第19話 違和感有り有りなんですけど!?
正直に言うと、わたしは1年ほど前、確かに新種トレント刈りにハマっていた時期はある。冒険者ギルドも依頼が解決されて助かるし、わたしも自己鍛錬と新素材収集と小遣い稼ぎが同時に出来てしまう美味しいクエストだったから。けどほんの短期間しか
「あぁ!布で口元を隠した不健康そうな人なら、確かに見たわ。けど、その人なら手を貸しはしたけど
母オウナと、ハディスそしてついでに言うなら幼い頃からわたしを知っている商会の面々までもが、疑わしげな視線を向けてくる。
「ほんとよ?わたしだってバンブリア商会の看板を背負ってる自覚はあるんですからねっ!」
失礼ねっ!と反らした胸を力強く握り拳でドンと叩く。
「けどセレネ‥‥あなただから、ねぇ。」
「無自覚だからねー。」
「恨みと言えど、憎悪の念を抱くばかりが恨みではありません。
思いがけないテノールの静かな声音に、ため息をつかんばかりだった母とハディスがぎょっと目を見開いてオルフェンズを見た。けれど彼は相変わらずの薄い笑みのまま、わたしをじっと見詰めている。
「つまり、理由はともあれ不健康な覆面男がヘリオスを
ふむ。犯人の目途はついた――と。
「セレネ嬢‥‥そう云うところだよー。」
ハディスが何か言っているけど、今大事なのはヘリオスの事だから取り敢えず会話を遮ってしまった形のオルフェンズに向かって「ごめんなさい。」と謝っておく。すると、母とハディスが更に目を剥く。
え?何かわたしまずいこと言った?!謝っただけだよ?
「じっと恨みを募らせる慎み深さはとうに薄れましたから。」
いつもより幾分低い呟きを漏らして笑みを深めたオルフェンズに、何故かゾワリと背筋に悪寒が走る。言葉の意味は分からない。けれど聞いてはいけない気がするし、理解してもまずい気がする。かと言って、オルフェンズとの関わり方を変えるつもりもないから「そう。」とだけ返しておいた。
さて、気持ちを切り替え、1年前の出来事を見知ったもう一人の力も借りられた事だし、ここで一度情報をまとめようじゃないの。
「不健康な覆面男に遭った場所は、王都に近いカヒナシ地方の深い林の中だったわ。大きな湖が綺麗な場所だったと思う。あの時は沢山の冒険者や旅人がトレントの被害に遭っていたけど、覆面男は旅装も何もなくて、使用人や表や影の護衛を沢山引き連れていたと思うわ。それで――あぁ、思い出した。あんまりぽっちゃりしていて不健康そうだったから、
すごいわ!解決が一気に近付いた気がする!
「セレネ?もしかしなくても、商品説明は今言った通りの内容を相手に伝えたのかしら‥‥?」
「えぇ、勿論よ。不健康さんでも簡単にできる運動器具っていうのが一番のアピールポイントですもの!間違えるわけないわ。」
頭痛を
「閣下、なんだかとても嫌な予感がするのですけれど、覆面を付けた貴族で、王都のお膝元のカヒナシ地方へ影の者を大勢引き連れて歩いても、謀反を疑われないような家って‥‥幾つかありますでしょうか?」
「手掛かりに『覆面』が無ければ、他の候補もあったけどー。まぁ言い難いけどバンブリア男爵夫人の思い当たった人物で間違いないと思うよ。」
勢いよく頭を上げた母の顔は真っ青だ。
「本当なら紫は無害な引きこもりだったはずなんだよ。なのになんでこんな派手な方法で君たちに関わる気になったのか、こっちが聞きたいくらいなんだよねー。けど、ヘリオス君に危害を及ぼすような真似をさせないためにも、尽力はさせてもらうよ。」
ハディスや母は、既に犯人が誰なのか分かっているような口ぶりだ。わたしは実際に遭ったことが有るにも拘らず、未だ正体に思い当たる事が出来ないのだけれど。
「ハディス様、誘拐犯の正体が分かったんですか?教えてください!」
詰め寄ると、ハディスだけでなく母も困った様子を見せる。どうして?と首をひねるわたしに、
「ここで紫の魔力を使ったのは、恐らくイシケナル・ミーノマロだと思う。ミーノマロ公爵、その人だよ。身体が弱いから、滅多に姿を見せないと言われている。フージュ王国先代国王の姉を祖母に持つ権力者だ。」
えぇ!?あのぽっちゃりさんがまさかの公爵だなんて!しかも魅了使いって、違和感有り有りなんですけど!?
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