第9話帰るときには後ろにもご注意を?

冴子と祐介が話していると続々と生徒たちが登校してきた。

通りかかる女子生徒のほとんどは冴子を見るとそろって冴子に向けて挨拶をしていき教室へと向かった。

冴子に挨拶した女子生徒たちは冴子と話している祐介を見て冷たい目を向けていた。

冴子はどうやら初日から女子生徒たちからの人気があるのが分かった。


「凄い人気者だね剣崎さん。」


「冴子でいいよ。どうやら誰かが昨日の一件を知ったようでそれが広まってしまってね。困ったものだよ。」


話している間にも登校してくる生徒の数はどんどん増えていく。

冴子も挨拶してくる女子生徒たちに笑顔で手を振って返していく。


「でも冴子さんが来てくれなかったら今頃どうなっていたか。本当にありがとう。」


祐介は改めて冴子に美花を助けてくれたお礼を頭を深々と下げ言った。

祐介が頭を上げて数秒したら学校のチャイムが鳴り始めた。


「それじゃ、私は隣のクラスだから何かわかったら教えてくれ。また後で。」


「わかったよ、じゃあまた後で。」


そうして二人は各々のクラスへと向かった。

祐介と別れた冴子の周りにはすぐさま女子生徒が集まり始めた。

その背中を見ながら祐介は美花がいる教室に入っていく。

教室に入ると朝見た美花が嘘かのように人と話していた。

入り口からでもわかるほどに教室の男子生徒は美花を遠くから見て何か話しているものがちらほら見えた。

美花は教室に入ってきた祐介に気づいても気づかないふりをした。

祐介は静かに自分の席に向かい荷物を置き席に着いた。

すでに教室ではいくつかのグループに分かれていた。

初日に教室にいなかった祐介はどのグループにも入れずにいた。


「君が祐介っていうの?」


突然後ろから誰かに声をかけらえた。

祐介は突然のことでビクッと少し体が跳ねた。


「そ、そうだけど?」


「君のこと一年の間じゃあ有名だよ。あの天乃さんを守った一人としてね。ほとんどの生徒が知ってるんじゃないかな?それにしてもすげえよな。年上の不良に逆らうなんて。俺だったらその場に立ち尽くしてたかもしれないのに。それにさ・・・」


彼は一人で次々と話を進めていく。


「あ、ごめんごめん。俺の悪い癖でさ、話してると少し周りが見えなくなる癖があるんだよね。俺は柏樹 回舌かしわぎ えげちっていうんだ。これも何かの縁だしよろしくな。」


柏樹はそう言って祐介に手を差し出した。


「こちらこそ、よろしく。」


祐介は手を取り二人は握手をする。

そのあとは朝のホームルームが始まり、授業が始まっていく。

柏樹のおかげで祐介はグループの話にはいることができクラスにはすぐに馴染むことができた。

やはりクラスの中では美花はかなりの人気者でほとんどの生徒が美花に好意を抱いていた。

祐介は隙を見ては美花に話しかけるが「また後にして。」と言われ祐介から離れていった。

そうしてなぜ美花が祐介を避けるのかがわからないまま放課後になった。

祐介は今日は何もしないで帰ろうと荷物をまとめていると教室の入り口の方が何やら騒がしかった。


「なあ、祐介お前に用があるって剣崎さんが呼んでるみたいだぞ。」


柏樹が祐介に寄ってきてそう言った。


「あの、1年ツートップからの呼び出しなんてお前いったいなにしたんだよ?」


柏樹の口から出たツートップとは美花と冴子の二人を総称した呼び方らしい。

すでにその呼び方は一部で広まっているようだった。


「さあ、とにかく行ってくるよ。また明日な。」


「明日何があったか教えてくれよな。」


そうして祐介は柏樹と別れ、待っている冴子の元に向かった。

冴子の周りには数人の女子生徒が集まり談笑をしていた。

話していた冴子が教室から出てきた祐介に気が付いた。


「ごめんみんな、これから用があるからまた明日ね。」


冴子はそう言って女子生徒たちを後にした。

女子生徒は冴子が通る道を開け歩いていく冴子に手を振って見送った。

2人は玄関に向かって歩き始めた。


「朝もそうだったけどすごい人気だね。」


祐介は冴子が先ほどまでいた場所見ながらそう言った。

その場所にはまだ見送っている女子生徒たちが手を振っていた。

冴子は振り返り手を振り返した。

手を振り返すと女子たちは歓声を上げた。


「はは、全く困ったものだよ。どうしたらいいものか。」


冴子は苦笑いしながらそう答えた。


「それでどうだった?何か進展はあったかい?」


祐介は冴子の質問に首を横に振った。


「むしろ俺の事を避けてるみたいだったよ。あれじゃ、何が原因なのかわからないよ。」


祐介の話を聞いて冴子は悩ましげな顔をした。


「そっか。いったいどうしたんだろうね。」


「それでも、その反応は俺だけみたいだったよ。同じクラスの女子や男子には普通に話していたから冴子さんも問題ないんじゃないかな?」


「そうなのか。それじゃあ、まるで君に問題があったみたいだね。」


そう話しているうちにいつの間にか玄関にたどり着いた。

祐介は靴を取るが冴子はその姿を見ているだけで立ち尽くしていた。


「あれ、帰らないの?」


「いや、違うよ。これから部活で武道館に向かうんだ。」


「そうだったの?そうとも知らないで遠回りさせてごめん。」


冴子が言う武道館と今いる玄関は全くの逆の場所に位置していた。


「君はすぐに謝るね。そんなに気にしなくて大丈夫だよ。それより、さっきの君だけにそのような態度を取るという言葉を聞いて思いついたんだけどもしかしたら昨日のアレが原因じゃないのかな?」


祐介は昨日のことと聞いて愛深のことを思い出した。


「まさか、溺さんの件のこと!?」


昨日のことを思い出して祐介は生唾を飲んだ。


「ゆばりさんって言うんだ。知り合いだったの?」


「いや、知り合ったのは昨日なんだけど、その、なんというか、」


祐介は昨日の愛深のことを言うべきなのか言わないべきなのか迷っていた。

戸惑っている祐介の様子を見て美花はクスっと笑う。


「なんにせよ、多分その溺さんのことが原因の可能性があるかもだから明日にでも二人で話した方がいいよ。」


「そうしてみるよ。ごめん、長いこと話に付き合わせて。」


「気にしないで。それじゃあ何か進展があることを願ってるよ。」


冴子は武道館に向かい祐介は家への帰路に就いた。

祐介が歩いている後ろに2人の影があった。


「教室でも私のこと無視するなんて、昨日あんなことしたっていうのに早速私への放置プレイの一環なのかしら♥」


「あの男、あんなに冴子様に近づいて。うらやま、いや、憎たらしい。釘を指しておかねば。それにしても冴子様があんな顔をするなんて、美しい。」






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