第74話 恋愛脳のお花畑と、国防の義務は両立できるのか?
恋愛脳のお花畑と、国防の義務は両立できるのか?
あれからちょっぴり悩んだけど、頭で考えても具体的状況は何も変わらないと結論付けたわたしは、先駆者の意見を聞くことにした。
「そこのところ貴方はどう思ってるのか聞きたいのよ」
「小娘ぇ~~。そんな下らぬことで私の崇高な時間を邪魔するとは、やはりお前は我とはとことん気が合わぬらしい……」
屈んでちょうど目の高さに来るトレントの幼木に現れたおじさん顔に、恋愛相談をするこの混沌とした状況よ。けど、背に腹は変えられないわけで。
「わざわざこんな町外れに来てまで我に相談するしかないとは、お前もとことん友に恵まれぬらしいな~~。少しは我が主の魅力を見習ってはどうだ~~」
「いや、あれは魅力じゃなくて魅了だから」
即座に否定するけど、友云々に関しては否定出来ない……。国防と恋愛について、誰か先駆者に相談しようとしたとき、思い付くのがこの目の前の
わたしは今、王都からカヒナシの中間に在る中規模な町に来ている。わたしの足なら朝早くに出発すれば日帰りで戻れる距離だ。王城へ行くのは今日はお休みして、自分の恋愛相談に充てることにした。護衛……?大ネズミが頭の上に居るし、多分オルフェンズもどこかに居るんじゃないかなー……。
中規模な町とは言え、昨今の魔物や
その事は知っていたけど、まさかわたし自身、自分から会いに来ることがあるとは思っても見なかったわ。
「あのね、わたしだってまさか貴方に相談する事態に成るなんて思ってもみなかったわよ!?けど、国防と恋愛を天秤にかける相談なんて、そんなの貴方以外に考えた事の有る人居ると思う!?」
「ほっほぉ――う?小娘がなぁーにを生意気な事を抜かす。国防を天秤にした愛などと、身の程を弁えぬ戯言を囀るか~!はっ」
どうしよう、めちゃくちゃ苛々する。
相談相手間違えたかしら。
「けどな、我はイシケナル様の為にのみここに在る。我が君を護る為にならばなにも惜しくはないし、国など必要ない。我と我が君だけのために、我は動く」
想像通り過ぎる答えに呆れるどころか、むしろ清々しいのは迷いが無いからだろう。
「さすがね。むしろ悩むわたしが馬鹿みたいに思えちゃうわ」
「むっふぅ、小娘の分際で悩む頭が有ると思うことがそもそもの間違いだ。我が君の素晴らしきお姿を思い浮かべれば、愛などと云う言葉で片付けられるモノがどれだけ矮小で下らぬものか分かろうと云うものだ。ほっほっほぉ―――ぅ」
勝ち誇った幼木トレントには、愛らしさの欠片もないけど、取り敢えずありがとうの意味を込めてワシワシと頭と思われる枝の先端を撫でておいた。
「んなっ!?我の崇高な思索の詰まった頭に触れるとはこの、礼儀も知らん小娘がぁ――――……あ?」
ムルキャン・トレントは、怒っているのを表すように、小枝をザワザワと震える様に小刻みに動かした次の瞬間、何かに気付いたかのように急に表情を固めて静止した。
「何よ?ちょっと、何かあったの?」
「お前ぇぇ~……。確か継承者候補だとか言われていたなぁ?」
何があったのかは分からないけど、信じられないモノを見る目を向けてくる。初めて占術館であった時以来、ムルキャンにそんな風に見られるのは何度目か……。わたしを危険物みたいにでも思ってるのかもしれないわねー。
そう結論付けてふぅ・と、息をついた瞬間、ザワリとした嫌な感覚が急に全身を包んだ。
カンカンカン カーン
カンカンカン カーン ……
同時に、今居る兵舎の物見櫓から激しく警鐘を打ち鳴らすのが聞こえて来る。
「小娘、お前が現れるとロクなことが起きぬなぁぁ――」
恨みがましい視線を向ける小生意気な幼木に、言い返したくもあるけど、ビリビリと肌を刺激する嫌な気配は治まるどころか強まる一方だ。それによって否が応にも危険が迫っていることを思い知らされてしまい、口喧嘩をしている場合ではないとぐっと口を噤む。
兵舎の中が急に騒々しくなり、武装した人々が動くガチャガチャという音が響く。兵士たちの焦った声はすぐに怒号へと変わり、事態の急変を悟ることとなった。
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