第4話 キャロライン姫の悪夢のお話
ごきげんよう。
またいらしてくださったのですね。
ちょうどよいところへいらしてくださいましたわ。
つい先ほど、面白いお話を思い出したところでしたのよ。
ロマンス王国のキャロライン姫のお話ですわ。
なにやら、おかしな夢をご覧になったようでしてね・・・・ふふふ。
今日はそのお話をいたしましょう。
※※※※※※※※※※
「あ・・・・」
見慣れた後ろ姿。
あれは間違いなく・・・・
「ユウくん♪・・・・ユウ、くん・・・・?」
追いかけて追いついて、いつもの如く抱きつこうとしたキャロラインの表情が固まる。
キャロラインの婚約者であるユウは-。
(・・・・えぇぇぇぇぇぇっ?!)
思考回路がショートしてしまったかのように、キャロラインは目を見開いてその場に立ちつくした。
その間、数十秒。
「・・・・おい」
低く抑えたヨーデルの声が、キャロラインの意識を呼び戻す。
「あっ・・・・えっ・・・・」
「ちっとは遠慮しろよ。いつまでそんなとこに突っ立ってんだ?」
「誰?誰かいるの?」
ヨーデルの胸に身を預けながら、ユウが振り返る。
「あぁ、キャロルちゃん。あれ?どうしたの?今日は公務でお出かけじゃなかったっけ?」
悪びれる風でもなく、恥ずかしがる風でもなく、ユウは小さく笑ってキャロラインを見つめた。
「今日も可愛いね、キャロルちゃん。もしかして僕の事探しに来たの?でもごめんね、僕今カテキョとデート中なんだ。もうちょっと待ってくれるかな。そうしたら一緒に遊べると思うんだけど」
「おい、何勝手に決めてんだよ。今さっき会ったばっかじゃねぇか。・・・・お楽しみはこれから、だろ?」
苛立ちを隠そうともせず、ヨーデルはユウの顎に指をかけ、再び覆い被さるように口づけた。
「ん・・・・」
(・・・・ちょっと・・・・)
立ちつくしたままのキャロラインにお構いなく、2人の口づけは深くなってゆく。
(・・・・どーゆーことっ?!何なの、これっ?!)
ユウの浮気にはいい加減慣れたとはいえ、情事を目の当たりにするのは初めてのキャロライン。
おまけに、ユウの相手はキャロランの家庭教師、ヨーデル。
さらに言うなら、今目の前で繰り広げられている光景は、キャロラインでさえ未だ体験したことのないような濃密な・・・・
(・・・・夢・・・・よ。そうよ、きっとこれは夢なのよ!)
両の拳に力を込め、キャロラインは堅く目を閉じた。
(夢よ、絶対夢!そうに決まってる!)
それでも、塞ぐことのできない耳からは、弾んだ息づかいと洩れ聞こえる悩ましげな声が忍び込み、キャロラインの心を乱し続ける。
「ん、ダメだよっ、こんな所で・・・・っ」
「クッ、お前の言葉はアテにならねぇからな。こんなに感じてる癖に」
「ちっ、ちがっ・・・・ぁっ」
(いやっ・・・・やめてっ)
「何が違うんだ?ん?」
「だってっ、キャロルちゃんが、見てる・・・・」
「気にすんなって。それに、ギャラリーがいる方が燃えるってもんだろ?」
「そっ、んなっ・・・・んんっ」
(いや・・・・いやっっ!もう・・・・・っ!!)
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「わっ!」
「なっ!」
「・・・・あれ?」
目覚めると、そこはいつもの自分の部屋。
キャロラインは、半ば朦朧とした頭のまま、虚ろな目で周囲を見回す。
そこには。
「キャロルちゃん、大丈夫?怖い夢でも見た?」
「おいおい・・・・顔色悪いぜ。大丈夫か?」
ヨーデルと。
ユウが。
身を寄せ合うようにして、キャロラインの顔を覗き込んでいる。
(・・・・今の、ゆ、め・・・・?)
