第14話 そんなことを言ってた時もありました。
歌劇の準備・練習時間終了を告げる鐘が鳴り、教員が授業の終了を告げる。
特別講師ポリンドは、まだまだ演技指導を付けたがっていたみたいだったけど、他の教員や、誰かさんによく似た、威圧を乗せた笑顔を浮かべた王子によって止められていた。
ポリンドから解放された王子とギリム、それに何人かのご学友達が講義室へ戻る道すがら、デザイン画を片付けるわたしの手元を覗いて足を止めた。
「随分斬新だが不思議な魅力のある衣装だな。商会の衣料品・装飾品部門にもバンブリア生徒会長のアイディアは数多く採用されていると聞き及んでいるぞ。この発想はどこから来るのか、実に興味深いな。」
うん、やっぱり近くでそのご尊顔を見れば、幼さを残しつつも整った綺麗な顔立ちだし、勿論動きの一つ一つも王族としての教育の賜物なのか、とても美しく隙が無い。傍のギリムもわたしに向ける表情は基本
「今回は特に乙女の原動力がいい具合に味方してくれました!」
「?」
はっ!まずい、つい心の声がこぼれ落ちたわ。ほら、王子がにっこり笑ってるけど、何言ってるのかな?って笑いよきっと。ちょっと落ち着こう、こほん。
「副会長、お褒めいただきありがとうございます。出演者の皆様の魅力を
一気に言うと、アポロニウス王子は一瞬ポカンと目を見開いてわたしを凝視し、次いでふわりと綻ぶように笑った。反則みたいにキレイな笑いだ。
「そうか、期待させてくれるか。無駄ばかりかと思っていた学生のこんな空気も、存外悪くはないものだな。父上の言っていた事が――同世代の令息令嬢と関わりを持つ事が、私の実にもなると仰った意味が少しだけ分かって来た気がするな。」
王子は、どこか嬉しそうに、しみじみと呟くから、王族も色んな気遣いがあって大変なんだろうなぁなんてしんみりしていた。――のだれど、そこへ他の教師の制止を振り切ったポリンドが大股でにこやかに近付いて来た。
「王子サマー!学生の気分をもっと満喫したければ、私がもっと演技指導という学業をみっちり教えて差し上げますよー。いつでも何処でも、気軽にお声掛けくださーい。可愛い子猫ちゃんが頼んでくるなら喜んでお相手しちゃうからねっ。」
「ポリンド‥‥あぁ、講義の時間は是非頼む。」
何故かうんざーりした表情で、講義以外の関わりを拒否した王子だったけど、ポリンドはめげないのか、強心臓なのか「お待ちしてるよ。」などとウインクしている。一瞬「不敬」なんて言葉が浮かんだけれど、学園のなかでは「身分を問わず平等な関係の中 互いに切磋琢磨し高め合い 将来の国を担う人脈と知識を身に付ける」だった。臨時雇用の演技指導者にもそれが適用されるのかは甚だ疑問だけれど、他の教員が止めないのならば問題ないのだろう。多分。
戻った教室では、スバルが表情を曇らせていた。
「ごめん、セレネ。課題がまだ出来ていないけど、多分、領地に帰らなければならなくなりそうだ。」
「え・どうしたの?何か良くない事でも起こったの?」
「はっきりしたことはまだ分からないけど、ついさっきの教室移動の時、偶然エクリプス辺境伯家の遣いが王城の方へ向かうのが見えた。きっと、何か不測の事態が起こったんだと思う。」
ちなみにスバルが目にした『エクリプス辺境伯家の遣い』とは、書簡を運ぶ大型猛禽類の飛行する姿だろう。王家や辺境伯爵のみが持つ、魔導師が自身の魔力を与えて意のままに操る動物使役職の放った動物は、魔導師の魔力を纏うため、魔力の色が分かるような魔法適正の高い一部の人間には離れて見るだけでどこの持ち物かなんとなくだけれど、分かるらしい。この世界では最速の通信手段だ。緋色ネズミの方が速いのは内緒だ。
稀少な通信手段を使わなければならない急使が運ぶのは悪い知らせばかりでもないんだろうけど、確かに嫌な予感はする。
「気にしないで。英雄スバルが領地でどれだけ頼りにされているか知っているつもりよ。学園の事は商会仕事でのんびり王都に留まっているわたしに任せて!」
そんなことを言ってた時もありました。
バンブリア邸に帰宅したわたしが、父母揃っての夕食の席で聞かされたのは、郊外の領地から王都へ向かう商会の輸送車が、最近たて続けに魔物に襲われている、と云う由々しき知らせだった。
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