04

 エレノアと一緒に待ち続けていると、1人の男の子がやってきた。変身魔法でいつもと違う姿になっているけれど、彼は王子である。


 いつもであれば青髪に銀の瞳の美少年だが、茶髪銀目の美少年である。


 …ちょっと待てよ。今の私、青髪に銀目では??なんで忘れていたんだ。本来の姿の王子とカラーかぶりではないか…。


 悔しいと思っていると、いつの間にか王子とエレノアがお話ししていた。


「あなたはこの子のお兄さんではなさそうだね。」

「あぁ。俺は歌声に惹かれてきただけだ。君が歌っていたのか?」

「うん。そうだけど…?」

 私はエレノアの背に隠れて2人の話を聞いている。王子はエレノアと後ろに隠れている私を見ていた。


「透き通るような素晴らしい歌声だった。初めて心を動かされた気がする。」

 美少年は何を言っても、きれいな見た目のおかげて寒い奴にならない特別なスキルでも持っているのか。羨ましい。


「いたぞ!あそこだ!!」

 ヒロインと王子の大事な出会いのシーンの途中で、見るからに悪党のような容姿の男たちがやってきた。これが誘拐犯かな…。本来であれば私を王子と間違えて誘拐する話だけど、間違えるような見た目ではないから、本物の王子を誘拐しに来たのか。


「こっちが月の柱か。こっちのガキは関わりがあるのか?青髪に銀の目だし…。」

 関わりはないですと大声で叫びたかったが、そんなことする間もなく、私は人質にされてしまった。運命から逃れようと変身魔法でも女の子のままでいたのに、結局はこういう目に遭うのか…。


「月の柱…貴方、王子様なのね!?」

「あぁ、そうだ。」

「いいか、黙ってろ。コイツの命がおしけりゃ、大人しくしてろよ。」

 エレノアと王子の会話シーンを遮った悪党は許せないけど、私がピンチなのにのんきに会話されても許せない。これが【推しが今、目の前にいるけどそんなこと気にしてる場合ではない】という状況。早く悪党退治と私の生存ルートを確保しなくては…。


「…そこの子供は知り合いではない。それに私が、お前らの言うことを聞くわけがないだろう。」

 王子が手を前に出すと噴水が凍り、ドラゴンの形となり悪党に襲いかかる。これは王子の氷属性魔法である。兄様と同い年だから、今は10歳になる年か…。こんなに自由自在に魔法が使えるとは羨ましい。


 王子の魔法は強くて、あっという間に悪党たちを倒していく。そして、残りは私を捕まえている男のみとなった。


「…さぁ、どうするつもりだ。」

「はっ、本当に人質としての価値はないのか。それなら!!」

 ブンっと私を噴水の方へ放り投げ、男は王子に向かって走り出した。私、噴水に落ちる運命なのかな。この世界で初めて目が覚めたときも噴水に落ちていたような…。まぁ、今回は水は王子の魔法で氷に変わっているから、とても痛そう……というか無事ではすまないけどね。


 王子は咄嗟に、魔法で使った氷のドラゴンを水に戻した。私のためかはわからないいけど、攻撃手段をなくした。つまり、王子はがら空き状態である。


 王子が死亡するルートを作るわけにはいかない!!


 私は何もできないのに、王子の方へ手を伸ばした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る