第一章~二王国の日常~
第1話 ギャグ王国:二人の王子と影のお話
ギャグ王国には二人の王子がいらっしゃることは、お話ししましたわね。
実は、第一王子であらせられるカーク王子は、ロマンス王国の二番目の姫ぎみのスウィーティー姫と婚約をなさっていましてね。いずれはロマンス王国へ婿入りされることが決まっておいでなのです。
・・・・まぁ、ご結婚はかなり先のお話になるでしょうけれども。
え?なぜか、ですって?
それは、スウィーティー姫はまだ・・・・いえいえ、これはまた後程お話しすることにいたします。
そして、第二王子であらせられるユウ王子は、同じくロマンス王国の一番目の姫ぎみのキャロライン姫と婚約をなさっていまして、いずれは姫ぎみが嫁いで来られて、ギャグ王国の国王を継ぐ事が決まっておいでなのですが。
ユウ王子は、その、あまりに・・・・自由な方なので、ユウ王子不在時に代役を務める【影】もいらっしゃる、というのは、ここだけの話にしてくださいませね?
※※※※※※※※※※
「ユウ!あれ?なんだ、お前か。ってことはまたあいつ、どこかへ行ってるのか?」
ギャグ王国第二王子、ユウの私室を訪ねた、同じくギャグ王国第一王子のカークは、部屋にいた男にそう尋ねた。
部屋にいたのは、ユウの影武者を務めている男。その素性を知るのは、ギャグ王国の現王のみ。名前すら、王以外は誰も知らない。
そもそも、その存在自体、知っているのはほんの一握りの人間のみだ。
「これはカーク様。本日もご機嫌麗しく・・・・」
「だから、そーゆーのいいって言ってるだろ。それより、ユウはまた結界の外に行ってるのか?」
「はい。先日よりお出掛けされていらっしゃいます。キャロライン姫への贈り物をお求めにと。あ、それから、花屋のアイナ様と、仕立て屋のリリィ様と、時計屋のミヅハ様と・・・・」
「あーっ、もういいわかった!まったく、あいつは・・・・」
うんざりした顔で影の話を遮ると、カークは大きな溜め息をつく。
まだ先のことではあるが、このギャグ王国を現王から引き継いで治めるのは、ユウであることが決まっている。
ユウも既に16歳を迎えた。
16歳にもなれば、自分が置かれている状況を理解して行動してもいい歳のはず。
にもかかわらず、ユウはいつまで経ってもフラリフラリと、気ままに城を抜け出し街へ出かけては、笑顔と愛嬌を振り撒いて、老若男女問わずに、あちらこちらで国民の心をいたずらに掻き乱しているのだ。
タチの悪いことに、本人には全く自覚は無いらしい。
それどころか、時折結界の外にまで出かけては、様々な珍しい品を手に入れて、心を掻き乱した国民に配り歩き、彼らの心をガッチリと捉えて離さないのだ。
カークはこっそり、ユウに『天然浮気者』と名付けている。
(どーにかなんねぇもんかな、あいつの『天然浮気者』・・・・一回キャロルちゃんにがっつりヤキ入れて貰えりゃいいんだけど・・・・キャロルちゃんも、ユウにゾッコンだからなぁ・・・・)
カークとユウの母であるギャグ王国の王妃は、二人がまだ幼い頃にとある事情でこの世を去った。国王の私室に未だ掛けられている亡き王妃の姿は、白い肌に青みを帯びた大きな黒い瞳、漆黒の艶やかな長い髪を下ろし、聖母のような、それでいてどこか幼い子供のような邪気の無い微笑みを浮かべた、それは美しい女性。
ユウは、この母に生き写しだった。
ただ、髪が短く、ただ、性別が異なるのみ。
現王をひと目で虜にした美しさ、愛らしさ、愛嬌を、全て兼ね備えていた。
「邪魔したな。ユウが帰ってきたら、俺のところに来るように伝えてくれるか?」
「かしこまりました、カーク様」
ユウと瓜二つの顔をした影が、恭しく頭を下げる。
「大変だなぁ、お前も」
「いえ。わたくしにとっては、大変光栄なことにございます」
ユウとおなじ顔の、ユウとはあまりに違いすぎる男。
(コイツの方が、国王には向いてるんじゃないか?)
そんなことを思いながら、カークはユウの私室を後にしたのだった。
3日後。
「兄さん、ただいま!ねぇねぇ、兄さんこれ見て!」
カークの私室を訪ねてきたユウが、部屋に入るなり両手いっぱいに抱えた荷物をカークのベッドの上にぶちまけた。
「おいおい、俺今スーちゃんにラブレターを書いて・・・・」
「いいからいいから、見てってば!」
デスクにかじりつくカークを強引に引き剥がし、ユウはカークに、ベッドの上にぶちまけた結界の外からの土産物の数々を見せる。
「これはねぇ、キャロルちゃんにあげるんだ。見たこともないくらい可愛いお花のネックレスが欲しいって、言ってたからさ。で、これは花屋のアイナちゃんでしょー、これは仕立て屋のリリィ姉でしょー、これは時計屋のミヅハじいちゃんでしょー、これは・・・・」
延々と続くユウの話を、カークは心ここにあらず、で聞き流している。
何しろ、婚約者である愛しいスウィーティーに宛ててラブレターを書いている真最中だったのだ。
だが。
「でね。兄さん、今度のお休みにスーちゃんに会いに行くんでしょ?」
「ん?ああ・・・・」
「これ、持ってってあげなよ。スーちゃん、きっと喜ぶよ」
そう言ってユウに手渡されたモノに、カークは目を輝かせた。
それは、スウィーティーの大好物の、ロリポップで作られた可愛らしい花束。
「いいのかっ?!」
「もちろん」
ニッコリと笑うユウを、カークは思わず抱きしめる。
「兄さんは本当に、スーちゃん大好きだもんね」
「・・・・なんだよ、悪いかよ」
「ぜーんぜん」
クスクスと笑いながら、ユウはすぐ間近の兄の顔を眺める。
父親譲りの明るい栗色の髪は、緩いウェーブがかかっていて、スッと通った鼻筋にキリッと吊り気味の鋭い目がともすればキツい印象となってしまうのを、柔らかく調和させている。
口の悪さが玉に傷だが、自分より2つ年上の明るくて優しくて頼もしいこの兄が、ユウは大好きだった。
「じゃ、僕もう部屋に戻るね。おやすみ、兄さん」
「ああ、おやすみ」
部屋を出ていきかけたユウだったが。
閉じかけた扉を少しだけ開き、そこからヒョコっと顔だけをのぞかせる。
「なんだ?どうした?」
「兄さん、なんか、僕に用があったんじゃないの?影が言ってたけど」
「・・・・あぁ」
ユウが帰ってきたら、今度こそ、フラフラ出て歩くのはいい加減慎めと、カークは厳しく注意するつもりでいた。
だが、どうやらまたも、その注意はできなさそうだ。
何の邪気もない顔でニコニコと笑うユウには、誰も敵う者などいないのではないだろうかと、カークは苦笑を浮かべる。
「悪い、忘れた」
「もう、兄さんのわすれんぼ!」
アハハと笑いながら、ユウは今度こそカークの私室を後にしたのだった。
※※※※※※※※※※
ギャグ王国の王子達は、いつもこのような感じですのよ。
どこにでもいる、普通の男の子でしょう?
あら。
ちょっと長くお話しし過ぎてしまいましたわね。
今回はここまでといたしましょう。
ではまた。ごきげんよう。
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