第39話 初デート ~ ヨーデルとミーシャ ~ 1/4

 ごきげんよう。

 ふふふ、お待ちしておりましたのよ。

『恋バナ』を、早くあなたに聞いていただきたくて。

 えっ?

 なにをおっしゃっているのですか。

 いやですわ、私の恋バナではありませんわよ?

 ヨーデル様とミーシャの恋バナです。

 私にはもう、恋など・・・・いえ、お気になさらずに。独り言ですわ。


 ではさっそく、お話いたしますわね。


 ※※※※※※※※※※


 その日。

 ヨーデルは、ギャグ王国の城門前で待ち合わせをしていた。

 待ち合わせ、と言えば聞こえはいいが、正確には一方的に呼び出されたのだ。


『カテキョ、明日暇でしょ?10時に城門前に来て』


 と。


(確かにこれといった用は無かったが、なんなんだアイツは?まったく・・・・)


 何のために呼び出されたか全く見当もつかないヨーデルは、とりあえずいつもの格好ながら、腰には愛剣オディールを携えて、ギャグ王国の城壁に背を預けて呼び出した相手を待っていた。

 時折城門を通り抜けるメイド達に、営業用の甘い笑顔を振りまきつつ。

 そして、時刻は10時ちょうど。


「大変お待たせいたしました」


 その言葉とともに指定の場所に現れた人物に、ヨーデルは首を傾げた。

 ヨーデルが待っていた人物とは、異なる人物がそこにやって来たのだから。


「ボンクラ王子弟は、どうした?」

「本日は珍しく執務に励んでいらっしゃるようです。ここずっと溜めこんでいらしたようですので、暫くは手が離せないのではないかと。こちら、ボンクラ王子弟からお預かりして参りました」


 そう言って、肩から斜め掛けにした鞄から一通の封筒を取り出すと、指定の場所に現れた人物-ミーシャはヨーデルへと手渡す。


「わざわざこれを届けに?」

「いえ」


 ヨーデルの問いに、真顔のままミーシャは答えた。


「ボンクラ王子弟から、今日一日は毒舌大王にお供するよう、命を受けております」

「・・・・は?」

「文句がおありでしたら、どうぞボンクラ王子弟へ直接ご自身でお伝えくださいませ」


 ニコリともせずそう告げるミーシャは、言われてみれば頭に付けているいつもの三角巾も付けていなければ、長いミルクティー色の髪も下ろしたまま。

 ただ、身に着けていたのはメイド服ではなかったものの、その年頃の娘としては地味とも言える、無地のグレーの膝丈ワンピース。


「俺のお供、ったって、呼び出したのあいつだぞ?」


 小さく文句を呟きながら、ミーシャから渡されたユウからの手紙を開いてみれば、そこに書かれていたのは。


【初デート、がんばってねー!】


 の、たった一言。


「はぁっ?!」

「どうかされましたか?」

「・・・・いや」


(そういや、あいつこの間おかしなこと、言ってたな)


 ヨーデルの頭に思い浮かんだのは、ユウの言葉。


『自分で幸せになる努力くらい、ちゃんとしなよ』


 ユウの言いつけ通り、目の前で自分を見つめてじっとその場に待機しているミーシャの姿に、ヨーデルは小さく舌打ちをひとつ。


(ったく、余計なお世話なんだよ)


 手紙をしまいかけて、ヨーデルは追伸が書かれていることに気づいた。


【追伸:僕の大事なミャーを泣かせるような事をしたら、今後城内出入り禁止だからね♪それから、デートしないで帰って来ても、出入り禁止だよっ☆】


「それは困るな、色々と」

「ヨーデル様?」

「いや、なんでもない。さて、と。それじゃ、行くか」

「はい」


 城壁から身を起こすと、ヨーデルは歩き出す。


「あの、どちらへ?」

「さぁな?あぁ、お前も読むか、これ」


 ヒラリと渡されたユウからヨーデルへ宛てた手紙を、ミーシャは困惑顔で受け取る。


「よろしいのですか?私が拝見しても」

「それ読んでも同じ言葉が吐けるってんなら、大したもんだと思うぞ?」


 ヨーデルの言葉に、恐る恐る手紙を開いて中を見たミーシャは。


「・・・・あんの色ボケ王子っ!」


 そう呟くなり、踵を返して城の中へと戻り始めた。

 すかさず、その腕をヨーデルが捕まえる。


「離してくださいっ!」

「まぁ、落ち着けって」

「これが落ち着いていられますかっ!一体あの色ボケは私はなんだとっ」

「悪気は無いと思うぞ?それくらい、お前にだって分かるだろ?」

「・・・・それはまぁ、確かに」

「それに。お前とデートとやらをしないと、今後俺がこの城に出入り禁止になる。そうなると、色々と面倒でな。だから、まぁ・・・・」


 掴んでいたミーシャの腕を離すと、その手でヨーデルはブルーブラックの髪をクシャクシャとかき回し、横を向く。


「悪いが、今日一日は俺に付き合ってくれ」

「・・・・仕方がないですね。わかりました。それで、どちらへ?」

「とりあえずは、服屋だ」

「はぁ?」

「俺はまだこのあたりの地理には詳しくない。案内してくれ」

「・・・・承知いたしました。では、こちらへ」


 小さく息を吐くと、ミーシャはヨーデルを置いて歩き出す。


「デートってのはもうちょっとこう、色気のあるもんじゃねぇのかよ」

「・・・・なにか?」

「いいや、別に」


 振り返る愛想の欠片も無いミーシャに肩を竦めると、ヨーデルもゆっくりと歩きだした。


 ※※※※※※※※※※


 あれから少しも進展しない2人に、ユウ王子はしびれを切らしてしまったのでしょうね。

 余計なおせっかいかもしれないですが、お2人にはいい切っ掛けになったのではないかと、私は思いますのよ。

 とは言え、まだデートは始まったばかり。

 どのようなデートになるのか、楽しみですわね。

 このまま続けてお話したいところですが、少し長くなりそうですので、今回はこの辺で。

 ぜひまた、続きを聞きにいらしてくださいな。

 あなたにお話しできるのを、楽しみにしております。

 それでは、ごきげんよう。

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