「怖い夢、っていうか・・・・あはっ、はははっ」
ほっと一息吐きながらも、キャロラインは曖昧な笑顔を浮かべ、内心頭を抱えていた。
(私ったら、何て夢を・・・・)
「勉強時間中に居眠りなんてするから変な夢なんか見るんだ。もう目は覚めたか?なら続きをやるぞ」
「えっ・・・・あぁっ!ごっ、ごめんなさいっ!」
見れば、キャロラインの目の前の机には、解きかけの問題集。
ヨーデルは冷たい目でキャロラインを見下ろしている。
「今度居眠りなんかしてみろ。金輪際家庭教師なんてお断りだからな」
「はい、ごめんなさい・・・・」
消え入りそうな声で謝るキャロラインの隣で、ユウがニヤつきながらヨーデルを見た。
「クビになるのと自ら辞めるの。どっちが先になるんだかね~」
「なんだと?」
「あれ?聞こえちゃった?ごめん、独り言だよ。気にするなって」
「ケッ、ぐうたら王子が」
「・・・・何か言った?」
「あぁ、悪りぃ、聞こえちまったか。気にするな。事実に基づいた独り言だ」
「・・・・ふんっ!」
(・・・・夢、だよね。うん)
ヨーデルとユウの聞き慣れたやりとりを耳にしながら、キャロラインはどことなく不安を拭いきれずにいた。
(夢よ。うん。あれは夢よ!)
それでも何とか自分を納得させると、おもむろに解きかけの問題に向かい始めたのだった。
-数日後-
「まったくぅ、冗談キツイよ、キャロルちゃん」
「それは私の台詞よ、ユウくん。私だって、ほんとにビックリしたんだから」
「ビックリは僕の方だよ!何でカテキョと僕が・・・・」
キャロラインの私室。
キャロラインの元を訪ねたユウとキャロラインが仲睦まじく会話を交わしている所へ、ノックの音と共にヨーデルが姿を見せた。
「よ、キャロル。お勉強の時間だ・・・・って、お前またいたのか」
「・・・・ねぇ、聞いた今の。僕がさ、こんな奴とデートなんかする筈ないじゃん」
そう言うと、ユウは心底嫌そうな表情を浮かべてヨーデルを一瞥する。
「は?なんだそりゃ?」
「何って、この間のキャロルちゃんの・・・・」
「あーーーーっ!ダメっ!言っちゃダメっ!!」
開きかけたユウの口を、キャロラインは慌てて塞ごうとする。だが、一瞬早くユウは立ち上がって、キャロラインの手から逃れようと体をひねり・・・・
「わっ・・・・わわわっ!!」
「・・・・っと」
「・・・・っ?!!!」
キャロラインの目の前で、スローモーションの様にヨーデルの腕の中に倒れ込むユウ。
「ったく。自分のバランスも取れねぇのか?だらしねぇ・・・・」
「ちょっとよろけただけじゃないか!ねぇ、キャロルちゃん。・・・・キャロルちゃん??」
「・・・・ん?どした?」
未だ身を寄せ合ったままの2人から視線を逸らすことができずに、キャロラインはジリジリと後ずさる。
「キャロルちゃん?」
「何やってんだ?」
ようやく身を離したヨーデルとユウが、キャロラインの元へと一歩足を踏み出した直後。
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
キャロラインの絶叫が、城中に響き渡ったのだった。
※※※※※※※※※※
姫ぎみとは言え、キャロライン姫だって、普通の思春期の女の子ですもの。
それに、ユウ王子はご自身以外は誰もが認める『天然浮気者』ですから、キャロライン姫の心労は今後も絶える事はなさそうですわねぇ。
ですから、このようなおかしな夢まで・・・・お気の毒に。
ああ、ユウ王子の名誉のために申しておきますが、ユウ王子ご自身は、キャロライン姫一筋だとおっしゃっていますのよ?
あの方は本当にキャロライン姫を心からお慕いしていらっしゃいますし、『浮気』という自覚は皆無のようですから。
あら、もうこんな時間に。
なぜかしら?あなたとお話をしていると、時間がとても短く感じられますわ。
また是非、いらしてくださいね?お待ちしております。
それでは、ごきげんよう。
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