式神に溺愛されて、今日も生きている

九十九まつり

さようなら、平凡な日々

 僕の名前は七条優史しちじょう ゆうし。霊能力者の家系に生まれて、目立たないほどの実力のありきたりなモブだった。僕の家を継ぐのは七条家で最強と言われる兄だし、僕は自分の力を鍛えようとも考えなかったので、普通の人たちが通う学校に入学して、平穏な日々を送りたいのだ。


 それなのに、今、目を覚ましたら知らない場所にいた。教室のようなところで、生徒の椅子と机が並んでいる。そして僕のクラスメイトたちも不思議そうな顔をして、きょろきょろと見回していた。一体何が起こったのだろうか。家で寝ていたはずなのに、制服を着て知らない場所にいる。ざわざわと騒がしくなっている教室の中に、1人の男が入ってきた。教師のような装いをしているが、明らかに人ではない。


「さて、皆さんにはこの学校からの脱出を試みてもらいます。」

 何を言っているのかと思えばガラスが割れる音が響き、目の前の男を何かが倒した。ぐしゃりと嫌な音がして、教室内に一瞬の静寂が訪れた。


「優史様、残念でしたね。」

 美しい顔でにこりと笑った彼女は、僕の式神、名前をシキと言った。シキは手に持っていた刀を男に向けて振り下ろした。頭が痛くなるような大きな悲鳴を上げて男は消えていく…。


「邪魔者は消えたし、帰りましょうか。」

 シキは僕を担いで窓から飛び降りた。


「待って、クラスメイトがまだっ!」

「…?なに言っているんですか?アレが人間だとでも?」

 教室を見ると黒くうごめく何かたちがこちらをじっと見つめていた。アレは一体なんだ?さっきまではクラスメイトだったはずなのに。


「これでもまだ、我が主様は普通の学校に通えると思ってるんですか?周りに被害が出る前に、自衛する手段を身につけてください。」

 彼女の言葉がぐさりと刺さる。確かに何もできないし、人かそうでないかの判断が難しい時もある、そして何より、悪いものに好かれやすい体質だ。


「でも、霊能者たちの学校に通ったって、何か変わるとは思えないし。見えないふりをし続けた方が…。」

「それが出来ないからこんなことになるんですよ。普通の学校に通って1ヶ月経ちますけど、私に助けられた数は覚えていますか?」

 そう、まだ1ヶ月しかたっていないのに、霊にかかわった数は10回以上ある。今まではずっと家にいたから外の世界を知らなかったけど、外にこんなにも霊がいるなんて思ってもいなかった。


「そもそも次期当主様も、優史様の願いをかなえるから悪いのです。力の制御ができるようになったといっても、幼稚園児が小学生に成長したようなもので、まだ大人レベルではないのですから。」

「し、シキ…。」

「なんですか?七条家は優史様に甘いのです。私が強く言わないと誰も言わないでしょう。」

 そう言っていつの間にか僕の部屋についた。シキは僕のことを優しく下ろすと、お茶を用意してくれた。彼女も僕のことを甘やかしていると思うんだけど。


「…ありがとう。」

 お礼を言うと、シキは胸を押さえたまま動かなくなった。シキはたまにこうなる。何故かはわかないけど、時間を置けば治るからひとまずはそっとしておいた。

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