第76話 お願いオルフェンズ、協力して―――!!
まさかの発言に素っ頓狂な声が出た。魔力なんてムルキャンに渡した覚えは全くない―――いや、待って?確かさっきトレントの天辺を撫でたら妙な反応をしてたわね?
「もしかして撫でた時?」
「そうだ!その時だ!!それ見たことか、よくも我をたばかったなぁぁ!?」
勢い込んで攻め立ててくるムルキャンは、相変わらずベヒモスの足に絡み付いたまま振り回されている。
「いやいやいやいや!渡した覚えなんてないわよ?」
「嘘を言え!我はしかと受け取ったぞ!!お前が周囲に撒き散らしているピンクのモノを!」
ムルキャンの声を聞き取った兵士達が、ぎょっとしたように振り向くから居たたまれない。
「怪しげな言い方しないでくれる!?それって貴方が勝手にわたしの魔力を取り込んだってことでしょ!」
「なにを言う!我の半分、いや意識以外は魔物と同じものだと云う事を忘れたか!さすれば我は、そこに魔力が有れば吸収する。当然であろう!!」
いや確かにそうだけども……。まさか堂々と魔物宣言されるとは思わなかったわ。一応王命で各地域へ配属されるムルキャンの事は『
「貴方、わたしの事どっちかって云うと嫌いでしょ?!なのに何で吸収してんのよ!!」
「それとこれとは別だ!!継承者達の魔力は特別に旨い……ひぃぃっ!」
突然、空を切る気配がすぐ側に起こったと思ったら、悲鳴を上げたムルキャンの眉間にあたる部分に、見慣れた短刀が深々と突き立っていた。
どうしよう……後ろから漂ってくる殺気が怖くて振り返れないわ……。
「我が君へのそれ以上の暴言は聞き捨てなりませんねぇ」
聞き慣れたテノールと共に、背後から長いガッチリした腕がのびてきて、両肩を抱きすくめられる。けどこれはいつものバックハグじゃない。
「オルフェ!ちょっと、短刀剥き出しで危ないわ!って言うか、これじゃ貴方がわたしを人質に取ってる格好でしょ!?」
現に周囲の兵士達の中には、こちらに向かって戦闘体制を取っている者も居る。この兵舎には、継承者候補として名乗った上で視察に来ている。だから、味方であり心強い戦力であるわたしを不審者から守ろうとしてくれているんだろう。しかも、オルフェったら、国王から防衛戦力として派遣されてるムルキャンに攻撃しちゃうし。
「あぁ、これは失礼いたしました」
言いながら気軽な調子で投げ捨てた短刀は、再びムルキャンの眉間に飛んで、先に刺さっていた短刀の柄に追撃を加える。柄はバキンと甲高い音を立てて
「おぉぉぉぉぅお前ぇぇぇえ!!!」
チビトレントが怨嗟の声を上げている気もするけど、そんな事より国王からの配備戦力が戦闘不能になってなくて良かったわ。
「良かった!さすが生成ね、人の理を無視する
「んなっ?んむっふぅ、それほどでもあるな!」
相変わらず鬱陶しがって振り落とそうとするベヒモスに、ガッチリと絡みついたまま、枝葉を揺らしてバサバサ音を立てているムルキャンが身体……いや、幹を反らせるのは得意げにしているのか……。
単純ね、と呆れていると「ちっ」と苛立たし気な舌打ちが至近距離から響く。
「桜の君、尊く眩き光を餌としか捉えぬような下等生物は始末しても良いのではないですか?あの通り取り付くだけしか能の無い魔物、居なくなってもさしたる障りは無いでしょう?」
『ぢぢ!』
頭の上で大ネズミまでがオルフェンズに同意してるわ。んもぉ、
身体強化で腕の力を目一杯上げたわたしは、鎖骨の下でクロスするオルフェンズの両腕を引き剥がしてくるりと振り返る。背後にくっ付いていたから、超至近距離に現れたアイスブルーの瞳が驚きで微かに見開かれるのが分かる。
「オルフェ、魔物にはムルキャンは有効よ。ワイバーンと互角に戦ってるのを見たもの。だから、今も出来るだけあいつに力を貸してみたいと思う。適材適所よ!それに加えて、いつもしっかり訓練している兵士の皆さんにも存分に力を奮ってもらえたら、こんな心強いことはないわ!わたしは皆さんの事を信じて応援しているから!きっとやれると思うわ!」
取り敢えず、わたしが見ている前で被害が出るのは嫌だから、一番効果のありそうなことに協力したいと思うのよ。お願いオルフェンズ、協力して―――!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます