第40話 初デート ~ ヨーデルとミーシャ ~ 2/4

 ごきげんよう。

 お待ちしておりましたわ。

 さっそく、続きをお話いたしますわね。

 ヨーデル様は元王子。

 レディのエスコートは、それなりに経験がおありのはずですが、どのようにミーシャをエスコートされるのでしょうね?

 どれほどの紳士であろうと、ミーシャのエスコートは少しばかり骨が折れるような気もするのですが。

 ヨーデル様ならば、あるいは。


 それでは、始めましょうか。


 ※※※※※※※※※※


「何故、毒舌大王が私などに?」

「いい加減、その『毒舌大王』はやめろ」

「本日は、ユウ様から『毒舌大王』のお供をするように、言い遣っておりますので」

「お前、面白がって使ってるだけだろ?」

「・・・・ちっ、バレたか」


 横を向き、小さく舌打ちをしたミーシャの姿を鏡越しに見たヨーデルは、思わず吹き出した。

 まさか、この口の悪い娘がギャグ王国唯一の王子付きのメイドだと、いったい誰が思うだろうか。


「うん、馬子にも衣装だな。それがいいんじゃねぇか?」

「その毒舌は生まれつきですか、お可哀そうに」

「そんな訳ないだろ」

「ええそうでしょうね。ならば毒舌大王と呼ばれるのがおイヤでしたら、まずその毒舌をおやめいただけますかね」

「・・・・はいはい」

「はい、は一度で結構です」

「わかったわかった」


 ミーシャと共に訪れた服屋。

 ユウにまんまと乗せられた形ではあるが、せっかくのデート。

 デートにしては、あまりに地味なミーシャの服が気になり、ヨーデル自ら見繕ったのだ。

 まだ自分の国に居た頃は、オディールにさんざん買い物に付き合わされ、時にうんざりすることさえあったが、その時の経験がこんな所で生かされるとはと、ヨーデルは自嘲気味に笑った。


 着替えを終え、試着室から出てきたミーシャはそのまま支払いへと向かった。

 その姿を見たヨーデルは、慌ててミーシャを止める。


「何をしている。ここは俺が」

「毒舌大王に服を買っていただく謂れはございません」

「大丈夫だ、あとであのボンクラ王子弟に請求してやる」

「・・・・それでしたら」


 すんなり財布をひっこめたミーシャにほっと胸を撫でおろすと、ヨーデルは支払いを済ませ、店を出た。

 先に店から出てヨーデルを待っていたミーシャが身に着けていたのは、優しい緑色のロングフレアスカートに、淡いピンクのブラウス。

 まるで春の妖精のようなミーシャの姿が一瞬、弾けんばかりの笑顔を見せていたオディールの姿と重なり、ヨーデルは軽い眩暈を感じた。


 ”ヨーデルっ!”

(オディール・・・・)


「ヨーデル様?大丈夫ですか?ご気分でも・・・・」

「問題ない」


 軽く頭を振り、ヨーデルは歩き出す。


「どこか行きたい場所は?」


 歩きながら訪ねるヨーデルに、一瞬迷いを見せたミーシャが、小さな声で答えた。


「・・・・結界の外に、行ってみたいです」

「えっ?」


 予想外の答えに思わずヨーデルが立ち止まると、ミーシャもその場に足を止める。


「いつもユウ様から結界の外のお話を伺っていて、一度は行ってみたいと思っていました。でも、結界の外は危険だとも言われていますし、ユウ様のように結界師の力もない私には、夢のまた夢だと」

「確かに、な」

「ヨーデル様は、結界の外からいらしたのですよね?」

「ああ」

「少しだけでもいいのです、私を結界の外へ、お連れくださいませんか?」


 皮肉なもんだなと、ミーシャの懇願するような眼差しに、ヨーデルは空を仰いだ。

 ヨーデルが心から望んでそれでも得られなかった平和な世界が、ここにはあると言うのに。

 その、結界に守られて平和な世界に住まう人間は、結界の外の世界が見てみたいと言う。


(まぁある意味、籠の中の鳥、ってやつなんだろうな。なぁ、オディール。なんなんだろうな、俺たちが目指した平和な世界ってやつは)


「ヨーデル様?あの、無理にとは申しませんので、別の場所でも私は」

「いいぜ、連れてってやる」


 ゆっくりと視線を戻し、ミーシャへ向けると、ヨーデルはニヤリと笑った。


「その代わり、結界の外に出たら俺のそばから離れるなよ?」




「あそこが、ヨーデル様のお生まれになった国・・・・」


 ヨーデルに言われた通り、結界の外に出てからずっとミーシャはヨーデルにピッタリとくっつくようにして歩いていたが、少し開けた場所でヨーデルが指し示した遠くに見える城壁に向かって、1歩2歩と、フラフラと歩を進める。


「ああ。今じゃもう、他の奴らに乗っ取られちまったけどな」

「えっ?」

「ん?」

「もしかして・・・・」


 振り返ったミーシャは思い切り眉をひそめている。


「なんだよ?」

「ヨーデル様は、あの国の元王子、ですか?」

「まぁな」

「世も末ですね」

「なんだと?」

「毒舌大王でも、一国の王子になれるようですからね」

「お前なぁ・・・・」

「まぁ、うちの王子も揃いも揃ってボンクラですが」


 真顔でそう吐き捨てるミーシャに、ヨーデルが吹き出したその時。


「その手に付けてるもん、こっちに寄越しな」


 野太い声と共に、見るからにガラの悪そうな男たちが数人、ミーシャとヨーデルの周りを取り囲んだ。



 ※※※※※※※※※※


 ぎこちない2人ではありますが、少し、デートらしくなって参りましたでしょう?

 ミーシャに服をプレゼントして差し上げるなど、ヨーデル様はやはり、お優しい方ですわね。

 ユウ王子に後から請求するとはおっしゃっていましたが、おそらくしないのではないかと、私は思っていますのよ。

 それにしても、ミーシャが結界の外の世界に思いを馳せていたとは、私も初めて知りました。

 もしかしたら、他の民たちも、同じように思っているかもしれませんわね。

 出入りはもちろん自由ではあるのですが、あまりに平和な両王国に住まう民達は、結界師の力がなければ、降りかかる危険に対処する力を持ち合わせていない者が多いので・・・・


 そしてやはり、危険はヨーデル様とミーシャにも襲い掛かって来たようです。

 気になるところではございますが、長くなってしまいそうですので、続きは次の機会にいたしましょう。

 それでは、また。

 ごきげんよう。

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