第26話 ちなみに私は自分から誠司の布団に潜り込んだわよ♡

 翌朝、目を覚ますと両腕に柔らかな感触を感じた。

 なんだ?と思って体を起こそうとするが、柔らかなそれの間に両腕をしっかりとホールドされていて起き上がることができなかった。

 この感触には身に覚えがある。

 何度も顔を埋めたあれだ……。

 

 でも、どうして?

 昨日、確かに二人が自分の部屋で眠っているのを見届けたはず。

 それなのに、どうしてここにいるんだ。

 顔を動かして右を見ると響子さんの美しい顔が、左を見ると奈美さん美しい顔があった。


「何この状況……」 


 しばらく考えた末に「うん。分かった。見なかったことにして二度寝をしよう」と思い僕は目を閉じて、二度寝を……


「できるか!」


 もちろん二度寝なんてできるわけがなく、僕の目はバッチリと覚めてしまってしまった。


「誠司君?」


 俺の叫び声で目を覚ましたのか奈美さんに名前を呼ばれた。


「起きたんですね奈美さん」

「あれ? なんで誠司君がここに?」

「それはこっちのセリフです。ここは僕の部屋なんですよ」

「確か夜中に起きてトイレに行って……それで自分の部屋に戻ったと思ったら誠司君の部屋に入ってたのね」

「『入ってたのね』じゃないですよ。僕の腕にしっかりと抱きついてますよね。意識あったんじゃないですか?」

「無意識よ。無意識に誠司君のところに引き寄せられちゃったのね」


 奈美さんはなぜか嬉しそうに笑っている。


「無意識でも誠司君を求めちゃってるなんて、私どれだけ誠司君のことが好きなのよ♪」


 少し頬を赤らめた奈美さんはその顔を隠すように僕の腕に顔を引っ付けた。


「しかも誠司君と添い寝しちゃった♪」


 一人で勝手に盛り上がっている奈美さんは体をモジモジと動かした。


「奈美さん。体を動かさないでください!」


 そばで体を動かされたらバレてしまう。


「ふふ、恥ずかしがっちゃって。別に隠すことじゃないでしょ? 男の子なら仕方のないことなんだから♪」


 どうやらバレているらしい。 

 奈美さんはニヤッと笑った。  


「分かってるならなおさらやめてください!」

「え~どうしようかな~。今誠司君は抵抗できない状態なわけでしょ~。このまま襲っちゃうのもあり……」

「なしです! そんなことしたら嫌いになりますからね!」

「それは嫌! 今すぐやめます。だから嫌いにならないで」

「なら、すぐに離れてください」

「分かったわ」


 僕が怒った感じで離れるように言うと、奈美さんは大人しく離れてくれた。

 これで左腕は自由になった。  

 これなら体を動かすことができるし、響子さんに抱きつかれている腕も剥がすことができる。

 僕は響子さんに抱きつかれている腕を引き抜くと体を起こした。

 奈美さんはさっきから下を向いていて落ち込んでいる様子だった。


「そんなに落ち込まないでください。別に怒ってませんから」

「本当に?」

「はい。その、恥ずかしかったから少し怒ったように言ってしまっただけです」

「本当に怒ってないの?」

「怒ってませんよ」

「よかった~。ちょっと調子に乗っちゃったから嫌われちゃったかと思った~」


 奈美さんはほっと息を吐くといつものように微笑んだ。


「ところで誠司君。私昨日何もやってないよね? 昨日の夜のことあんまり覚えてなくて」


 昨日の夜……奈美さんはかなり酔っていて、僕に迫ってきたなんて言わない方がいいよな。

 覚えてないなら覚えてないままにしておいた方がいいと思う。


「な、何もなかったですよ。みんなで一緒に花火したじゃないですか」

「そっか。それならよかった。姉さんにはあなたは酔うまで飲んではダメって言われてて、記憶がないってことはかなり酔ってたってことでしょ。だから、誠司君に迷惑をかけてないかって心配になって」


 どうやら言わなくて正解だったようだ。

 完全に酔っぱらった時の自分は知らない方がいいだろう。


「大丈夫ですよ。迷惑なんてかかってませんから」

「そっか。よかった。じゃあ、私は朝ごはん作ってくるね。誠司君は姉さんを起こしといてくれる?」

「分かりました」


 奈美さんは僕によろしくねと微笑むと部屋から出て行った。


「ふぅ~。何とか乗り切った、てことでいいのかな?」


 そう呟いて何度も深呼吸をして生理現象を鎮めていると、響子さんが話しかけてきた。


「誠司。ありがとうね」

「えっ……」


 振り返ると琥珀色の瞳とバッチリ目が合った。


「起きてたんですか?」

「うん。誠司が奈美と昨日の話をしてたあたりくらいからね」

「そ、そうなんですね」


 てことは響子さんにはバレてないよな。


「あの子、完全に酔っぱらうとエッチな子になること知らないから。黙っていてくれてありがとう」

「どういたしまして?」


 響子さんはゆっくりと起き上がると、僕の耳元に顔を寄せた。


「ちなみに私は自分から誠司の布団に潜り込んだわよ♡」


 そういた響子さんはニヤッと笑うと、僕の下半身をツンと触って部屋から出て行った。


「なっ!?」


 何してるんですか!?

 それから僕はしばらく自分の部屋から出れなかった。


☆☆☆

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