第11話知らない藪はつつかない方がいい?

いったいどういうことなんだ!?なんで愛深と彼女は知り合いなのか?

あれ?よく見たら愛深と同じ制服を着ている。

ということは同じ学校の生徒なのか?

それなら冴子さんを知っていてもおかしくは無い。

だとしても一体どういう状況なんだこれは?

もし仮に愛深の友人だとしたのなら彼女も下手なことはできないはずだ。

今は次の動きを待つしかない。


祐介は状況が整理できないで混乱し、

な、なんで愛深がここにいるのよ!?

それに男に抱き着かれても別に嫌がってないし、もしかしてそういうことなの?

いやいや、そんなことよりどうするのよ。

愛深にこんなところみられて平気なわけがない!

とりあえず今は誤魔化すしかない!


怜美は祐介に抱き着かれている愛深を見て驚愕し、


ご主人様が私に抱き着いてる♥

え!?これってもしかして私ここでまさかまさかなの!?♥

それも怜美ちゃんの前でなんて新しいプレイなのかしら?♥

ああ、想像するだけで胸がはちきれそう♥


愛深は祐介に抱き着かれ歓喜に浸りながら友人の怜美に気づきより一層浸っていた。


各々が頭をフル回転させながら状況の整理をしていた。

3人がその場で固まる中1番最初に動き出したのは怜美だった。

怜美は2人から距離を取り物陰にその姿を隠した。

怜美が隠れた場所からはガチャガチャと物音が鳴り、埃が宙を舞った。


「やばい、やばい誤魔化すって言ったってどうすればいいのよ?

こんなところに何かあるわけでもないし、顔なんて変える事なんかできるわけでもないいったいどうすれば。」


怜美はどうにか自分であることを隠すことはできないかと思いあたりに何かないか必死に探した。

そして自分のカバンの中をあさっていると何かを見つけた。


「もうこれしかない!今は何としても愛深に私でないと思わせないと!!」


時間にして1分にも満たない時間だった。

次に怜美が姿をあらましたときにはお祭りで売っているようなをかぶってその姿を現した。

先ほどの焦っていたのが嘘かのように腰に両手を置き仁王立ちで堂々と姿を現した。


「ふん、怜美なんて女はここには存在しないわ。私は全くの別人よ、そこの女子高生!」


怜美は強気に言いながら愛深に指を指した。

祐介と愛深は口を半開きにしながら固まっていた。

ひょっとこのお面を付けスカートの制服を着た女子高生がいきなり前に飛び出してきて無理やり自分を隠したのだ。


「いや、さすがに無理があるだろ。」


「ねえ、やっぱり怜美ちゃんだよね?」


咄嗟に思い付いた怜美の思い付きも無残に散った。

指摘された怜美もその場で固まり言葉も出ないでまるで銅像のように固まっていた。


「とにかく、そこの女子高生はそんな男なんかから早く離れなさい!出ないとあなたまでひどい目に合うわよ!それが嫌なら、今すぐここから出ていきなさい!!」


怜美は愛深が祐介に好意を持っていることを知らないで咄嗟に言葉を放った。

しかし、その言葉は決してつついてはいけない藪をつついてしまった。


「怜美ちゃんそのお面外して私とお話ししようよ。」


そう言って愛深は立ち上がりゆっくりと固まる怜美の元に歩き出した。


「愛深そっちに行っちゃ危険だぞ!」


祐介が愛深を止めたが聞く耳を愛深はすでに持っていなかった。


「怜美ちゃん何でこんなことしたの?私全部見てたの。怜美ちゃんがご主人様にナイフで脅してここまで連れてきたのも♥ご主人様に無理やり話させようとしたことも♥私、全部見てたの♥」


愛深はゆっくりと話しながら怜美に近づいて行った。

その背中を見ていた祐介は愛深から何かを感じ取った。

それは決して目に見えるものではなかったが言葉では表せない何かを感じ取った。

怜美もそれを感じ取っていた。

怜美は固まっていた。

恥ずかしさで固まっていたわけではなく愛深から感じられた何かで固まっていた。

どんどん近づいてきたそれに怜美は恐怖を覚えた。

初めて知ったその恐怖に思わず一歩後退りをしてしまうほどだ。


「今回は怜美ちゃんだから許してあげる♥もう一回聞くよ♥ねえ、なんでこんなことしたの?♥」


愛深はお面の開いている目から怜美の事をじっと見つめた。

怜美と愛深の顔の距離は1㎝歩かないかの近さだった。

怜美は思わず持っていたナイフから手を離し地面に落とした。

そして、怜美は口をすぼめその目にじわじわと涙が出て溢れそうになった。


「きょ、今日のところはこれくらいにしてあげる!!次はないんだから覚えておきなさいよね!!」


涙を隠し怜美は一言言って廃工場から走ってその姿を消した。

そして、また廃工場は元の静けさを取り戻した。

しかしそれも長くは続くことはなかった。

誰かが走ってくる音が聞こえてきた。

そして姿を見せたのは涙をこらえ顔を赤くした怜美だった。

怜美は早歩きで2人の横を通り過ぎていく。

どうやら怜美は自分のカバンを取りに戻ってきたようだ。

カバンを持つと早歩きで無言で2人の前から再び去ろうとしたが祐介を通り過ぎてから少しのところで立ち止まった。

そして振り向き何かお言おうとしたのか口を開いた。


「別に愛深が怖くて泣いたわけでもないし、あんたなんか愛深が居なければ今頃・・・」


「怜美ちゃん♥」


怜美が言おうとしたことを察したのか愛深が怜美の名前を呼ぶと怜美はそ以上は言わなかった。

むしろ愛深の声を聴いておびえたようにも見えた。

そして、怜美は廃工場から去って行った。

再び廃工場に静けさが戻った。


「大丈夫ですか、ご主人様♥」


愛深は祐介の元に向かう。

祐介に肩を貸し立ち上がらせる。


「大丈夫だけど、溺さんは大丈夫なの?どこか怪我とかしてない?」


祐介は愛深を頭から足元まで見渡したが制服が砂埃で汚れているだけで怪我とかは無いようだった。


「ああ、ご主人様が私の心配をしてくれるなんて♥大丈夫です、私の体はご主人様の物ですから、ご主人様が無事ならこの体なんて二の次です♥」


愛深は息を漏らしながら体をくねらせ頬を両手で隠した。


「それは違う。」


祐介は愛深の両肩を掴んだ。


「溺さんの体は溺さんの物だ。俺がとやかく言うのは変かもしれないけど自分のことを差し置いて他の人のためにするのは良いことかもしれないけど、自分のことを守れないんじゃそれは違うと思う。

今回は君の友人だったから平気だったけど、もし本当の犯罪者ならただでは済まないと思う。それでもし溺さんが俺をかばって何かあれば溺さんはよくても俺は絶対に自分を許せない。

もし今後も俺のことをご主人様というなら自分のことを無下に扱わないと約束してくれ。」


祐介は愛深の目を見て真剣に言う。

それを聞いて愛深は涙を流した。

涙は目から頬を伝ってこぼれ落ちていった。

泣き顔を見せまいと愛深は顔を下に向け両手で顔を覆った。


「分かりました。ご主人様。」


「いや、別に泣かすわけじゃなくって。」


愛深が涙を流して祐介は動揺した。

まさか自分が愛深を泣かせたと思ったからだ。


「と、とりあえず家に帰ろう。もう日が暮れそうだから家まで送るから、ね?」


愛深は静かに小さくうなずいた。

そして祐介と愛深は廃工場を出て家への帰路に就いた。











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