第41話 初デート ~ ヨーデルとミーシャ ~ 3/4
ごきげんよう。
だいぶ暑さが和らいでまいりましたわね。
お風邪など召されていらっしゃいませんか?
今、温かいお飲み物を・・・・あら、お持ちになられていますの?
それでは、お茶菓子を・・・・
えっ?
それよりも、お話の続き、ですか?
あっ、そうでしたわね!
前回は、ヨーデル様とミーシャの危機の場面で終わらせてしまったのでしたね。
それではさっそく、続きをお話いたしますわね。
※※※※※※※※※※
「来いっ、ミーシャっ!」
ミーシャの腕を掴んで引き寄せると、ヨーデルはオディールを鞘から抜き放ち、男たちに向かって身構える。
「俺が逃げ道を作る。俺が合図をしたら、お前は結界まで全力で走れ」
「何をバカなことをっ!ヨーデル様を置いて私一人で逃げるなど」
「お前にここに居られる方が、足手まといなんだよ」
「足手まといって・・・・失礼なっ!」
ミーシャを背に庇いながらヨーデルは小声で指示を出すが、こんな時ですらミーシャは言うことを聞こうとはしない。
”ヨーデルが戦うなら、もちろん私も戦うわ”
”バカかお前は。お前は女だぞ?そんな細腕で戦えるわけが”
”
ふいに、祖国が内乱に突入したばかりの頃の、オディールとの会話が思い出された。
姿かたちはまるで違うものの、ミーシャはやはりヨーデルにオディールを思い起こさせる。
(なるほど、な。大間違い、か)
チラリと見たミーシャの手首には、一見しただけで高価だと分かるブレスレットが光っている。
男たちが狙っているのは、明らかにミーシャのブレスレット。
そして。
ミーシャそのものに違いない。
「なに、姉ちゃんがその手に付けてるもんさえこっちに渡してくれりゃ、命までは取らねぇよ。命までは、な。さぁ、とっとと寄越しな」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる男たちの言葉は、真に受けない方が賢明というものだろう。
だが、もしかしたらと、一縷の望みをかけて、ヨーデルはミーシャに尋ねた。
「そのブレスレット、奴らにくれてやることはできるか?」
「できません」
意外にも、腹の座った声でミーシャが答える。
「これは、ボンクラ王子弟からお預かりしたもの。おそらくは、とても思い入れのある、大切なものです。あんなどこぞの馬の骨とも分からん阿呆どもにくれてやることはできません」
「・・・・わかった」
ミーシャの言葉にオディールを握り直すと、ヨーデルは慎重に周囲を確認した。
取り囲んでいるのは、全部で5人。
うち3人は、雑魚と言って差し支えないだろう。
やっかいなのは、残る2人。
明らかに互角か、それ以上の力があるようにヨーデルは感じた。
(一か八か・・・・ってとこか?)
平和な国に暮らしてきたミーシャの目の前で人を殺める事に多少の躊躇いを感じつつも、今は命を守る方が先決。
少なくとも、ミーシャの命だけは。
「もう一度言う。合図を出したら全力で結界内に逃げこめ」
「ですから、そんな事は」
「俺はもう、大事な奴を失いたくはないんだっ」
低く抑えながらも激しさを孕んだヨーデルの言葉に、ミーシャはそれ以上抗うことはできなかった。
ややあって、無言のまま小さく頷く。
「絶対に、死ぬなよ・・・・はぁっ!」
右斜め後方からの攻撃を躱して、オディールの柄で鳩尾を一突き。
続けざまに真後ろから切りつけて来た男の剣をオディールで弾き飛ばし、左拳であご先に一撃を食らわすと、その左めがけてさらに剣を振るってきた男の後頭部に、ミーシャがいつの間にか拾い上げていた木の棒で一撃を食らわす。
不意を突かれて逆上し、ミーシャに向かって振り上げた剣を再度オディールで弾き飛ばすと、ヨーデルは思い切りガラ空きの男の脇腹を蹴り上げた。
残っているのは、余裕の笑みを浮かべながら、ニヤニヤと状況を眺めていた男2人だけ。
結界へと続く道は、向かって左側。
「俺はこれから左の奴を
「・・・・はい」
「いくぞっ」
オディールを片手に、ヨーデルが一歩踏み出した時。
「カテキョっ、ダメっ!」
「下がって、2人ともっ!」
声と同時に、巨大な火柱がヨーデルと男たちの間に立ち上った。
”ぎゃあぁっ!”
