第25話 カーク王子・ユウ王子とミーシャ 2/3 ~現在~
ごきげんよう。
いらしてくださって嬉しいですわ。
両王子とミーシャのお話、楽しみにしてくださっていたのですね。
・・・・え?
私に会いに来てくださっている、と?
・・・・嫌ですわ、お揶揄いにならないでくださいな。
でも、冗談でも嬉しいですわね、そのように仰ってくださると。
ではそろそろ、お話を始めましょうか。
カーク王子・ユウ王子とメイド:ミーシャの、現在の日常のお話を。
※※※※※※※※※※
「ミャー、ちょっとこれ読んでみて!」
「は?・・・・ちょっ、カーク様っ?!」
「早く早く!」
ようやくカークの私室の掃除が終わり、ユウの私室へ移動しようと一息ついていたところへ、部屋の主が飛び込んできて手にした紙をミーシャに押し付ける。
見て確認するまでもない。
それは、カークからスウィーティーに宛てた、ラブレター。
よく飽きもせずに毎日毎日書けるものだと呆れながら、ミーシャはため息をついた。
「カーク様・・・・私はただのメイドであって、文才がある訳では」
「でも一応女の子だろ?女心分かるだろ?」
「・・・・一応ってなんじゃいっ、一応ってっ!」
ラブレターをカークの手に押し返すと、ミーシャは頭につけた三角巾をキリリと結わきなおし、気合を入れなおす。
「だいたい、人に添削してもらったラブレターなんて、貰った側から言わせれば何の意味も無いですよっ!小さい子供じゃあるまいし」
「・・・・そ、そうなのか」
「ええそうですっ。もうよろしいですねっ!」
ピシャリとそう言うと、ミーシャはカークの私室を出てユウの私室へと向かった。
「まったく、あのセクハラ兄貴めっ!な~にが『麗しの貴公子』じゃいっ!」
小さく毒づくミーシャの肩に、突然ポンっと手が乗せられる。
「ぎゃっ・・・・もう、ユウ様。驚かせないでくださいませ」
小さく飛び上がりながら振り返った先に居たのは、第二王子のユウ。
「あ、ごめんね?じゃあ、言わない方がいいかな」
小首を傾げて、ユウはミーシャを見ている。
うっすらと、口元に笑いを浮かべて。
その愛らしい笑顔にうっかり心を奪われそうになりながらも、ミーシャは踏みとどまるとユウに尋ねる。
「なにをですか?」
「言っても、いいの?驚いちゃうかもしれないけど」
「大丈夫です。仰ってください」
「じゃあ、言うよ。あのね」
ニコッと笑い、ユウは言った。
「ミャーの髪に大きい蜘蛛がいるよ」
ユウの邪気の感じられない笑顔と、口にした言葉のギャップに、ミーシャはしばしポカンと口を開けて止まっていたが。
「ぎゃああっ!!取って、取ってくださいっ、早くっ!」
「うん。じゃあちょっと大人しくしててね」
言われるまでもなく、ギュッと目を瞑ったまま動くことのできないミーシャの髪に、ユウの指がそっと触れる。
ユウの指が触れたのは、三角巾の覆いから少し外れた、首元の結び目あたり。
直に首に来なくて良かったと、ホッとしたミーシャの耳に、すぐ近くからユウの囁き声が聞こえた。
「ごめん、ミャー。埃だった」
「・・・・はぁっ?!」
なんて人騒がせなっ!
そう、怒りを露わにしたミーシャの目の前に突き出されたものは。
「なぁんてね。ほら、こんなに大きな蜘蛛だっ」
「ぎゃああああああっ!」
手にした掃除道具を放り出し、ミーシャはその場から走り出す。
「・・・・ちょっと、揶揄い過ぎちゃったかな」
後に残されたユウは、舌を小さく出して、走るミーシャの背を見ながら無邪気な笑顔を浮かべていた。
「あんの悪戯王子めっ!」
ミーシャが走り込んだ先は、ユウの私室。
哀しいかな、仕事の途中という意識が強すぎたのか、自室へ戻るという選択肢はミーシャの頭の中には浮かばなかったらしい。
「さて・・・・仕事仕事」
気を取り直して、ミーシャはユウの私室を見回した。
カークの兄弟とは思えないほどに、部屋の中は綺麗に片付けられている。
メイド:ミーシャとしては、圧倒的に仕事量が少ないユウの部屋の片づけ&掃除は、非常に助かっているのだ。
「私の部屋より、綺麗かも」
そんな事を呟いた時。
ミーシャは手元に掃除道具が何一つ無い事に、やっと気づいた。
「あっ!あの時・・・・」
急いで取りに戻ろうと部屋から出ようとしたとたん。
部屋の扉が開いて、ミーシャが放り出してきた掃除道具一式を持ったユウが部屋に入って来た。
「もー、ミャーのあわてんぼさん」
「ももも申し訳ございませんっ!」
一国の王子に掃除道具を持たせるなど、メイド長の耳に入れば長々とした小言は避けられないだろう。
それでなくても、【掃除道具】が全く似合わないユウの姿に、ミーシャは慌ててユウから一式を受け取った。
※※※※※※※※※※
カーク王子はミーシャを身内のように思っているからでしょうね。
時折、1人の女性に対しては失礼ともとれる事をおっしゃることもあるようでして。
ユウ王子に至っては、未だにこのように少しばかり度が過ぎた悪戯を、ミーシャにすることもありますし。
ですが、それもこれも、ミーシャに心を許しているからこそのもの。
ミーシャにもそれはきっと伝わっていると、私は思っておりますのよ。
そのお話は、次回にいたしましょうか。
よろしければまた、いらしてくださいな。
それでは、ごきげんよう。
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