第47話 お惚気大会~誰が1番?~ 2/2
ごきげんよう。
いらしてくださって嬉しいですわ。
ふふっ、恋バナ、の続きですわよね。
皆様に自覚は、あまりおありではないようですけれど。
そこがまた、良いのかもしれませんわね。
それでは、さっそく始めましょうか。
※※※※※※※※※※
「もうっ、兄さんったらっ!いつも言ってるでしょ?!ノックくらい・・・・」
「なんだ?突然入られて困ることでもあるのか?っていうか、なんだよ、こんなに集まって楽しそうに。俺も呼んでくれよ」
「別に兄さんを除け者にしてる訳じゃなくて、偶然みんな集まっちゃったというか」
「で?なにを楽しそうに話してたんだ?」
ノックもせずにユウの私室へと入って来たカークは、ユウの抗議などいつもの小言と意にも介さぬ様子で、興味津々に話をヒスイへと振る。
「なにって・・・・今のところ僕には惚気話にしか聞こえなかったけど」
「・・・・惚気話?誰の?」
キョトンとした顔のカークに、ヒスイは軽く肩を竦め、手の平を上に向けた右手で順に全員を指す。
「ここにいる、全員、かな」
「・・・・俺は関係ないだろ」
最後に自分に向けられたヒスイの手をパシリと振り払い、ヨーデルは片眉を上げてヒスイを睨むが、ヒスイはそれをやんわりと微笑で受け止めた。
「それはどうかな?」
「は?」
「自覚無しが一番扱いづらいよね」
「なんだと?」
またもやヨーデルとヒスイの間に漂い始めた不穏な空気に気づくことなく、カークが割って入る。
「なんだカテキョ、あれからミャーと進展無いのか?だらしないなぁ」
「ほっとけ。オトナにはオトナの付き合い方ってもんがあるんだ」
「カテキョはオトナでも、ミャーは俺より年下だぞ?しっかりしてるように見えるかもしれないけど、ミャーはあれで寂しがりやなところもあるんだ。だからしっかり支えてやってくれよ」
「分かってる」
「それから」
面倒そうに顔をしかめるヨーデルに、カークはニヤリと笑う。
「ミャーのあの独特な言葉遣いは意外に人気でね。この城の中にもミャーのファンだっていう連中は、結構いるんだぞ。だから、うかうかしてると他の奴に」
「お前らボンクラ兄弟のセクハラの方が、俺はよっぽど心配だね」
「セクハラっ?!俺とユウがっ?!」
「ほぅ・・・・ボンクラという自覚はあるのか」
「ていうか、やっぱりミャーが心配なんだな」
「・・・・ふんっ」
不機嫌さも露わに、ヨーデルはカークから顔を背ける。
「ほんと、素直じゃないよねぇ、ヨーデルって。これは大変だね、ミーシャも」
「ヨーデル様、相手を大切に思う気持ちは、素直に口にされた方が宜しいと存じます。ブルームも、愛していると伝えるととても喜んでくれますし」
本当にもう、可愛くて愛しくて・・・・
と、デレるライトを呆れ顔で見ながら、ヒスイがボソリと呟く。
「ライト達はあまりお手本にはしない方がいいと思うけど」
「なんで?」
ヒスイの呟きに、即座に反応するライト。
「なんで、って・・・・こっちも自覚なし?そんなの決まってるでしょう?ラブラブ過ぎだからだよ。ヨーデルとミーシャはまだその段階じゃないし、ライトとブルームとは性格が違い過ぎるし」
「恋愛に性格など関係ないだろうっ!好きな人とは一緒にいたいと思うのが当たり前だし、大事にしたいと思うのも当たり前だし、毎日でも欲しいと思うのも・・・・うぐっ」
「はいはい。まだその段階には至らない人たちもいるから、ちょっと黙ってようか、ライト」
素早い動作で立ち上がり、ライトの背後に回って暴走し始めたライトの口を片手で塞ぐと、ヒスイはそのままライトを手近なソファに座らせる。
「俺だって・・・・俺だって、スーちゃんとずっと一緒にいたい。今すぐにでも結婚して、毎日でもスーちゃんのあの可愛い笑顔を眺めていたいっ!そして、可能な限り早く・・・・」
言いかけて、カークはガクリと項垂れる。
「でも、まだスーちゃんは8歳だし。いくらなんでも・・・・」
「まぁ、向こう10年は我慢だな、カーク」
先ほどのお返しとばかりに、ヨーデルがニヤリと笑う。
「何が?何が我慢なの?結婚のことなら、チェルシー様とお父様で話し合ってもらえば、前倒しすることもできるんじゃない?」
「ユウ?そういう問題じゃないと思うよ?」
「え?そうなの?じゃあ、何の問題?」
「あなたって、たまにデリカシーに欠けるところがあるよね」
「えっ?なにが?」
小首を傾げるユウに、ヒスイは呆れたようにため息を吐く。
そこへ。
「お待たせいたしました。あら?カーク様もいらしたのですか」
ワゴンにティーセットを載せたミーシャが、静かに部屋へと入り、紅茶の準備を始めた。
「ミーシャさん。ヨーデル様はあなたの事を大切に思われているようですよ」
全員でミーシャの淹れた紅茶を味わい、その余韻に浸っている最中。
ライトが突然、真顔でミーシャに向かって言葉を掛けた。