”なんだこれはっ?!あちっ、熱いっ!”
「はぁっ、はぁっ・・・・良かった、間に合った」
「おいでミャー、僕のそばに。結界張るから」
現れたのは、カークとユウ。
それこそ全力で走ってきたのだろう。
カークの軽やかなウェーブの栗色の髪は汗で額に張り付いてしまっているし、ユウのサラサラの黒髪も滅茶苦茶に乱れている。
「サリー、あいつらがこっちに来られないようにそのまま保ってて。でも、命は奪っちゃダメだよ。あ、そこに転がっているのもまだ生きてるみたいだから、気を付けて」
火柱に向かってカークが声を掛けると、応じるように火柱がユラリと揺れる。そして、次第に広がり、男たちとの間に炎の壁を作り上げた。
「もうっ、心配したんだからねっ!」
ミーシャの肩を抱きよせながら、ユウが珍しく
「ミャーをこんな危ない目に合わせるなんてっ!」
「それは違います、ユウ様。私がお願いしたのです。結界の外に連れて行ってくださいと」
ユウの手をあっさり払いのけると、ミーシャはユウの結界から出てヨーデルの隣に寄り添うように立つ。
「毒舌大王は、私を守ろうとしてくださいました。私と、そしてこのブレスレットを。おそらくは、ご自分の命を顧みることなく。ですから私は余計に、この毒舌大王を置いて逃げることができなかったのです」
「ミャー・・・・」
「お陰で私には、傷ひとつございません。それにこの毒舌大王は、毒舌のくせに誰の命も殺めてはいません。そこに転がっている馬の骨も、ただ気を失っているだけ。毒舌大王は褒められこそすれ、責めを負うことなど何ひとつされていません」
「なるほどな」
ニヤリと笑い、カークがポンッとヨーデルの肩を叩く。
「なかなかやるな、色男」
「あぁっ??」
「俺たちのミャーのハート、ガッチリ掴みやがって」
「なんだそりゃ」
「あ、まずいっ。そろそろあの馬の骨ども、目を覚ますぞ。早く結界の中へっ!サリー、俺たちが全員結界に入るまで頼むな!」
ユラリと揺れた炎壁に小さく頷くと、カークは呆然と立ち尽くすユウの背中をバンと叩き、指示を飛ばす。
「しっかりしろっ!お前は結界でミャーを守れっ。カテキョはひとりでも大丈夫だな?」
「当たり前だ」
傍らに寄り添い立つミーシャの背を、ヨーデルはユウに向かってそっと押す。
「ユウの結界の中の方が安全だ。行け、あいつのところへ」
「・・・・はい。あのっ」
「ん?」
「・・・・ありがとうございました」
ヨーデルに向かって小さく頭を下げ、ミーシャはユウの結界の中へ入った。
「ごめんね、ミャー」
「なにがですか?」
「僕のせいで」
「は?」
「そのブレスレットの・・・・」
「大変申し上げにくいのですが、そんなことより今は急いだ方がいいのではないかと」
「でも・・・・」
「ええいっ、つべこべ言わずにとっとと走らんかいっ!」
「はいっ!」
丸まっていた背中をシャキリと伸ばし、ミーシャの手を取ってユウが結界へ向かって走り出す。
後を追うようにして、ヨーデル、カークも結界に向かって走り出した。
※※※※※※※※※※
どうやらみな、無事に王国へと戻ってくることができたようですね。
安心いたしました。
私もハラハラしていたのですよ。
ここだけの話ですが、もし万が一のことがあれば、ヒスイ様にお願いしてヴォルムに時を止めてもらおうかとすら、考えておりました。
そして、どうやらこの後は、『反省会』なるものが開かれたようです。
ですがそれはまた、次の機会にお話しいたしましょうか。
よろしければ、おいでくださいな。
それではまた。
ごきげんよう。
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