第70話 放っておいたらどんな事になるか思い知らせてやるんだから――――!
エウレアを含む、フージュ王国外縁に聳え立つ峻嶺。その外側に土地を持つ辺境の領では、
けれど、今のところ過去の資料に遺されていたように一体の魔物によって幾つもの町や村が消える事態は起こっていない。
その被害を最小に留めているのは、神器の継承者達による魔力での援護の力だった。
連日のように『火鼠の
『燕の子安貝』継承者に魅了された
中でも、『仏の御石の鉢』の持久・持続力を上げる黄色い魔力を、聖水として利用した時と同じく瓶に詰めた物が各地で注目を浴びていた。戦闘に関わる者達に滋養強壮ドリンクとして供されたその黄色い飲料水は、程よく味も調えられており、嗜好品としても是非取り寄せたいとの声が上がるほどであったが、その製造を一手に引き受ける
国王は執務室に積み上げられた報告書をパラパラと捲り、そこに記された各地からもたらされる継承者の活躍についての報告を楽し気に読んでいる。
「満足ですか?貴方達の施した仕掛けがまんまと後世の人を動かし、効果を上げた事が。」
「不満がありそうだな?だが、やらないという選択肢を奪った覚えもないぞ。現にオルは動く気は無いのだろう?」
棘のある言葉に動じることなく余裕の笑みを返す様になった国王に、オルフェンズは面白くなさそうに「ふん」と鼻を鳴らして視線を逸らす。
あれから、数日。わたしとオルフェンズは、アポロニウス王子の希望と、継承者及び継承者候補は緊急時に付き王城へ詰めて欲しいとのデウスエクス王からの要望で、バンブリア邸から国王の執務室へ日参する事になってしまった。とは言え、今まで気が進まないとふらりと隠遁してしまっていたオルフェンズも、ツンとした態度を取りながらではあるものの、暇さえあれば国王の側に居ることが増えている気がする。反抗的な態度を取りつつも、意志だけが再現されているとは言え、生死の壁で別たれた二度と逢えないはずの父親が気にならないことは無いんだろう。
その微妙な親子関係に対抗しようとしてか、わたしたちが居る間は必ずアポロニウス王子も同席している。なかなか混沌とした時間だ‥‥。
オルフェンズの心が少しでも癒されると良いな―――と思いつつも、わたしは今、とっても気持ちが荒んでいる。魔物対策グッズや、取扱業者極秘と伏せつつバンブリア商会で製造している黄色い飲料の評価が上がり続けている今、商会目線では左団扇で上機嫌になることはあっても、荒むなんてことは無いはずだ。それでもじれったい気持ちが募ってゆくのは、認めたくは無いんだけど未だ連絡一つ寄越さない赤髪の自称護衛のせいだ。
「戻って来て言い訳の一つでもしてくれれば気も晴れるのに‥‥。」
王妃から、ハディスがわたしを王城へ入れない様手を回したと聞いて以来、モヤモヤは増えている。
「大体、主人未承認の押し掛け護衛だし、やることだって事前報告だけすれば自由に何でもやって良いってゆるゆるの業務規定よ?けど、それすら守らないって、それって主従も何もないでしょ!報告無しがわたしのためだと思ってるなら間違いだって解らせてやるわ!!」
べしんっ、と勢い良くローテーブルの上に紙束を置いたわたしに、国王がぎょっとした視線を向けてくる。
「君は、苛立ちが原動力に成るタイプかね。」
「切っ掛けはいつでもどこでもがモットーです。苛立ちも感動も全部商品開発に昇華すればスッキリします!」
わたしは怒っている。
過去に例の無いくらいに、多数の出現が報告されている
「何が、覚悟しておいて‥‥よ。」
ぽろりと唇から零れ出た言葉は思った以上に低くおどろおどろしく響いて、アポロニウス王子がぎょっとして振り返っている。
――言うだけ言ったらあとはケロリと忘れた様に塩対応なんて身勝手過ぎよ。大人しく待ったりしないって言ったんだからね?放っておいたらどんな事になるか思い知らせてやるんだから――――!
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