第37話 ないないないない!これは絶対癒しじゃないわ!!
ハディスと話していたのは、『仏の御石の鉢』の継承者ミワロマイレ・アッキーノ大神殿主の黄色い魔力を悪用された占術館騒動の時の事だ。決して楽しい思い出なんかじゃない。――けど。
「何処かへ一緒に出掛けた時の思い出の話かい?」
「思いっ‥‥!!」
思ってもみなかったスバルの言葉に真っ赤になったわたしを見るスバルの目の生暖かさよ‥‥いたたまれない。ハディスも否定もせずに無言になっているし。
「ふっ‥‥2人じゃないわっ。オルフェも一緒にいたもの。」
やっとのことで声を発したわたしは、黙したままのオルフェンズへ視線を向ける。ハディスにはとてもじゃないけど真っ赤になった顔なんて向けられない。
あの時の事を思い出すと、オルフェンズの消え方はとても不自然だった。王都警邏隊が占術館へ踏み込んで来てすぐに、わたしの背後から気配を消してしまったんだもの。狭い占術館通路からうまく隠れたものねーなんて思っていたけれど、今となっては、魔力を使って隠遁したんじゃないかと思う。
「気付きましたか?そうですね、桜の君の
とってもイイ笑顔が返って来た。うん、そんな気はしてた。ぶれないオルフェンズはそうなんだろうって想像が付く様になってしまった。
「ムルキャンの強力な魔力に追い込まれた状況で、セレネ嬢が切り抜けるのを黙って見ていたんだー?」
「今ならば、悪戯に桜の君の輝かしき御力を衆人の眼に触れさせるような真似は致しませんけどね。しかもあの黄色は自身の魔力ですら無かった。そんなもので自らの色の魔力を持つ者がどうこうされるはずはありません。追い詰められる事もあるかもしれませんが、必ずや煌々たる輝きを放つ大輪の花を咲かせるでしょうから。」
成程?オルフェンズはなかなかのスパルタ教育主義の様だ。わたしは褒めて育てて欲しいんだけど。
ハディスもげんなりと肩を落とした。うん、オルフェのお陰で顔の熱いのが引いてちょっと落ち着いたわ。オルフェが癒しなのかしら?と、その表情を眺めていたら薄い唇が妖艶に弧を描く。
ないないないない!これは絶対癒しじゃないわ!!
いや、それよりも、やっぱり一人でひっそりと隠れていたのね!?
「あの時は大変だったんだよー!?居たんならちょっとくらい出て来てくれても良かったんじゃないのぉ!?」
「そうです!見えなくなったままで――あんな訳の分からない魔力が
ふんすっと、鼻息荒くオルフェンズに人差し指を突き付けると、アイスブルーの瞳がきょとんと瞬き、笑みを象っていた唇がぱかりと僅かに開く。何で?と首を傾げると、やがて冷たい色の瞳が柔らかに緩んだ。
「やはりあなたは面白い。」
「いや、銀のが特別扱いなわけじゃないからね!?」
「ふっ。」
「ちょっとぉ!?」
仲良き事は美しき哉。やっぱり皆元気で一緒にいるのが癒されるわー、とニコニコしてたら、スバルに「護衛殿は苦労するな。」と苦笑された。うぅん?主人のわたしが護る話なのに何で?
「騒がしいな。」
イシケナルが護衛達を引き連れて、遠見櫓の足元に姿を見せた。シンリ砦の衛兵からの報告では当然この森の惨状について、何か伝えられているのだろうと思っていたが、紫紺の頭がぐるりと周囲を見渡し、明らかに眉根を寄せたのを見て取ったわたし達は櫓を降りて彼等のもとへ向かう。
「何故に私の領地が『仏の御石の鉢』の色にこれほどまでに染まっている‥‥?」
愕然とした不機嫌な呟きは、ここへ彼が訪れるまで何も知らなかったことを表している。
「一体どんな報告を受けたんだ?トレントの騒ぎからまだそんなに日は経っていないだろ?当然、監視を強化すべきところなんじゃないか?」
「言われるまでもなく当然そうしている。」
トレント討伐に加わったハディスが険しい表情でイシケナルに詰め寄る。確かに、あの巨大なトレントの群れを実際に見て、しかも対峙した者なら、この短期間で気を抜くなんて有り得ない話だ。けれど、監視を強化しているにもかかわらず、こんな明らかな異常を見逃していたのか、それとも、本当にごく短時間でこんな状態になったのか‥‥?
イシケナルへの報告を終え、ここまで同行して来た砦の衛兵達が、不安げに視線を交し合った。
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