地底少女

ヘルニア

第1話 ありがとう

「こちら研究区画N。被検体第13号をそちらに送る。異論はないか?」

声が聞こえる。

「こちら実験用区画K。異論なし。今すぐ被検体をこちらに輸送されたし」

また声が聞こえる。私のことを被検体と呼ぶ彼らの声が。

「私は被検体第13号。ご命令を」

私は命令を遂行するだけのマシーン。ただそれだけ。いつも通り命令通りに動いていたある日、その日はやってくる。

「被検体第13号、私が直々に任務を与える。今から地上に出て人類を絶滅させよ」

「了解です」

私はそう答えると、命令通りに地球のある座標に送られた。

「、、、」

ざーざーと、何かが降っている。これは、液体?毒でもあったら大変だ。もしかしたら酸性かも知れない。私は近くにあった半円柱型の赤い屋根の下に入ってやり過ごすことにした。しばらくして、人間の物と思わしき声が聞こえてきた。

「あら、あなたびしょびしょじゃない。どうしたの、こんなところで」

「私は、、、」

言おうとして止まった。私は人間を殺すために地上に送られた存在、この人間も殺すべきか。だが、私が考える間も無く、その人間は私の手を引いた。

「せっかくだしウチに来なよ。一緒に雨宿りしよ!」

「いえ、私は、、、」

「いーのいーの!遠慮しない!」

私は彼女に連れられるままに一軒の建物に入った。

「ここは、、、?」

「私の家だよ!あ、そう言えば名前聞いてなかったね。私はヨーコ、水澄(みすみ)ヨーコっていうの!あなたは?」

「名前、、、?」

困惑、これから殲滅する対象にわざわざ語る必要はない。だが、、、

「んー、まあ無理して言わなくていいよ。私はあなたの事をシロって呼ぶから」

「シロ?」

「そう、あなたはシロ!その真っ白で綺麗な髪の毛に澄んだ純白の瞳、あなたはこれからシロよ!」

勝手に名前を付けられた。だが、気分は悪くなかった。研究区画にいる間は、コードネームで呼ばれたことしかなかったからだろうか。私の中にはあるはずのない高揚感が確かに存在した。

「そうだ、私の家族を紹介するね!」

私は彼女に手を引かれ、別の部屋に入っていく。

「お父さん!新しい家族のシロよ。よろしくしてあげて!」

「おお、べっぴんさんじゃないか!俺は水澄セージだ、よろしくな」と中年男性と思わしき人間。

「シロは雨の中で公園の土管にうずくまっていたの。心配だったから連れてきちゃったんだけど、大丈夫だった?」

「大丈夫もなにもない。あの降ってくる水は正体不明で危険なものかも知れない。だから建物の中に来られたのは僥倖だった」

「えーと、つまり感謝してるって事でいいんだよね、シロ?」

「ええ、ヨーコ。こういう時は何て言えば良かったのかしら、、、」

「あー、きっとそれは『ありがとう』だな」とセージ。

「あ、ありがとう、ヨーコ」

私はひとまずこの建物を根城にすることに決めるのだった。

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