第3話 ロマンス王国:二人の姫ぎみとカテキョのお話 2/2

「あー、さすがに旨いな、王家のコーヒーってやつは」

「普通に街で売ってるものだと思いますけど」

「そうかぁ?」

「カテキョがたぶらかしてるメイド達の『愛』がこれでもかっていう位に籠っているから美味しいのでは?」

「なるほどな?」


キャロラインの渾身の嫌みも、ヨーデルに軽く流され、思わず大きなため息を吐いた時。


「おねーちゃん、遊ぼ!」


ノックも無く、第二王女のスウィーティーが部屋へと入ってきた。


「あっ、お菓子っ!」


目ざとくテーブルの上のお茶菓子を見つけると、テーブルまで走ってきてお茶菓子を手に取り、満足そうに笑う。


「スーちゃん、ちゃんと座って食べようね?ほら、カプチーノもあるから。お砂糖入れて甘くしよっか?」

「うんっ!」


キャロラインは、ヨーデルの為にメイド達が入れてくれたカプチーノをスウィーティーの前に置き、これまたヨーデルの為にメイド達が準備したバラの形の砂糖を3つ放り込み、スプーンでかき混ぜる。

当のヨーデルは、何一つ気にしていない様子。

ただ。


「こんなガキのどこがいいんだ?オレにはさっぱり分かんねぇ・・・・」


と、スウィーティーを見ながら小さく呟いた。


キャロラインは、8歳下のスウィーティーをこの上ないほどに可愛がっている。

溺愛している、と言っても過言ではないだろう。

現在8歳になるスウィーティーは、活発で愛らしく、皆に愛され甘やかされて育ったせいか、少しばかり我がままな所もあるが。

姉のキャロラインと同じブロンドの髪を左右の高い位置で丸くまとめ、大好きなロリポップを咥えながら、姉と同じ深い藍色の瞳を嬉しそうに細めて笑うスウィーティーは、今やこのロマンス王国では無敵と言ってもいいかもしれない。

ただ1人、ヨーデルを除けば。


「とっとと食って、さっさと出てけよ?キャロルはこの後勉強があるんだからな」

「やだ、おねーちゃんと遊ぶ!」

「ダメだ」

「やだっ!」


チッと舌打ちをひとつ。

ヨーデルは上着のポケットからロリポップをひとつ、取り出した。


「あっ!」


気づいたスウィーティーがヨーデルの元へと駆け寄るが、一瞬早く立ち上がると、ヨーデルはそのままスウィーティーを扉近くまで誘導する。

そして。


ポイっ。


と部屋の外にロリポップを放り投げ、釣られてスウィーティーが部屋から出た直後に扉を閉めて鍵をかけた。


「ちょっとカテキョっ!スーちゃんは犬じゃありませんっ!酷いじゃないですかっ!それに、食べ物を投げるなんてっ!」


憤慨して抗議するキャロラインに、ヨーデルはやれやれと肩をすくめる。


「オレに言わせれば、犬の方がまだ扱いやすいね。それにあれは、ただの紙屑だ。安心しろ」

「・・・・余計酷いわよ・・・・」


やがて、ロリポップの正体に気づいたのであろうスウィーティーのギャン泣き声が城中に響き渡り、しばらく城の中は大騒ぎだったとか。


「さて、時間だ。今日も手加減はしねぇからな?」

「・・・・できればもう少し優しく・・・・」

「オレに優しさなんて求めるな」

「・・・・ですよね・・・・」


腕時計を確認すると、ヨーデルは時間きっかりにキャロラインへの授業を始めた。


「なんでこんなもんも分かんねぇんだ、お前は」


キャロラインの間違いだらけの回答に、ヨーデルは顔をしかめて頭を抱える。


キャロラインは決して頭が悪いわけではなく、ただひとつを除いては、ヨーデルも内心舌を巻くほど、まるでスポンジのように知識を吸収していく。

その、ただひとつ。

算術だけは。

何をどうしても、身に付かないのだった。


「だいたい、算術ならユウくんが得意だもの。私が少しくらい算術を苦手としていたって」

「ガキよりできねぇくせに、どの口が言ってんだ?」

「だって!」

「じゃあ聞くが」


毎度の事ながら、抗議の声を上げるキャロラインを片手で黙らせ、ヨーデルはキャロラインに問いかける。


「お前がユウとめでたく結婚したとして、だ」

「やだ~、そんな・・・・」

「真剣に聞け。あいつが結界の外に出かけてる間に、緊急事態が発生したとするだろ」

「緊急事態って?」

「例えば、結界が破られて敵が攻めてきたとか」

「ナイナイ、無いですよー、そんなこと」


チッ、と舌打ちをひとつ。

ヨーデルは話を続ける。


「敵が攻めてくるまでの期間は、1週間ほどだ。結界の外から王国に戻るには、最短で2日はかかる。さて、ユウはいつまで結界の外にいられる?」

「そんなの、簡単じゃないですか」

「だよなぁ、こんなもんも分からねぇようじゃ・・・・」

「可及的速やかに王国に戻るべし!です!」

「・・・・はぁ」


盛大にため息を吐くと、ヨーデルはキャロラインに向かって鞄から取り出した物を放り投げる。

それは、綺麗な放物線を描いて、キャロラインの頭を直撃した。


「いたっ!暴力反対ですっ!」

「ああ、わりぃ。ま、少しは刺激があった方が頭にはいいんじゃねぇか?それ、次来るまでにやっとけよ、いいな」


ヨーデルが投げたものは、子供用の算数ドリル。

キャロラインは早速表紙をめくると、1問目にとりかかった。

両手の指を使って。


「言っとくが」


キャロラインの私室を出ようとしたヨーデルが、振り返り様に言った。


「両手と両足の指を使っても、20までしか数えられねぇぞ」

「えっ・・・・あーっ!」


閉じた扉の向こうから、キャロラインの叫び声が漏れ聞こえる。

ヨーデルは、呆れた笑いを浮かべながら、部屋を後にした。


※※※※※※※※※※

あら、私としたことが、また長話をしてしまいましたわ。

あらあら、もうこんな時間。

私これから、お茶会に参りますので、そろそろ失礼いたしますわね。

え?

また来てもいいか?ですって?

ええ、もちろん構いませんわ。

・・・・私も、楽しみにお待ちしております。

ではまた。ごきげんよう。

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