「・・・・は?」
「おっ、おまっ、いきなり何言って」
ポカンとするミーシャと、慌てるヨーデル。
「ヨーデル様が素直に愛のお言葉を口になさらないと伺いましたので、僭越ながら私が代わりに」
「そうか、その手があったね。ありがとう、ライト!」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべてユウがライトに駆け寄り、その手を両手で握りしめる。
そして、驚くライトにお構いなくそのまま振り返ると、ミーシャに笑顔を向けた。
「そうだよ、ミャー。カテキョはね、ミャーの事が大好きなんだよ。ま、僕がキャロルちゃんを想う気持ちには及ばないと思うけど」
「恐れながら、私のブルームへの想いにも及ばないと存じます」
「それを言うなら、俺のスーちゃんへの想いにだって、及ばないけどな?」
負けじと言葉を重ねる、ライトにカーク。
「まったく・・・・いいトシをして何を競っているのさ。人を想う気持ちに優劣なんていうものは無いと思うけど。ねぇ、ミーシャ?」
クスクスと笑いながらヨーデルの横を素通りしてミーシャの傍まで歩み寄ると、ヒスイは片腕を回してミーシャの肩を抱き寄せ、耳元でそっと囁く。
「でも、ヨーデルにとってあなたが大切な存在だということは、間違いないよ」
「おいヒスイっ!今すぐミーシャから離れろっ!」
不機嫌というよりは怒りの感情をあらわにし、ヨーデルがオディールの柄に手を掛ける。
「ね?彼、結構真剣だと思うから。あなたも真剣に受け止めてあげてね?」
軽くウィンクをひとつ。
ひらりとミーシャから離れると、ヒスイは部屋の扉へと向かう。
そして、
「今日の紅茶もとてもおいしかったよ、ミーシャ。ごちそうさま。それじゃユウ、僕はこれで失礼するよ。また来るね」
優雅な身のこなしで一礼すると、そのまま部屋を出て行った。
「まったく、なんだあいつは・・・・ミーシャ、あいつに何を言われた?」
「えっ?・・・・あっ」
ヨーデルの言葉にハッと我に返った様子のミーシャは、みるみる内に顔を朱に染める。
「ミーシャ?」
「もう、こちらお下げしてよろしいですね?では、失礼いたします」
ミーシャはヨーデルの問いには答えず、どこかぎこちの無い動作で、カラになったカップをワゴンへと移し始めたが、
「ねぇねぇ、ミャー。ミャーはカテキョのことどう思う?僕はね、カテキョは口は悪いけど、すごく頼りになると思うんだ」
「そうだな。カテキョになら俺も安心してミャーを任せられる。なぁ、ミャー。どう?」
ユウとカーク、そしてライトの視線を一身に受け、動きを止め・・・・
「お前ら、いい加減に・・・・」
「用が済んだのなら、とっとと出てけーっ!」
ヨーデルの言葉を掻き消すほどの大声を部屋中に響き渡らせた。
「そっ、それでは俺は失礼しますっ!」
「あっ、俺スーちゃんに手紙書かなきゃ」
「ぼ、僕もキャロルちゃんへの贈り物探しに行こうっと」
「おい待て、お前らっ!」
ライト、カーク、ユウ、ヨーデルが一斉に部屋から走り出る。
廊下の片隅。
その様子を見ていたヒスイが、傍らのエトワールの肩を抱き寄せて、クスリと小さく笑う。
「ね?面白いでしょ、エト」
「うん。あんなに慌てているみんなの姿は、初めて見るよ」
「人を想う気持ちに優劣は無いけれども・・・・敢えて言うなら一番は、僕のあなたへの気持ちかな」
「えっ?」
「愛しているよ、エト」
「ヒスイ・・・・うん、ボクも」
恥ずかし気に微笑むエトワールの頬が朱に染まる。
その頬に。
ヒスイはそっと、キスを落とした。
※※※※※※※※※※
人を想う気持ちに優劣は無い。
ヒスイ様のこの言葉には、私も深く同意いたします。
ふふっ、結局のところ、大切な人を想う気持ちは自分が一番だと、皆さま思っていらっしゃるようですわね。
このような平和な時が永遠に続けばいいとつい思ってしまうのですけれど、カーク様にとっては少し酷でしょうか・・・・ふふふっ。
実際には、時を止める術は私にはございませんから、どのような時でも進み続けるしかないのですけれど。
それはそれで、楽しみでもありますわね。
あなたにお話を聞いていただくこの時間も、私にとっては大切な時間。
永遠に続けばいいと、思ってしまう時もありますのよ。
よろしければまた、いらしてくださいな。
お待ちしておりますわ。
それでは、ごきげんよう。
二王国物語~不思議な力を与えられし王国民達の愉快な日常。そして彼らが下した決断の物語~ 平 遊 @taira_yuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。二王国物語~不思議な力を与えられし王国民達の愉快な日常。そして彼らが下した決断の物語~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます