第15話 キャロライン姫のささやかな仕返し 1/2
ごきげんよう。
またお会いすることができて、とても嬉しいです。
あら、そちらお気に召しました?
そちらは『エーデルワイス』という名のバラですわ。
柔らかな白のバラ。綺麗で可愛らしいでしょう?
棘があるので、お手入れの際には気を付ける必要はございますが。
そう言えば、キャロライン姫はその美しさと可憐なお姿から『ホワイトローズ』の別名もお持ちなのですよ。
ふふふ・・・・可愛らしい『棘』も、お持ちのようですわ。
そうですわね、今日はキャロライン姫のお話をいたしましょうか。
とても可愛らしい、『棘』のお話を。
※※※※※※※※※※
「キャ~ロルちゃ~んっ!」
「あっ、ユウくん!」
暫く顔を見せていなかったユウが、久し振りにキャロラインの元を尋ねて来た。
ヨーデルから出されていた課題に必死に取り組んでいたキャロラインは、課題を放り投げてユウに走り寄り、思い切り抱きつく。
「ユウくん、どこ行ってたの?ずっと会えなかったから寂しかった・・・・」
「ごめんね、キャロルちゃん。ちょっと結界の外に行ってたんだ」
「・・・・また?」
優しく抱きしめ返してくれるユウの言葉に、キャロラインは不安になった。
ユウはしばしば、結界の外へ出かけている。
キャロラインも結界の外へ出ることは可能だが、危険が伴うという理由から、母であるチェルシーからは禁じられていた。
キャロラインが結界の外へ出ることができたのは、幼い頃のみ。
父であるロマンス国王が存命の間だけだった。
ロマンス国王は結界士の力を持っていたため、共にいれば母もキャロラインも結界の中で安全が確保されていた。
だが、その父はもういない。
この国を、そしてギャグ王国を守るために、その命を賭したのだと、キャロラインは母から聞かされていた。
2つの王国の、多くの結界士達とともに。
その中には、ギャク王妃も含まれているという。
そしてユウは、ギャグ王妃の結界士としての力を引き継いでいる。身を護る術を持っている。
それ故、ユウは王位を継ぐことが決まっている王族でありながら、驚くほど自由に結界の外へと出かけることが許されているのだ。
(もし今の結界が壊れてしまったら・・・・そうしたら、ユウくんもお父様のように・・・・)
「どうしたの?何かあった?」
沈んだ表情を浮かべるキャロラインに気付き、ユウがキャロラインの顔を覗き込む。
「・・・・なんでも、ない。私もまた、結界の外に行ってみたいなぁって」
「そっか。じゃ、新婚旅行は結界の外にしようか!」
屈託なく笑うユウに、キャロラインの不安が少しだけ和らぐ。
(うん、大丈夫。きっと、大丈夫。お父様達が遺してくださった結界が、そんなに簡単に壊れるわけなんて、ない)
「そうそう、今日はね、キャロルちゃんにお土産を持って来たんだよ」
ギュッと強く抱きしめてからキャロラインの体を離すと、ユウは持っていた袋の中から、2つの緑色の粉を取り出した。
どちらも同じもののように見えたが、袋に書いてある文字は異なっている。
【ワサビ】
【マッチャ】
「ユウくん、これは何?」
ユウから手渡されたふたつの袋を交互に身ながら、キャロラインが不思議そうな顔をしてユウを見ると。
「これはねぇ、結界の外のある国の名産なんだ。僕はこの二つを全く別の機会に口にしたんだけど、お土産として持って帰ろうとしたらこんなにソックリだったから、びっくりしちゃって。なんか面白いからキャロルちゃんも喜んでくれるんじゃないかなって、思ったんだ」
「どうやって使うの?」
「ちょっと貸して」
キャロラインからふたつの袋を受け取り、テーブルの上にティッシュを2枚敷くと、ユウはそれぞれのティッシュの上に袋の中身を少しだけ出す。
「すこーしだけ、舐めてみて?」
「これを?」
「うん。すこーしだけ、だよ」
「うん」
言われた通り、キャロラインは自分に近い方に置かれていたティッシュの上の粉を少しだけ指でつまみ、それを舌の上に乗せた。
とたん。
「うっ・・・・」
鼻から目にかけて強烈な刺激が突き抜け、思わず鼻の付け根を指で押さえる。
キャロラインの目からは、じんわりと涙が浮かび上がっていた。
「ユウくんっ、何これっ?!」
「あははっ、ごめんごめん!はい、お水」
ユウから水を受け取り、キャロラインはゴクゴクと飲み干す。
「それは、【ワサビ】の方だね。香辛料の一種、かな。僕はね、お肉に付けて食べたんだけど、ものすごくおいしかったんだよ」
「じゃあ、お肉食べる時に出してくれれば・・・・」
「あははっ、そうだね。でも僕、キャロルちゃんのその顔が見たかったんだよねー」
「もうっ!」
プウッと頬を膨らませるキャロラインに構わず、ユウはその隣の粉もキャロラインに勧める。
「ね、そっちも舐めてみて?」
「もう、ヤダ!」
「大丈夫。そっちはそんなに刺激強くないから」
「ほんとに?」
「やだなぁ、僕、キャロルちゃんに嘘ついた事なんて、無いでしょ?」
「・・・・そうだけど」
ニコニコとキャロラインを見つめるユウに、キャロルは仕方なくもうひとつのティッシュの上の粉を少しだけ指でつまみ、恐る恐る舌の上にのせる。
と。
「・・・・にがっ」
「はい、あーんして」
「え?」
「いいから、あーんして」
言われるままに開いたキャロラインの口の中にそっと押し込まれたものは、一粒のチョコレート。
「あまっ・・・・あっ・・・・あ~、甘くて苦くて美味しい~!」
「うん、【マッチャ】とチョコは、相性抜群なんだよ」
「ほんと、ものすごく美味しいね」
「でしょ?」
「私には同じにしか見えないのに、全然違うのね。その国の人達って、すごいね、ユウくん」
「そうだね。結界の外にはまだまだ色々な国があるんだ。いつか一緒に行こうね、キャロルちゃん」
「うん!」
笑顔を浮かべ、キャロラインはユウにキュッと抱きついた。
(大丈夫ですよね、お父様。ユウくんが私を残して逝ってしまうことになんて、ならないですよね・・・・お願い、お父様。私はもう、誰にも犠牲になんてなって欲しくないのです・・・・)
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