第2話 ヘリオスってば、わたし相手限定の反抗期なの!?
ヘリオスが部屋に引き籠った。
何でか理由はわからない。学園生活も、彼のライフワークである商品研究も問題なかったと思う。
「セレネが何も聞いていなくて、テラスも商材仕入れの同行を断られているみたいだし‥‥これで部屋に引き籠って1週間よ?食事はしているみたいだけど、本当にどうしたのかしら。」
「私は何となく分かる気がするな。一人の男としてヘリオスは自分の志のために譲れないものがあって、それを果たすために必要な時間なんだよ。何か物音がずっとしているし、気にする必要は無いんじゃないかな?ですよね、ハディス様。」
「あー‥‥えぇ、そうは思いますが。」
わたしの隣でハディスが分かりやすく困惑しているし、実を言えばわたしも引いている。
「お父様、お母様、取り敢えずヘリオスの部屋の扉に片耳を当てながら話すのは止めませんか?わたしも心配でここに来てるんですけど、さすがに引‥‥驚きます。」
思い返せば、ヘリオスのちょっとした変化なら無かったわけじゃない。最近特に撫でさせてくれなくなったし、天使って言うと怒る素振りを見せるし。
「そう言えば、この前の文化体育発表会の後もちょっとおかしかったわよね。わたしの優勝記念の金のペンダントを見て溜息をついたり、ハディス様に早く強くなるにはどうしたら良いですか?なんて、自分も剣術で優勝しているのに聞いていたわよね。ヘリオスったら、ちゃんと強いのにおかしなこと言うわよねー?どうしたのかしら。」
強いて言えば、わたしが金のメダルを取ったことが気に入らないような、そんな雰囲気をほんの少し感じたくらいか‥‥?
ガチャッ
「「わっ!!」」
勢いよく開く扉に押された父テラスと母オウナが尻もちをつく。突然顔を出したヘリオスがぎょっとして父母を見、わたしを強く睨んで‥――え、何で?
「僕はお姉さまには負けません!いつまでも頼りなくお姉さまに助けられるばかりの弟だなんて思わないでくださいっ!!見ててください、きっとお姉さまをギャフンと‥‥いえ、見直させてみせますからっ!!」
びしりと指さされて宣言された。ハディスや父母はそれで何か伝わったらしく苦笑していたけど、わたしだけが首を傾げて取り残されている。
バンッ
言うだけ言ってヘリオスは、すっきした様でもなく、憤慨したようにフンッと強く鼻を鳴らすと、出て来た時と同じように、勢いよく扉の向こうに戻ってしまった。
オルフェンズは「桜の君の威光に怯むことなく立ち向かう気概は、さすが弟君ですね。」なんて訳のわからないことを言ってるし。
何なの!?ヘリオスってば、わたし相手限定の反抗期なの!?やだぁぁ―――。
ショックのあまり無言でとぼとぼと自室に戻ったわたしに、ハディスが苦笑しながらポンポンと頭を撫でて来た。
「セレネ、同じ男として言わせてもらえば、ヘリオス君も15歳でまだ少年ぽさも残ってるけどさー、1ケ月の間とは言え、一人で残って取り組んだカヒナシ領改革もしっかり成果を残して帰って来たし、武芸の面でも結果を出してきたのに、いつまでも子ども扱いや天使扱いされるのは、辛いものがあると思うよー?」
「そうかしら?ヘリオスはどうなっても、何歳になっても、わたしの弟だって事は変わらないのよ?」
「けど、ヘリオス君はセレネを尊敬できるライバルの様にも捉えていると思うんだよね。それで、関係性を変えたいと努力しているのに、君からは変わらず子ども扱いされるのは辛いと思うよー?」
「そうは言われても弟は何歳になっても弟で、弟は可愛いに決まってるのに。」
けど、確かに最近のヘリオスにはあからさまな弟扱いをことごとく嫌がられている気がする。せっかく可愛い弟がいるのに、素直に可愛がることも出来ないなんて、なんて拷問なの!?どれだけ大きくなっても護ってあげたいって思うじゃない。
「護衛も桜の君にとっては護るべき者なのでしたね。」
「そうね。まぁ、貴方たちにとってはわたしの力なんて必要ないくらいでしょうけど、でもそれは貴方達がどう言ったところで変わらないわたしの信念みたいなものだから、こればっかりは諦めて欲しいかな?大きなお世話焼きでごめんなさいね。」
オルフェンズは黙っていつも通りの薄い笑みを浮かべていたけれど、いつもよりも少し嬉しそうに目が笑んでいる気がした。けどハディスは、憮然としてしまい「いいけどさー。」とかブツブツ言っている。かと思えばわたしの左手を流れる動作ですくい取って唇を寄せた。
「セレネが護りたいって思うのと同じくらい、いや、それ以上に僕は君の身を大切に思っている自信があるからね。」
きゃぁぁぁ――――!!ちょっと、どさくさに紛れて何やってくれるの!?今、唇触れたわよね!?ちょっとオルフェ!なんで黙って見てるのよ!?あ、もう短刀投げた後だったのね。もうもう、こんな時に混乱させないで―――!
背後で響く近接戦の音を耳にしつつ、わたしは熱くてたまらない顔を両手で覆って項垂れた。
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