第124話 転生前ね……って、はぁ?!

 いつも通りの会話の調子で、とんでもないことを説明しだしたオルフェンズに、ただ目をパチクリするしかない。


「永い年月を掛けて王国中から集め、蓄えられていた黒い魔力ですからね、それはもう膨大な量です。桜の君の稀有なるお力により消えた部分もありますが、大きな塊でなくなっただけで、細切れになってあちこちに飛んで行ったのはご覧になりませんでしたか?」


 ――確かに見た。

 けどあれは朝のヒーロー番組に出てくる巨大化した敵が爆散したのと同じで、倒したことになったんじゃあ……ない……と?


「なんだか裏切られた気分だわ」

「何か?」


 薄く笑むオルフェンズは、どこか上機嫌だ。きっとまた、何らかの方法で飛び散った獅子退治にわたしを巻き込む算段でもしているんだろう。


「散り際が潔くないわよ。どこまでも粘り強く残ろうとし続けるなんて現実的すぎるわ!そこはスパンと消え去るので良いんじゃないの?意思の無い魔力の塊の癖にぃ~!」


 まだまだ続く獅子の影響を受けた強力な魔物出現の予告に、八つ当たりじみた声を張り上げる。けど、ほっとした気持ちもあるからこその軽口だ。オルフェンズが母とする「かぐや姫」を完全に消滅させたわけではないと分かったから。


「長い間、強い女性の魔力に強制的に抱き込まれていたモノですからね。粗方その女性の影響を受けて人間臭くなったんでしょう」


 警鐘の鳴る彼方を見遣ったオルフェンズは、特に感慨深いものは無いらしく、淡々と語っている――けど。


「女性って……オルフェのお母様でしょ」

「えぇ、神楽耶と名乗っていました。転生前の名前らしいですが」

「転生前ね……って、はぁ?!」


 聞き捨てならない単語に目を剥いたわたしの反応はさらりと流してオルフェンズが続ける。


「転生者なんて、この国では珍しいことでは有りませんよ?母がそうであったのは、前世の強すぎる魔力があったからこそですが。母が仕掛けた魔法の効果で……―――ね?」


 ――ね?って言われても!はいそうですかなんて納得できないでしょう!?って云うか、オルフェンズは気付いてるの?!いやいやそれより、わたし以外にも転生者が居るって言うの!?バンブリア商会のピンチ―――!!


 他にも居ると云うことは、先の記憶の中のモノをそのまま再現したのでは、競合他社がいっぱい現れると云うことだ。一瞬バンブリア商会の危機が頭を過ったけれど、すぐに思い直す。今のところ手強い競合他社は居ないと云う事実。そして前世には無かった、魔法や魔物を利用した商品開発にかけた長年の実績。


 ――うん、全く同じものを同じ素材で作っているわけじゃないからうちの商会はまだイケる!


「見てください。この国の峻嶺をただの黒い魔力の封印の結果出来たものだとでも思いますか?もっと上から全体を眺めれば、面白いモノが見えたはずです」


 心の中はいつの間にか商会の将来構想に飛んでいるわたしに向かって、オルフェンズが滔々と語る様子を、ヘリオスとハディスが胡乱な目で見ている気がする。ぱっと振り返ると、ヘリオスとハディスは揃って苦笑する。


「バンブリア嬢!今のオルフェンズ卿の話が事実なら……いや、事実なのだろうが俄には飲み込めんが。その様な転生を辿った人間が存在することも信じられんが……その……国を継ぐ身としては確認しておきたく、だな」


 何やらアポロニウス王子がごにょごにょ言い始める。


「いや、だから何でセレに頼むかな?可愛い甥っ子一人くらい僕が運ぶよ?」


 ハディスが黒い圧を纏った笑顔で王子に詰め寄る。けど、まぁ、王子の言いたいことは分かった。青龍に乗って、上空から確認したいと。わたしも転生云々の話が出た後でオルフェンズから出たその話がとても気になっている。


「けど、だとしてもわたしかポリンド講師が青龍に乗らなきゃ、動きの指示は出来ないんじゃないですか?それに、今まで以上の高所に行くのでしたら念のため発生源のポリンド講師も同行願った方が良いと思うんですよ。高所恐怖症だっていうのがネックになりますけど」


 だから、わたしがポリンドを運ぶ必要があると説明すると、それぞれが黙り込んで思案顔になった。


「兄上?ここはおとこを見せて自力でご同行願いたいんだけど」

「はぁ!?おまっ……私にあんな肝が冷えて、目も眩んで、頭がクラクラする場所へ一人で!落下の恐怖に慄きながら!付いて来いって言うの!?」


 王弟2人が必死の攻防を始めた。


「だとしたらやっぱり、ポリンド講師はわたしが運ぶことになるんですよね」

「「「えぇぇ!??」」」


 色々声が揃った。多分、オルフェンズと王子以外全員分くらいじゃないかなと思う。オルフェンズは上空へ行くことに興味が無いだけで、アポロニウス王子はそんな結論になることが分かっていたんだろう。だから、王子の計画では、わたしが王子を同行し、ハディスにポリンドを同行させようとしたってところか。王子とオルフェンズの組み合わせが不味いことはさっきで実証済みだしね……。


 そんな訳で『フージュ王国峻嶺観察ツアー~青龍に乗って~』の参加者は、わたし、ポリンド、アポロニウス王子、ハディスの4人になった。

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