小皿に用意していた塩を振る。身の部分に一つまみ程度を振り、残りは尾びれに化粧塩として付ける。
うちのグリルは片面焼きなので、片面5分程度…グリルの自動タイマーが3分刻みなので、まず6分でセットし、弱火で焼く。川魚は火が通りやすく、焦げると身崩れもしやすいので、強火にしない方がいい。
ニジマスを焼いてる間に、味噌汁の準備と洗い物をする。
小鍋に水と徳用の昆布――5センチくらいに切ってあるもの――を1枚入れ、火にかける。昆布は沸騰直前に抜くものなのだが、俺はそのまま具にして食べてしまう。煮立ったところに、まいたけを適量手でほぐし入れ、小松菜を洗い、鍋の上でキッチンバサミで切って、直接出汁の中に入れる。
あとは味噌を溶き入れるだけになった鍋の火を弱め、洗い物を終わらせてしまう。
ピーピーピー
洗い物が終わるころに、魚焼きグリルのタイマーが鳴り、火が止まる。
「おおっ……いい感じに焼けてるじゃないか」
綺麗な焼き色の上に、雪のように映える塩が食欲をそそる。囲炉裏で焼いたんじゃないかと思うほどの良い色合いに焼き上がっている。化粧塩をした尻尾の見事な塩焼きぶりも、素晴らしい存在感だ。
あまりの出来栄えに感動しながらニジマスを裏返し、もう片面を焼く。こちらも弱火で6分でセット。完成が楽しみだ。
焼き上がりまでの間に食卓を拭き、お茶を用意。
火を弱めていた鍋に味噌を溶き入れ味噌汁を完成させる。ご飯と味噌汁を器に盛り、食事用のトレーにセットに並べたところで
ピーピーピー
魚焼きグリルのタイマーが鳴った。
皿と菜箸を持ってグリルを開けると、塩に彩られたニジマスがジュワワァっと良い音をさせている。裏面も綺麗に焼き色がついていて美味しそうだ。
菜箸で盛り付けてもしっかりとした身は崩れることはなく、それでいてパリッと焼けた皮が食欲をそそる。
主役のニジマスの塩焼きを中央に据えたトレーは、完璧な定食だ。その出来栄えに満足しながら、俺は食卓へ向かった。
□■■
「いただきます!」
味噌汁を一口すすって、すぐニジマスに箸をつけた。箸でパリリと切れた皮のすき間から、ふっくらと柔らかい身が溢れ出てくる。頭側の上身を大きめに外して口に頬張った。
弾けるような塩の刺激と共に皮の香ばしさ、柔らかい身の甘みが口いっぱいに広がる。
「これは……千円はくだらないな」
今度は白米と一緒に、厚めに外した上身を頬張る。白米と魚の甘みが合わさって、体に癒しが広がっていく。そして味噌汁を一口飲んで、ほっと落ち着く。
川魚は傷みやすいので、渓流近くの食事処などでないと食べられないものだったが……スーパーでこれだけのものが買えるなんて、世の流通技術は進化しているのだなぁ。
「せっかくなら、串打ちもすればよかったか」
川魚といったら、少しうねった感じに串を打って焚き火で焼いたものにかじりつくのが醍醐味だが……。
「でも骨苦手だから、箸のが食べやすいんだよな」
あっという間に半身を食べ切り、ペリペリと中骨を外す。再び現れた半身に、白米がどんどん進んでいく。魚を塩で焼いただけなのに、こんなに美味しくなるなんて反則だよな。
「はぁ……」
食べ切ってしまった……。これは意外と、2尾でも食べ切れたのではないか?いや、それは食べ過ぎか……うん……。
「また近いうちに買おう」
そう自分を納得させて、俺は食卓を片付け始めた。
■■■
「鮮魚の強いスーパーができて、本当に良かったなぁ」
仕事帰りにこれだけのものが買えるのは本当に嬉しい。他の魚の種類も結構多かったし、これから期待大だな。
川魚もそれなりに扱うなら春にはヤマメ、夏にはアユも並ぶのだろうか?そうだとしたら、たまには串打ちをしてかぶりつくのもいいかもしれない。夏なんか雰囲気出て楽しそうだ。
そのためにも、どんどんあの店で魚を買って食べないとな。
そんなことを考えながら、しがないアラフォーサラリーマンの夜はふけていった。
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初めての小説投稿です。
小説たくさん書き溜めてから毎日更新したかったのですが、食材の旬が過ぎて来年まで作れなくなっちゃうので、連載始めます。
よろしくお願いします!
■使う道具
割りばし
包丁
ステンレスバット(無くても大丈夫)
キッチンバサミ
■事前の準備
魚焼きグリルの網に油を塗る
魚焼きグリルの鉄板にアルミホイルを敷く
小皿に小さじ1/2程度の塩を出しておく
■調理手順
1.キッチンバサミでニジマスの背びれ・胸びれ・腹びれ・尾びれを切り落とす。
肛門から腸のつなぎ目を切る。
2.ニジマスを流水に晒しながら、包丁の背で表面をこすり汚れやぬめりを落とす。
3.割りばしをニジマスの口から入れ、エラを縫うように肛門の近くまで入れる。左右両方とも同じように入れ終わったら、二本の割りばしを握って内臓をしっかり掴み、回転させながら内臓を抜き出す。
4.魚焼きグリルにニジマスを左に頭がくるように乗せ、身の部分に塩を一つまみ程度ふりかける。尻尾には化粧塩(多めに塗り付ける)をする。
5.魚焼きグリルで弱火で片面5分程度ずつ、両面を焼く。焼き上がったら完成。
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