第77話 わたしを王城へ入れない様にした「想い」に感謝したくなった。
オルフェンズの短刀による連撃をものともせず、意外な打たれ強さを見せたムルキャンは、もしかするとまだ幼木だけれど、意外な活躍をしてくれるかもしれないし。だからとにかく、オルフェンズの、味方攻撃は止めさせなきゃ。この場で戦える人が協力して立ち向かわないと、手強い
そう意気込んで振り返ると、辺り一面にチカチカと輝くピンクの欠片が現れ、その光る花弁が兵士達の中を桜吹雪の様に舞う。その様子に反応したのか大ネズミが頭から飛び降りて、舞い踊る欠片と共に何処からか現れた緋色の小ネズミを率いて駆け回ると、膂力の紅色の魔力が桜吹雪に溶け合って、兵士達を包み込んで行く。
「桜色の稀有なる魔力の煌めきを、貴女が信じる者達に振舞われるのですね。まぁ、良いでしょう。受け取った者達がどれだけ力を引き出すことが出来るのか、無様ながらに舞う姿を愉しませていただきましょう」
オルフェンズが協力を決めたのは、わたしの説得とかじゃなくって、目に見えて発現した桜色の魔力のお陰だったみたい。物語のヒロインみたく、説得出来たりはしないのね……プレゼン能力がないみたいで、ちょっと挫けそう。
けど、
「なんだ、力が沸き上がって来る……!」
「身体が熱いぞ!?」
「剣が軽い、どうなってるんだ?いや、これが継承者の使う女神の加護の魔法か!」
自分たちの身に起こった変化に気付いた兵士達が、尊いものを見る目を向けて来るけど残念ながら力が増したのは大ネズミこと、ハディスの魔力のお陰だ。わたしはそれを強化しただけ。だから訂正しておく。
「遠く離れた地から、女神の神器『火鼠の
少しでも後押しする力になりたくて、兵士達を見回しつつ笑顔を向けると、再び桜色の輝く欠片が舞い散るのが視界に映る。
「さすが桜の君。美しいですね」
オルフェンズが感嘆のため息と共にぽつりと呟くけど、そんな凄いものじゃない。強化する
「ハディスが居てくれなかったら、何も出来てないわ……」
桜吹雪に交じった紅色の輝く魔力を悔しく眺めつつ、ぽつりと言葉を零すと、ひやりとした空気が傍から漂う。
「あの赤いの……居ない時まで桜の君のお心を煩わせるとは、どこまでも邪魔な奴」
「え!?オルフェ?ちょっと勘違いよ?ハディスが邪魔をしてるから何も出来ないって話じゃなくって、居てくれるから頼りになるって話よ!?」
「なら、尚のこと許せない存在だということになりますね。桜の君は足掻いてこそ美しく輝くと言うのに……」
陶酔するようにうっとりと囁かれた台詞は到底許容できるものじゃない。
その理屈で行くと、わたしはいつまでもオルフェンズを愉しませるために、何かしらの苦労を負い続ける事になってしまう。
――そっか……だからこその、いつものスパルタ対応なのね。
思わず遠い目になってしまうのは仕方ないだろう。わたしとしては、どこかの物語の
いつかの婚約破棄の場で、このオルフェンズに湖に沈められた時に思った通り、自分が鬱アニメの主人公なら苦労の連続もあるだろうけど、そんな転生していないと信じたいわ。
「女神様が我らの味方となっているぞ!怖気付くな、町を守るぞ!!」
「「「「「「おぉぉぉ――――――っ!!!」」」」」
兵士達の気合の入った声が響き、ようやく兵士たちが闘志漲る様子でベヒモスに対峙し始める。
ようやくまともに動き出した戦場の様子に、ほっと胸を撫で下ろしつつ、始まった戦闘への不安に、思わず胸の前で両手を組んでギュッと握りしめる。
魔力を渡して、煽った様な事にはなっているけど、内心は不安で一杯だ。誰にも傷ついて欲しくないけど、放っておけば強力な魔物や
そんな風に考えたら、少しだけ、ハディスが月の忌子騒ぎが広がった後に、わたしを王城へ入れない様にした「想い」に感謝したくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます